会計や経営の本で株式会社の勉強をすると、必ず出てくるのが「資本と経営の分離」という話です。会社は資本すなわちお金を集め、それを基に経営をしてくれるプロに対し会社の運営を委任する。これが株式会社の前提なのですが、あくまでも建前で紙の上の話。世の中の会社の大部分は、出資する人と会社を経営する人が同じです。

(本記事は、岩松正記氏の著『 経営のやってはいけない! 』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)

経営のやってはいけない!
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonへ飛びます)

中小・ベンチャー企業は「会社」=「社長」

そういう会社は一般には「オーナー企業」と呼ばれます。社長=会社、会社=社長。起業してすぐ、自分ひとりで商売を始めたなどという時はなおさらですが、たとえ従業員がいたとしても同じこと。上場企業ですら、実態は一人の人間が多額の資金を会社に注ぎ込んで会社を経営している例がたくさんあります。

それが悪だというのではありません。逆に言えば、それくらいお金を会社に入れているのですから、会社の経営に対する思い入れは半端なものではありません。会社に何かあればそれはすなわち自分の人生に影響が出る。会社が潰れたら別の会社を探せばいいというような従業員とは、真剣味が違います。違って当然。

だから、どんな会社であっても、社長の利害と会社の利害は一致します。従業員から見ても、取引先から見ても当然。誰が見ても会社=社長とならない方がおかしい。

これは小さい会社だけの話ではありません。ユニクロやソフトバンク、楽天といった企業は、誰でも会社名と社長の顔・名前が一致しています。プロ野球やサッカーだって、指揮官がチームの代表です。それなりの人数がいる組織ですらこうなのに、たった5、6人の組織だったらなおさら、社長=会社にならないはずがありません。

社長が会社の顔でなくては、特に中小・ベンチャー企業では致命的。むしろ、その自覚がなければ生き残れないと断言してもいい。

多くの人が言っていることですが、売上10億円までは社長で決まります。どんな仕組みを作ろうとどんな部下を持とうと、さらにはどんなビジネスモデルを作ろうと、結局は社長次第。社長がどう判断するかで勝負は決まってしまいます。

だからこそ、経営者は自覚を持って進まなければならない。さらには自信を持たなければならない。その裏づけに必要なのは、これは残念ながら本人の努力しか無い。多くの先輩経営者はそのためにたくさんの本を読み、勉強してきました。後に続く我々が先達以上の努力をしなければいけないことは当然です。

中小・ベンチャー企業の顔は社長。社長がやらずに誰がやる。代わりはいません。

オシャレなオフィスはムダ

起業して最初にやってしまう失敗のうち、最大かつ致命的なものが、事務所を持ってしまうこと。会社を起こす人で失敗する人の多くは、決まって最初から立派なオフィスを構えたがります。立派でなくてもアパートやマンションの一室を事務所にし、机や電話、FAX、ソファーを置き、さあこれから商売をやるぞと意気込む人ほど、事業に失敗します。

事務所は利益を生みません。しかも固定経費です。この分の費用負担を賄える見込みがないうちに事務所を構えるなど、自殺行為に等しい。

最初に自宅から始めない多くの理由は、“見栄”以外の何者でもありません。レンタルオフィスにしてもしかり。オフィスを構える前に電話の秘書代行の方を優先すべきです。

身の程を知らない人間ほど背伸びをします。

起業する際に、カッコつける必要はありません。最初から立派な場所は不必要。コンサルなど事務仕事であればなおさら、余計なコストをかけてはダメです。店舗型の商売でも同じことで、初めから内装にものすごい費用をかけてしまう人の多いこと多いこと。夢を追うことは大事ですが、ちょっと待って! と言いたい。

要するに、段階的にやればいいだけの話。儲かったら新しく借りればいいし、内装だってやればいいのです。立派な事務所や豪勢な店舗の設備は、お客よりも従業員の募集に役立つだけ。しかも業績が上がらなければ肝心の従業員もすぐに辞めていくことでしょう。

かつて10坪の店舗から衣料品販売を起こしたある社長は、軌道に乗るまで店舗の裏の在庫スペースに寝泊りをしていました。事業は順調に推移し、アパートを借りられるくらいまで利益が出るようになった。ところが好事魔多しで、アパートを借りた途端に店舗移転の話があり、思い切って家賃が2倍のところへ引っ越した。売上は5割ほど伸びたのですが、最終的には家賃負担に耐えられず、元の所にも戻れなくなってその会社は廃業してしまいました。

これは一例ですが、そのくらい家賃という固定経費は経営に多大なる影響を与えるのです。ちょっとした油断が致命傷になってしまう。舐めてかかってはいけません。

確かに環境のいいオフィス、見栄えのする店舗であれば、モチベーションは上がるかもしれません。しかし、売上が増えなければ、言うまでもありませんが、利益は下がるのです。コストが増えているのに表面上は羽振りがいいように見えるので、逆にお客さんから「儲かっているんだったら値引きしてよ」なんて言われる始末。実際、顧問先からそんな話を聞いたことがあります。冗談のようですが本当の話です。

上場なんて目指すだけムダ

大体10年周期で上場ブームが到来します。中小・ベンチャー企業にとって上場はステータス。私も証券会社にいた時に上場を目指していた会社の社長さんたちとは何度かお会いしましたし、自分自身も上場準備会社の上場担当役員をした経験から、「上場」の言葉の魔力は十分にわかっています。上場すると知名度が上がる。優秀な人材が集まる。銀行に頼らずとも資金調達できる。

そして何といっても、創業者利益が手に入る。こういった甘言が上場を目指すと表明した企業には矢のように降ってきますので、大抵の経営者は舞い上がってしまいます。そして上場準備に必要な膨大な資料を作成するための人員を備え、監査法人や証券会社に毎月多額の報酬を払い、上場を目指すことになります。

ところが実際には、上場できる会社は、上場準備している会社のうち10社に1社あればいいほうで、大部分は2~3年で挫折します。ある証券会社の上場担当部長は「うちはコンサル料をもらっているので、その会社が上場してもしなくてもどちらでもいいんです」と、当時会社の上場担当役員であった私の目の前でそう言いました。まあこれは私が元々証券会社の人間だったから気を許したのでしょうが、それでもはっきり言われてショックでした。

そもそも、全国にある約200万社のうち、上場しているのは約3000社です。上場しているのは1000社に1社ほど。しかも上場しても、たかが3000分の1の会社のことを、一体誰が知っているでしょうか。また、上場するということは、他人に自分の会社の株を買ってもらうということです。自分の会社は、一体、それだけ魅力的な会社なのでしょうか。「上場したら知名度が上がって業績が良くなる」などと言うのは本末転倒です。そして何よりも、上場するということは会社を手放すということ。その覚悟があるのかどうか。

本業が儲かって将来に渡って有望な会社だと周囲が判断すれば、何もしなくても周りが神輿を担いでくれます。つまりは、簡単に上場できるということ。自分から上場したいという会社ほど、業績的にギリギリだったりあまり魅力的でないような場合が多々あります。

単にカネが儲かるとか、有名になるとかいう目的では、間違いなく上場維持はできないし、それ以前に、上場準備のキツさに耐えられないでしょう。圧倒的多数の会社にとって、上場など夢のまた夢。こう言ってはなんですが、目指すだけムダなのです。

岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。