そもそも商売とは、自分のモノやサービスを相手のお金と交換することです。そこには、必ず人との接触があります。インターネットでの取引が発達した昨今、メールだけで直接顔を合わせなくなったとしても、人と人とのやり取りがそこに発生していることは間違いありません。つまり、直接であろうと間接であろうと、人との接触抜きに商売を語ることはできない。

(本記事は、岩松正記氏の著『 経営のやってはいけない! 』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)

経営のやってはいけない!
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonへ飛びます)

営業に自信のない人は経営者になってはいけない

ところが、「人と顔を合わせるのが苦手なので、資格を取って独立したい」と税理士を目指して我々の業界に入ってくる人たちが後を絶ちません。要は、資格を取れば何とかなるという思惑なのでしょう。弁護士であろうと医者であろうと、資格を取るのは勉強さえすれば誰にでも“理論上は”可能です。しかしながら、資格を取ったとしてもただそれだけでは商売にはなりません。自分に仕事を依頼してくれるお客様、言い方を変えれば、自分の仕事にお金を払ってくれる顧客がいなければ、「自分」は生きていくことができません。どれだけ優秀であっても、そのことを他人が全く知らなければ、仕事を依頼する人がいないのは当然のことです。

これは資格商売に限らず、あらゆる業種にあてはまります。

どんなに良い商品を作っても、売り方が悪ければ商品は売れない。商品力で売れるのは全体の3割に過ぎない。逆に、多少商品力が無くても、営業力があれば商品力の低さは十分にカバーできる。ランチェスター戦略で有名なコンサルタントの竹田陽一氏はこれを「商品3分に売り7分」と言い表しています。

営業力を、売り込みとか知名度といった言葉に置き換えて見れば理解しやすいと思います。自分がモノを買う時、知らないモノよりは知っているモノ、見たことないモノよりは見たことのあるモノを買うのが普通の人の感覚です。また、同じものであれば、知らない人よりも知っている人から買うというのが通常の人間心理でしょう。

商売に必要なもの、それは売ること、すなわち営業です。ガイ・カワサキ氏は「起業家にとって重要な文句は『われ売り込む、ゆえにわれあり』である」と言っています。売ることこそが企業の存在価値であり、売れなければ何も始まりません。

それゆえ、営業ができない、ひいては人付き合いが苦手だという人は、商売を始めない方がいい。もしくは、始めてしまったのであれば、相当な覚悟で自分を変えていかなくてはなりません。そのくらい、営業とは商売の根幹に関わることだと思います。

「クレーム客を大事にしろ」は大ウソ

「お客さまは神様です!」と歌った国民的歌手がいました。今は彼のことを知っている人も少なくなってしまいましたが、実際、お客がいないと商売は始まりません。商売においてはお客が全てと言っても過言ではないでしょう。

しかしながら、じゃあお客の言うことだったら何でも聞かなければならないのか、といったら大間違い。特にクレーム客に対する対応は、結構間違えがちなので強く言っておきたいところです。

クレームは商売の問題点を写す鏡だと言われます。マーケティングの本などではよく、「クレーム客の声からヒントを見つけ、売れる商品・サービスを開発しろ」ということが書かれています。

しかし、そもそもクレームをつけてくる人自体が特殊な人という場合が多く、実はまったく参考にならないことが多い。

もちろん、こちらにミスがあればそれは直ちに認め、謝罪しなければなりません。しかしながら、こちらが誠意ある対応をしたにもかかわらず、一切こちらの気持ちが伝わらないこともあります。いわゆるクレーマーにぶち当たった場合は、あまりその顧客にかかわらないよう、大事な時間を取られないよう、心がけることが重要。無下にするということではなく、あくまでも時間をかけないということ。あまりしつこい場合には、法的対処も辞さないくらいの気持ちを持つべきです。

では、良いクレームと悪いクレームの見分け方はあるのか。残念ながらこればかりは、自分の経験で判断するしかありません。ただ一つ言えることは、あまりクソ真面目に対応するだけがいいというものでもない、ということです。

人手の少ない中小・ベンチャー企業にとっては、1分1秒の時間が貴重。

気の合わないお客さんとは商売しないというくらいの気持ちが大事で、徹底的に話し合ってこっちの考えなり気持ちを理解してもらおうなんて微塵も思わないことです。

もちろん、顧客第一とか接遇重視とかいうことを否定するつもりはありません。それらは当然に大事なこと。ただ、何でもかんでも真に受けて、真摯に対応することだけが自らのためにはならない。それでなくても中小・ベンチャー企業はか弱い存在。経営者自らがシッカリしなければダメだと心得ることです。

紹介してもらった後の礼儀を忘れていないか

「紹介」はいわば、紹介者の評判を利用したビジネス手法とも言えますが、「誰が紹介してくれたか」「誰に紹介されたのか」が重視されるのは仕方のないことです。

普通にアポイントを取りに行っても会えない相手に「あの人の紹介だから会った」などと言わせたら成功、「あの人の紹介だから取引しよう」と言われたら大成功なのですね。

だからもし、手っ取り早くビジネスで成果を出そうと思ったら、まずは「誰に紹介してもらえるか」を考えなくてはならないのです。

私の知人に、紹介してもらうことの達人Aさんがいます。そのやり方は実に簡単で、商談等で行き詰まった場合、Aさんは必ず「誰に聞けば解決できそうですかね?」と尋ねるのだとか。そうすると「◯◯さんならうまくやれるかも」と、ほとんどの場合、解決できそうな人の名前が出るのだそうです。そこですかさずその方への紹介を頼むのだとか。単にこの繰り返しだそうです。人は頼られると意気に感じて何とかしてあげようとするもので、Aさんはそれを上手に、しかも嫌がられることなくやっているわけですね。このやり方は何にでも応用できるやり方ではないでしょうか。

実は、紹介者に選んでもらえたということでかなりの部分うまくいったとも言えるのですが、ここで多くの人が忘れがちなのが、紹介者に対するフォロー、つまり「報告」です。

誰々を紹介して欲しい、と言う人は多いのですが、その結果報告をしない人もまた、実に多いもの。たとえば、あまり一見客を取らないような高級料理店で、誰か常連の知人の名前を出して予約をする場合、本当は事前に本人に「名前を使わせていただきますがよろしいでしょうか?」と確認を取るのがベストで、そこで許可をいただいてから予約するのが正式なやり方。勝手に名前を使うのは礼儀以前の問題ですが、その結果報告もするのが礼儀でしょう。もちろん、名前を使われた方はいちいちそんな些細なことを気にしないかもしれませんが、逆に「行ってきました。ありがとうございました」といったような報告の積み重ねが、さらなる信用を得るのも事実。

そもそも名前を使わせてもらったということ自体がある種の取引なのですから、こちら一方だけが得するのであっていいものなのか。相手にも何らかのメリットを与えるのが当然と考えるべきではないでしょうか。紹介してくれた方や名前を使わせてくれた方に、手土産の一個も持って行ったり送ったりするくらいは、やってもバチは当たらないでしょう。

そんなちょっとした行為がさらなる紹介を生むわけで、いつも紹介される人というのは、よく観察してみると、その辺りの行動や気配りができているものです。

岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。