富士フイルムホールディングス(HD)<4901> は子会社の不適切会計処理によって、375億円の損失を出したと発表。従来の累計220億円から375億円に拡大したかっこうだ。傘下富士ゼロックスの海外販売子会社の不始末で、責任を取って富士ゼロックスの山本忠人会長が今月22日付で退任、富士フイルムHDの古森重隆会長が兼任することも明らかにした。

富士フイルムHDの助野健児社長は会見で、「株主に心配かけたことおわびする」と陳謝。「富士ゼロックス内部と富士ゼロックスから富士フイルムHDへ情報伝達の仕組みがうまく機能していなかった」と釈明した。

豪州、NZ子会社で不正処理発覚

不正会計
(写真= TK Kurikawa / Shutterstock.com)

問題の子会社は、富士ゼロックスのニュージーランド(NZ)、オーストラリア(豪州)両販売子会社で、その不適切な会計処理で2010年度から15年度までの6年間の過年度修正額だけでも375億円に上ったという。事務機器販売と保守サービスの売り上げ計上や料金回収に関連する不適切処理だった。

NZでは、コピー機のリース契約に関連するビジネスで、要件を満たした顧客向け販売に基づく会計処理で、要件を満たさない顧客にも適用した。その結果、「コピー量がターゲットに届かず、債権が回収できない取引が多数発生、常態化していた」(助野社長)と語った。

その後、4月に発足した第三者委委員会の調査で、豪州子会社でも「NZと類似した事象が確認された」(同社長)という。いずれも子会社の中堅幹部であるマネジングディレクターの指示で行われた。

全社的に広がった売上高至上主義

今回の不祥事の責任を取って、山本会長ほか吉田晴彦副社長ら役員5人が退任する。富士ゼロックスの栗原博社長は留任するが、報酬20%カット3カ月と賞与30%がカットされる。この処分について助野社長は「事業を停滞させないため」と説明した。不祥事の背景には、弁護士らで構成する第三者委員会が公表した調査報告書によると、「売上高1兆円への回帰 もう1丁(兆)やるぞ!!」との社内目標が示されたように、行き過ぎた売上高至上主義が根本にあると指摘された。

不正処理は例えばこうだ。コピー機のリース契約時に利用想定量を水増し、契約満了時に過去の売り上げを新たな売り上げとして計上した。マネジングディレクターが不正に走った背景には、過大なインセンティブを設定したり、固定給を抑えボーナスを振る舞ったりする報酬体系があったと、第三者委は指摘している。

NYタイムズ紙が東芝と共通の企業体質を指摘

東芝の多額の不正会計は、損害賠償訴訟にまで発展している。そんな時の富士ゼロックスの不祥事は、改めて企業の共通の体質に警鐘を鳴らすものである。

ニューヨーク・タイムズ紙は「富士ゼロックスに関係する金額は東芝と比べればさほど大きくはない。しかしビジネスでもがき苦しむ事態を認めたくないマネジャーという、共通の問題を抱えていたようだ」「富士ゼロックス社内の内部告発者は、2015年にNZ子会社内の問題点も発見していた。富士フイルムは当初は4月に、不正会計額が220億円との調査結果を発表したが、第三者委は今日になって、オーストラリアでも同じ問題を発見したとの報告書を出した」とコメントしている。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)