世界の景気回復をリードしていた米国景気に失速の兆候が出はじめている。(1)経済指標で予想を下回るネガティブ・サプライズが増えはじめたこと、(2)期待インフレ率が低下していること、(3)6月FOMCで利上げが決定したにもかかわらず米長期債利回りが低下していること、この3つの兆候から、市場が米経済のスローダウンに神経質になっている。
エコノミック・サプライズ指数が6年ぶりの低水準
米大手銀行のシティグループが出している経済指標に、シティグループ・エコノミック・サプライズ指数がある。米経済指標と市場予想のコンセンサスを比べ、上振れと下振れの乖離の度合いを指数化したしたものだ。景気上昇局面ではプラスゾーンで推移することが多く、下降局面ではマイナスに転じることが多い。
エコノミック・サプライズ指数は、16年後半からプラスに転じ17年3月には14年以来3年ぶりの高水準に達していたが、3月をピークに減少し始め、4月には15年以来のマイナスに転じた。ネガティブ・サプライズが増えてきているため、直近6月23日発表のデータでは11年8月以来6年ぶりのマイナス乖離幅に落ち込んだ。
6月は雇用統計、CPI、住宅着工などがネガティブ・サプライズ
6月の米経済指標を振り返ってみよう。米景気を判断するのに重要な指標として雇用統計、物価統計、住宅統計などがある。6月以降の統計がすべて悪いというわけではないが、こういったキーとなる統計のネガティブ・サプライズが目立ってきている。
6月2日発表の米5月雇用統計は、非農業部門雇用者の増加数が市場予想の18.5万人に対して13.8万人と大きく下回った。前日発表の民間の雇用統計であるADP雇用統計が予想を大幅に上回っていたため期待感が高かったこともあり、発表後のドル円は111円50銭レベルから110円60銭レベルまで大幅な円高になった。
6月14日発表の米5月消費者物価指数(CPI)は市場予想の前月比横這いだったのに対しマイナス0.1%とマイナスに転じた。ガソリンなど幅広い品目で物価が下落した。統計発表後、ドル円は110円20銭レベルから109円50銭レベルまでの大幅な円高となった。
6月16日発表の米5月住宅着工件数は、年率で市場予想が122.0万件なのに対し109.2万件で前月比5.5%減と予想を大きく下回った。発表後にドル円は111円30銭レベルから111円10銭レベルまでの円高に振れた。
経済指標がネガティブ・サプライズになる度に円高が進むのは、市場の米景気に対する懸念が高まってきたからに他ならない。
期待インフレ率の低下
ニューヨーク連銀が6月12日に発表した米5月の消費者の期待インフレ率では、3年先の期待インフレ率は2.47%と、4月調査の2.91%を下回った。13年の統計開始以来、16年1月の2.45%に次いでの過去2番目の低水準。
5月のCPIが前月比マイナスに転じ、期待インフレ率が低下していることで、米国にデフレ懸念が生じてきている。デフレは、日本のバブル崩壊後の失われた20年に見られるように、金融市場においてはもっとも嫌気される。
FOMCの利上げでも長期債利回りへ低迷
FRBは6月のFOMCで政策金利であるFFレートを25bps利上げし、誘導ゾーンを1%-1.25%にした。15年12月から3度目の利上げにもかかわらず、米国長期債利回りは低下したままだ。
米長期債利回りは16年11月にトランプ大統領が誕生し、リフレ期待、インフレ期待が高まったため2.6%台まで急騰したが、その後は低下傾向を強めている。FOMCの6月利上げ後も2.1%台とトランプ大統領就任以降で最低水準となっている。
CPIや期待インフレ率の低下が長期金利の上昇を阻害しており、利上げによる日米金利差拡大の思惑で円安が進むというような単純な状況ではなくなっている。
FOMCメンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)では、17年12月が1.375%、18年12月が2.125%となっている。一方、CMEのFFレート先物からみた市場のFFレート予想では17年12月末が1.235%、18年12月末が1.47%となっている。市場は、FRBが想定している利上げペース、17年にあと1回、18年にもう3回を実行することは難しいとみているようだ。
米国の経済の方向性とFRBの金融政策は、米国のみならず世界の金融市場に大きな影響をあたえる。当面、米経済指標を注意深く見守りたい。(ZUU online 編集部)
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