中小・ベンチャー企業に限らず、数多くの会社において、創業メンバーは会社の成長と共に会社を去っていく運命にあります。

創業時と、会社が一定規模になってきた時と、より大きくなった時とでは、それぞれ会社の幹部に求められる役割は違います。創業時は人数も少ないので、創業メンバーは誰でも幹部。多くの場合は、創業者を中心にして創業者の指示に従い、ガムシャラに突き進むことを求められます。

ところが創業して4~5年経って経営が軌道に乗ってくると、創業メンバーには中間管理職としての役割が求められてきます。すなわち、部下を持ち、部下を使っての仕事で成果を出すことを求められるようになるわけです。自分ひとりで数字を出すには限界があり、そのために組織を使うことが要求される。創業者は必ず、プレーヤーとしてではなく、マネージャーとしての役目を創業メンバーに求めるようになるもの。それまでは社長が一緒に働いていたのが、段々と社長は現場から離れて命令ばかりするようになります。大抵はこの辺りで創業メンバーの多くが脱落します。

(本記事は、岩松正記氏の著『 経営のやってはいけない! 』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)

経営のやってはいけない!
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonへ飛びます)

創業メンバーは未来の幹部にはならない

残ったメンバーも、会社の業容拡大や変化に追いつくので精一杯になります。社員が増えてくると徐々に中途採用の幹部、すなわち、同列の人間が増えてきます。「自分は創業からいるのに、何でヤツは中途で入ってすぐに自分と同じ役職・立場なのだ」というのは多くの創業メンバーが直面する実態。しかし、会社が求めている人材が徐々に変わっているという事実に気付かなければ、その創業メンバーの役割は終わっています。その段階で、すでに創業するというチカラ仕事が求められているのではなく、経営・運営する能力が求められているのです。

この頃になると「社長は変わった」と言い放って多くの創業メンバーが去っていきます。一方経営者の方は「何でついてきてくれないんだ」と嘆きます。しかしながら、これは仕方のないこと。むしろ、社歴数十年の会社で創業メンバーのほとんどが残っていることの方が問題で、それは会社が全く成長していないことの証しです。

だから、社長の立場から言えば、創業メンバーが会社を去ることは決して悲しいことではない。むしろ、創業メンバーがその役割を終え、会社が次のステージに入ったと喜ぶべきこと。もちろん、会社を去る人間に対する恩賞などは別の話。厚く報い、温かく送り出してあげるべきなのです。極論を言えば、創業メンバーが残っている間は、その会社は中小・ベンチャー企業なのかもしれません。

禁句の一言「どうするか見ていた」

私が従業員5人の会社に勤務していた頃の話。上司に業務の指示を出されてもどうしていいかわからず、悩みに悩んで結局期日ギリギリまで作業が長引いてしまったことがあります。後から考えれば、上司がほんの一言指示をしてくれれば良かっただけのことでした。しかしその上司は、全てが終わった後で私にこう言いました。

「君がどうするのか、黙って見ていたんだ。キチンとできて良かったじゃないか」。

大企業や大きい組織であれば、従業員を育てるという観点から、それでもいいでしょう。

しかし、そこはたかが5人しかいない環境です。一言の指示があれば仕事がスムーズにできるのですから、その上司の行為は「指導者かぶれ」としか言いようがありません。

コストや効率面を考えたら、こんなムダなことはない。

中小・ベンチャー企業では、構成人員が少ないので1人当りの仕事のウェートが増します。1人欠けても影響が大きい、すなわち重要性が高い。ですから、指導者は、部下が考え込んだり固まっているような時間を作ってはいけません。そんなじっとしている時間はもったいない。時給換算では一体いくらになるのか。従業員により多く働いてもらうには、そんなムダな時間は無くすようにすべきです。

少人数の会社であれば特に、「じっと見ていた」などと悠長なことは言っていられません。

社員が自分の頭で考え、自分の判断で行動して成果を出してくれたら、どんなに経営が楽になるかは想像できますが、なかなかそういう人材はいないものです。

だから、上司は四の五の言わずに指示を出す。指示を出して、出して、出しまくる。こう言っては何ですが、部下をそれこそ道具のように使わなければ、中小・ベンチャー企業なんてあっという間に吹っ飛びます。格好つけている場合ではありません。上場企業のサラリーマン向けの雑誌に書いてあるような上司の指導方法など、全く役に立たないのが中小・ベンチャー企業です。くれぐれも「指導者かぶれ」にはならないようにしましょう。

言葉より給料 従業員は「一にも二にも給料」

従業員が欲するもの、それは一にも二にも給料。人は何のために働くのか。それはカネを稼ぐため、給料をもらうためで、働きがいだとか自己実現などと言うのは、後付け理論に過ぎません。その証拠に、タダで人を雇うことはできない。インターンという制度だって、将来、就職や独立が前提であるから無給にも劣悪な条件にも耐えられるのであって、一生インターンでいいなどという人がいたら会ってみたいものです。

もちろん、給料がいいといっても労働条件が厳しければ人は長続きしません。では、そういった不満の根底にあるのは何か。最終的に、私は「時間単価」になると思っています。人が働くということとその対価である給料については、密接な関係があるように思えます。そして、人を雇うということは、それなりの待遇をする義務が雇う側にあるのだ、ということを自覚しなければなりません。

言葉だけで誤魔化してはいけない。「今は給料が安いけど、皆で頑張れば給料は上がる」のような安易な言葉を発する経営者は信用なりません。だったら今すぐに給料を上げるべき。「会社が儲かったら給料を上げる」と言って、後で給料を上げた経営者を、私は見たことがありません。

本当にモチベーションを上げたいのであれば、まず給料を上げて、それで成果が出なかったら処遇を変更すべき。しかし、それだって実際にやっているところは皆無に近い。

それゆえ経営者は、従業員に安易な言葉をかけてはいけない。ない袖は振れないし、過分な給料を払う力は中小・ベンチャー企業にはないのだから。その自覚をもって、経営者は慎重に言葉を選び、そしてキチンとした給料を払えるように、日々努力をしなければなりません。

ある会社でプロジェクトを実施する際に、先に手当を出したところ、従業員の眼の色が変わって一生懸命に仕事に取り組んだそうです。その会社もさすがに本給を上げてはいないのですが、朝三暮四のコトワザは現代でも通用するのは間違いないようです。実は私も一度試したことがありますが、結構有効です。経営者は一度お試しあれ。

岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。