加計学園が愛媛県今治市に新設する予定の獣医学部をめぐる国会審議が大詰めに来ている。内閣府と文科省が規制緩和で対立している構図は、審議の過程で果たしてゆがめられてしまったものなのか。獣医学部の新設は50年以上なく、「充足している」と業界団体側はいうが、果たして本当なのだろうか。
獣医師総数は3万9000人余り
農水省の獣医師法による届出数(2014年9月)によると、獣医師の総数は3万9098人で、獣医事に従事する人の実数が3万4548人である。不足の根拠となる国家公務員が518人(農林畜産、公衆衛生など)、都道府県の公務員が7121人、市町村職員が1887人に対して、民間団体職員が7623人、個人診療施設1万7241人、獣医事に従事していない人が4550人だった。
獣医学部のある国公立大学は東京大学、北海道大学、大阪府立大学など11校、私立大学は北里大学、日本大学など5校ある。
それぞれの業界予測によると、例えば小動物(犬、猫など)獣医師の需給バランスを見ると、飼育頭数は2020年をピークに減少に転じる。それに応じて獣医師の需要は20年に1万3200人、30年には1万2400人へと減る見込み。
内閣府の資料によってもその傾向は変わらない。国別の重視数と牛・犬の飼養頭数比較表によると、獣医師1人当たりの牛に飼養頭数は、オーストラリア2441頭、米国の571頭に対して日本が106頭、ペット犬のそれは米国の500頭に対して日本が284頭である。この数字からも、日本の獣医師が不足しているとの結論は決して出てこない。
朝日新聞sippoニュースによると、「獣医師は全体でみれば、その数はむしろ飽和気味だ」との結論を出している。「地域偏在」の問題も獣医師不足とは直接つながらないと、さまざまな根拠を上げて指摘している。
獣医師の平均年収は9位、637万円
獣医師の平均年収は2015年統計で平均637万円、平均月収では44万円という。厚労省の「賃金構造基本統計調査」によると、年収が高い順に1位はパイロット(1530万円)、次いで医師(1098万円)、弁護士(1094円)。大学教授(1086万円)。
獣医師は、一般企業の正社員(321万円)との比較で約2倍の所得となり、年収ランクでは9位。平均年齢は40歳、勤続10.6年、総労働時間は月187時間だという。
獣医師はどんな仕事をしているのか。大別すると臨床獣医師(小動物)、臨床獣医師(大動物)、国家公務員、地方公務員、個人診療などがある。臨床獣医師(小動物)はペット診療を行う獣医師のことだ。獣医師のほぼ半数はこの職種に就くことを希望している。臨床獣医師(大動物)は競走馬の施設や水族館、動物園などで働く。
国家公務員は厚労省、農水省で働き、輸入食品・動物の扱いやBSEや口蹄疫など感染対策防止などに重要な役割を果たしている。地方公務員は都道府県、さらには市町村でさまざまな検査に責任を負い、食肉衛生検査、畜産業支援、各種予防、検疫なども行う。こう考えると、動物病院でペットを診察するだけでなく、あらゆるところに獣医師資格者が活躍する場面がありそうだ。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)