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第二次安倍政権が誕生してから1年が経とうとしています(本稿執筆時点2013年12月1日)が、その間の金融政策の効果については賛否両論があります。本稿では、金融政策の効果も含め、今後の日本のインフレ率がどうなっていくかについて、現時点で重要なポイントを踏まえて考察します。

まず、日銀の金融政策について簡単に整理し、インフレ率の効果には「金融政策によるもの」と「金融政策によらないもの」がある事を指摘します。金融政策によらないものについては「円安による輸入物価の上昇」と「消費税増税による物価上昇」が有り得る事を示します。日銀は自らの金融政策の効果を高く評価していますが、現時点では金融政策によるインフレの効果は乏しい事を指摘します。

日銀の金融政策

日銀の金融政策を簡単に言うと、消費者物価指数(CPI)のうち「生鮮食品を除く総合」部門を「2年間で2%上昇させる」というインフレ目標を掲げ、その為にマネタリーベースを増加させる非不胎化介入を無期限で行う事で期待インフレ率を高める事です。

日本は名目金利がゼロに近いもののインフレ率が低く、実質金利が高い状態であるので、実質金利を上げる為に期待インフレ率を上げようとしているのです。この当たりの話は別稿で行います。

ここで重要なのは、金融政策の効果を評価する時に重要なのは「何が原因でインフレが起こったか」という点です。インフレ率がプラスだったからだと言って、それが金融政策の効果であるとは限りません。試験の成績が上がったとして、それが勉強の成果ではなく「たまたま試験が簡単だったから」というように他の要因によるインフレの可能性があるからです。

では、今後のインフレ率を見る上で、重要となる「金融政策以外による効果」について見ていきましょう。

円安による輸入物価の上昇

図1は、日本の輸入物価指数と実質実効為替レートの推移を示しています。リーマン・ショックによる大幅な輸入物価指数の下落時を除き、長期的に輸入物価指数は上昇しています。実質実効為替レートも同様の動きをしており、これは円安が交易条件を悪化させる働きを持つからと考えられます。

図1:輸入物価指数と実質実効為替レート

図1:輸入物価指数と実質実効為替レート

出典:輸入物価指数は 「物価指数年報:各物価指数の動き(総括表)」(日本銀行) 、実質実効為替レートは 「BIS effective exchange rate indices」(BIS) を利用。

注1:左軸は輸入物価指数、右軸は実質実効為替レート指数を表す。なお、右軸は大小を反転させており、値が小さくなるほど円安になる。

注2:輸入物価指数は2010年を100とした時の数値です。

長期的に円安になるのは当然とも言えます。何故なら、海外新興国の経済力が高まるにつれて日本円の通貨としての相対的な強さが弱まる上、海外新興国の所得が高まるにつれて輸入品の価格も上昇するからです。これは、長期的には購買力平価説が成立する傾向とも一致し、今後も「日本の相対的な経済力の弱まり」に伴う円安と輸入品価格上昇が、輸入物価は上昇していく可能性が高いでしょう。

消費税増税によるインフレ

消費税増税によるインフレ率の上昇も起きると考えられます。下図2は、消費税3%導入時(1989年4月)と消費税5%引き上げ時(1997年4月)における国内企業物価指数の動向を示しています。変化が分り易いように消費税率の変化の前後1年を含めて表示しています。見て分かる通り、増税年の4月は前月から企業物価指数が大きく上昇している傾向が見られます。

図2:消費税による企業物価指数へのインパクト

図2:消費税による企業物価指数へのインパクト

出典: 「物価指数年報:各物価指数の動き(総括表)」(日本銀行)

注1:企業物価指数は2010年を100とした時の数値です。

注2:青線は1988年1月~1990年12月の数値、赤線は1996年1月~1998年12月の数値を示す。

そもそも消費税率の引き上げによる財・サービスの価格変化もありますし、消費税導入・消費税増税による「便乗値上げ」もあると考えられます。

2014年に消費税8%、2015年に10%と消費税率が上がる予定であり、同様の傾向を示す可能性が高いでしょう。

インフレ目標によるインフレ誘導

これらの影響に加え、日銀の金融政策によるインフレ誘導の効果があるかもしれません。金融政策の効果については賛否両論がありますが、最近の傾向を見る限りは期待インフレ率は上昇しているようです。下図3は、期待インフレ率の代替指標として使われる期待インフレ率の推移を示していますが、ここ数年は上昇の傾向があります。但し、これが金融政策によるものかどうかは慎重に判断せねばなりません。

図3:ブレーク・イーブン・インフレ率の推移

図3:ブレーク・イーブン・インフレ率の推移

出典: 「ブレーク・イーブン・インフレ率の推移(財務省)」(PDF)

下げ止まっているが低い水準

2013年11月29日に現時点で最新の消費者物価指数(平成22年基準)が公表されました。そのうち、コアCPI(総合指数から生鮮食品を除いた指数)とコアコアCPI(総合指数から食料及びエネルギーを除いた指数)の動向を図4に示しています。

コアコアCPIは2013年10月は前月よりも上昇していますが、5月以降の停滞を考えれば、金融政策の効果が高いと評価する事は難しいかもしれません。何故なら、日銀はコアCPIの上昇を理由に金融政策の効果があると言っていますが、コアCPIにはエネルギー価格の上昇分が含まれており、本来は輸入資源分の価格を除いたコアコアCPIで判断すべきなのです。とは言え、コアコアCPIも下げ止まっているので、今後の動向を注視したいところです。

図4:コアCPIとコアコアCPIの動向

図4:コアCPIとコアコアCPIの動向

出典: 平成22年基準 消費者物価指数 全国 平成25年(2013年)10月分(総務省統計局)

全体を通して見ると、金融政策の効果によってインフレが起こるかは分かりませんが、逆にデフレになる可能性はあまり考えられません。一方で、それ以外の要因(輸入物価上昇と消費税増税)によるインフレが起こる可能性は高いので、全体としてインフレ率は上昇していくのではないでしょうか。