「人を雇う際に必要なものは何か?」ということでインターネット検索をすると、大抵、「まず就業規則が必要」といった文言を目にすることと思います。
就業規則について改めて言うと、「職場での労働者の労働条件や服務規律などについて定めた規則で、労働基準法により、常時10人以上の労働者を使用するときはこれを作成し、行政官庁に届け出る義務があるもの」です。もちろん、労働法規上これは必要なこと。人を雇い入れるのに、労働条件を整えるということは絶対に不可欠なことです。しかし、それを考えるのに余計な時間やコストをかけるのはムダ。
(本記事は、岩松正記氏の著『 経営のやってはいけない! 』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)
就業規則は買うな
就業規則であれば、基本的な条件をクリアした見本が、ネット上にそれこそ無料で転がっています。創業当初の余裕のない時はそれで十分。中身は後から余裕が出てきた時に付け加えればいい。わざわざ自分の会社専用の就業規則など、創業当初に作る必要はありません。
もしこれから起業しようとしている人で「うちの商売や仕組みは特殊だから、そういったものも必要なはず」などと考えているのであれば、それは絶対に改めた方がいいでしょう。なぜなら、その考えはすでに標準化の芽を詰んでいるから。
これまで数千数万の先達たちが行ってきた商売の仕組みと、これから自分が立ち上げようとしている商売の仕組みが、100%異なるなどということはありません。必ずや何らかの類型には当てはまるはず。標準的なものに合わせられないという時点で、すでにそのビジネスモデルは何か間違っています。むしろ、そこに気付くべき。
もちろん、就業規則は会社運営に不可欠なルールですから、絶対に作らなければなりません。でも、最初から立派なものを作るのはナンセンス。会社が大きくなるにつれ、ステージが上がるにつれて、常に見直しをかけて徐々に直していく、というのが本当のスタンスでしょう。
会社の規模が大きくなって従業員が増えていけば、自ずと様々な問題が噴出してくるもの。就業規則もいろいろな問題にさらされます。その時々に、必要な修正を行えばいい。だから、まずは手頃なもので済ませられるのであればそれで済ます。起業時にはそんな判断も必要です。何事も最初はシンプルにいくべきですね。
「業績が良くなったら……」は禁句
「いつか業績が良くなったらもっといい待遇にできる。だから一緒に頑張ろう」というのは下手な感動ドラマにありがちな設定。しかし実際にこれをやると、まずほとんどの場合、人がついてきません。
ある企業幹部の話。その方は創業時から社長を支え、会社の実情を良く理解していました。設立時に買った設備のリースや設備資金の借入のために会社の資金繰りが大変なのもよくわかっていました。実際会社にあまりお金がなくても、社長の給料が自分の3倍でも、社長が連帯保証しているから仕方ないのだ、と理解しているつもりだった。と言うのも、常々社長が「目先苦しいけど、リースが終わったら楽になる。その時は必ず給料を上げるから協力してくれ」と言っていたからでした。
そして主要なリースもあと1年で支払いが終わるという頃に、その会社は借金をして自社ビルを購入したのです。業績が良かったということもあるのですが、借金の返済にリースが無くなる分を充てているのは明らかでした。当然に幹部の給料も上がりません。その幹部は失望して退職してしまいました。“お話”ならそれで会社が潰れるとなるのでしょうが、そうはならずその会社は潰れること無く続いています。しかし重要な幹部が辞めてしまったというのは、実に痛手だったに違いありません。
このように、従業員に向かって「業績が良くなったら◯◯するから」と言って、それを実行した経営者を私はあまり見たことがありません。例えば先の話も、社長には社長の判断がありますから、経営判断として自社ビルを購入したことは決して間違いではありません。しかし、日頃の言動が原因で、社員を失望させてしまった訳です。
何だかんだ言っても、人をつなぎとめるにはお金が大事な要素になります。そして人は、もらえるものは後でもらうより先にもらった方がうれしいもの。当然に働く意欲も上がる。ある会社では、売上がまとまって入ってくることがわかっていると、その分の一定割合を賞与にすると明言するとのこと。そうすると従業員の働き方が目に見えて変わるのだそうです。
人間は元来現金なものです。結果は同じでも、目先の欲得を選んでしまうもの。だから、業績が良くなったら○○するではなく、良くなるから先にあげるくらいの方がいい。しかもこれなら、予想通りいかなかったら次は下げる口実にもなる。
期待を持たせるだけ持たせて裏切れば、心の痛手は大きい。そうであれば、あまり期待させないこと。山から落ちるよりは、谷から這い上がる方を人は選ぶものです。
従業員にコスト意識を語るのはムダ
私は2回目の転職をした時に初めて、会社が社会保険料の半分を負担していたということを知りました。
1回目の転職の時は次の勤め先を見つけてから最初の会社を辞めたので、社会保険の任意継続被保険者になる期間がなかったので気付きませんでした。2回目の転職の後はしばらく任意継続被保険者になったため、毎月の給与明細で引かれていた社会保険料(正確には厚生年金)の倍の金額を毎月支払うということに大変驚いたものでした。
毎月給与から引かれている社会保険料は、そのほぼ同じ額を会社が負担して社会保険庁(当時)に支払っているということを、多くの社員は知りません。
この他、営業に出ていく時の電車賃や車のガソリン代、車の税金や駐車場代など、日頃当たり前に使っている社内のものは、当たり前の話ですが、全部会社が費用を負担しています。机もペンもノートも、そして携帯電話もパソコンもそう。逆に考えれば、会社を経営すれば、それだけのコストがかかるのだということ。
会社の社長だって多くはかつて勤め人だったはずですし、これから起業しようと思っている人は今もまだどこかに勤めているはず。勤め人時代、自分の給料以外に会社が負担しているコストというものを考えてみたことがあるでしょうか。自分で会社の経費を目の当たりにして初めて、いかに会社は従業員の給料以外に多くのコストを負担しているのかということに気付くことでしょう。
そもそも電気を消せと言ったって、社員は自分の懐は痛まないのですからつけっ放しの電気を気にするものではありません。それをいちいち怒るのもセコイ話で、気になるなら自分から率先して消せばいいだけの話。考えようによっては、従業員にそんな余計な心配をかけないで、自由に伸び伸びと仕事をしてもらった方が間違いなく成果が出るハズです。
ケチケチし過ぎて社員のヤル気を削ぐよりも、モチベーションを上げてもらった方が会社経営としては好ましいことですね。でも、実はこのことにはなかなか気付かないもの。正直、私もサラリーマン時代には気付きませんでした。もし従業員時代にこのことに気付いたならば、きっとその人は経営者として、人の上に立つ人として成功します。間違いありません。
岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。
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