今年もまた、“A株銘柄(本土市場に上場する人民元で取引される株式)をMSCI新興市場指数(エマージング・マーケット・インデックス)構成銘柄に採用するかどうか”を決める時期がやってきた。

2016年末における世界の国別株式時価総額を比較すると、アメリカが27兆3522億ドルで世界第1位。第2位が中国本土で7兆3207億ドル。以下、第3位が日本で4兆9553億ドル、第4位が香港で3兆1932億ドルと続く(GLOBAL NOTE 世界の株式市場総額 国別ランキングより)。投資家が世界の株式市場に分散投資したいと思えば、中国本土株の購入は欠かせない。

また、投資家にとって成長率が高い国の株式市場は魅力的である。そういった観点からすれば、エマージング・マーケットの株式を対象としたファンドへの需要は十分大きい。もし、そうしたファンドに時価総額世界第2位の本土市場に上場する株式が組み入れられていなかったとすればどうだろうか? やはり大きな違和感がある。

A株、MSCI新興市場指数採用の「最大の障害」とは?

中国経済
(写真= Gustavo Frazao/Shutterstock.com)

MSCIは2014年以降、毎年6月にその検討結果を発表しており、これまではいずれも見送りとなっている。今年は6月21日(現地時間20日)に発表される予定である。

なぜMSCIはこれまで長い期間、A株銘柄を新興市場指数に加えようとせず、ようやく3年前から議論を始めたものの、3年連続で見送っているのだろうか? その最大の理由は本土市場の開放が十分ではなく、運用技術面で難しいところがあるからだ。

中国金融行政当局は、外国人投資家によるA株銘柄売買について、一定の制限を設けている。機関投資家については、QFII(適格海外機関投資家)に対する認可制度を設けている。当局が認めた投資家だけが決められた一定制限の範囲内でのみ、自由な売買が認められるといった制度である。

また、海外個人投資家(機関投資家を含む)は滬港通(上海・香港・ストックコネクト)、深港通(深セン・香港・ストックコネクト)といった制度に基づき、香港市場で注文を出す形で本土A株の売買を行うことができる。香港市場と本土市場は相互に注文を出し合う制度、システムを通して、A株の主要銘柄を、決められた1日あたりの買い越し(ただし、個別株ベースではなく、全体)限度額の範囲内で売買することができる。

MSCIの本音、自由な売却ができなければ算入させたくない

当局による規制緩和措置により、MSCIは本土市場にいろいろな制限があること自体には理解を示すようになってきた。過去3年間の審査を通して、MSCI側と本土金融当局との矛盾点はほぼ埋められている。しかし、保有する株を売りたいときに自由に売れるかどうかといった点については、最後まで争点となっている。

2015年7月に起きた株価暴落時には、7月8日、9日、10日の3日間、上海、深セン両取引所に上場する株式の約50%が取引停止となった。その後も数か月に渡り、売買停止となった銘柄が数多く存在した。当時でも、A株を運用対象としたETF、ファンドは存在した。

この時、一部のファンドは顧客からの解約に応えるのに随分と苦労したようだ。もし、A株が新興市場関連ファンドのベンチマークであるMSCI新興市場指数の採用銘柄に加われば、A株はより広範な新興国関連ファンドに浸透する。その時点において、この時のように売るに売れない状態が生じる可能性があるかもしれない。その影響は世界中の金融商品の価格に影響を与え、世界中の金融市場に悪影響を及ぼすだろう。そうしたリスクを気にしているのである。

中国当局の本音、短期売買を行う投資家は排除したい

長期間に渡り、売買が停止される銘柄はどこの市場でも存在する。どんなことが起きても、当局がその相対的な数を他の市場並みと見なせるほど、少なくすることができるかどうかという点が重要である。

中国経済、とりわけ本土株式市場は相対的に投機に支配されやすい市場である。強い市場支配力がない限り、株価の急騰急落を防ぐことは不可能であると当局は考えている。これは中国経済全般に言えることだが、共産党が経済をコントロールできなければ、いたるところで発生する投機を止めることができない。社会主義はイデオロギーではなく、実際に現在の中国経済、中国社会に適した経済体制である。

今後、株式市場が急騰、ないし急落した際、他国にない方法で直接市場を管理する可能性がある。その際、保有する株式が一時的に売れなくなる可能性がないとは言えない。緊急時には、すべての規則よりも行政が優先される。

もう一点気になるのは、当局の姿勢である。本土市場の弱点は長期投資家が育っておらず、ヘッジファンドに近い性質の機関投資家と短期志向で未熟な個人投資家に支配されている点である。

当局としては、投機を減らし、長期投資家を育成し、緩やかな上昇局面が長く続く相場を形成させたい。当局はアジア通貨危機の教訓から、資金量の多い海外投資家が投機的な短期売買を行い、市場が大きな混乱に陥ることを警戒している。海外からの資金については、長期投資目的に限定したいというのが本音である。

結局、MSCI、あるいは欧米金融機関は“社会主義をどこまで容認できるのか”ということである。

以下、参考までに、算入が決まった場合、買いが入りそうなA株銘柄を挙げておく。

貴州茅台酒(600519)、上海汽車集団(600104)、美的集団(000333)、珠海格力電器(000651)、五糧液(000858)、長江電力(600900)、恒瑞医薬(600276)、宝鋼(600019)、伊利股フェン(600887)、康美薬業(600518)

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP: http://china-research.co.jp/

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