『東京警備指令 ザ・ガードマン』をご存知だろうか。筆者が子供の頃、絶大な人気を誇ったテレビドラマであるが、その中で印象的なのは主演の宇津井健をはじめとするメンバーの「たばこを吸うシーン」である。ダークスーツ姿のダンディな男たちが、たばこの紫煙をくゆらせる……とにかく、このドラマでは喫煙シーンが頻繁に登場する。子供心にたばこは「格好いい大人のアイテム」との印象を受けたものだ。

当時の日本における喫煙率は80%以上で、なんと日本人の8割を超える人がたばこを吸っていた。それが現在では20%を切っており、たばこ販売数量もピーク時から5割も減少している。

注目されるのは、そうした状況下にありながらJT(日本たばこ産業) <2914> の株価が上昇したことだ。同社の株価は今年2月7日の安値3607円を底に反発し、5月24日の高値4243円まで18%も上昇している。JTに何が起きているのだろうか。今回は、JTの株価上昇の背景に迫ってみよう。

かつては「8割以上の人」がたばこを吸っていた

JTが毎年5月に実施している「全国たばこ喫煙者率調査」によると2016年の喫煙率は19.3%と前年の19.9%から0.6ポイント減少した。男性は31.0%から29.7%と1.3ポイント低下し、女性は9.6%から9.7%と0.1%の微増だった。

ちなみに、1966年の日本人の喫煙率は83.7%で、8割以上の人がたばこを吸っていた。「パッシブスモーキング」なんて言葉はなく、たばこを吸っていることが格好いい時代だったのだ。前述の『東京警備指令 ザ・ガードマン』のようにドラマやCMでも喫煙シーンが数多く取り上げられていた。

あれから50年、喫煙率は20%を切り、5人に1人程度にまで縮小している。もちろん、国内販売の落ち込みも激しい。日本たばこ協会によると、たばこの販売数量は1998年度が3366億本、販売代金では1999年度の4兆2600億円がピークだ。それが2016年度の販売数量は1680億本とピークから約50%減少、販売代金は「度重なる値上げ」にもかかわらず3兆6377億円と15%減少している。

バブル最盛期となる1980年代後半のメビウス(旧マイルドセブン)の値段は1箱220円だった。それが、現在は430円で2倍近くに値上がりしている。「デフレ時代」にこれだけ価格が上がる商品も珍しいのではないか。ちなみに、たばこの値段の6割以上が税金なのだ。

国内たばこ市場におけるJTのシェアは約6割。国内販売は2016年の数量が1062億本で2.8%減、金額ベースでは値上げ効果もあり1.2%増の6497億円となった。2017年は数量が9.6%減の960億本、金額が4.6%減の6200億円となる見通しだ。JTのたばこ販売数量で「1000億本割れ」が実現すると、1985年の民営化以降で初めてのこととなる。もちろん、販売減少に歯止めがかかる見通しは皆無に等しく、長期的にもさらなる減少が続く可能性が高い。

株価は「時代の変化」に反応する

健康志向の高まりによる禁煙ブームで、紙巻きたばこの減少は世界的なトレンドだ。一方、紙巻きたばこの代替として世界的に拡がっているのが「電子たばこ」である。

フィリップモリスは、2015年に過熱式の電子たばこ「アイコス(IQOS)」の販売を開始、翌2016年には購入困難となるほどの大ブームを巻き起こした。JTも昨年3月に同様の電子たばこ「プルーム・テック(Ploom TECH)」を福岡限定で投入した。プルーム・テックは1週間で完売となる人気ぶりだった。

そして今年5月、JTはプルーム・テックを6月29日から東京都内の銀座や新宿などの数店舗でも発売すると発表。7月10日からは、港区、渋谷区、新宿区、千代田区、中央区、品川区など約100店舗のたばこ店でも発売する予定だ。

ちなみに、プルーム・テックは「スターターキット(バッテリー、USBチャージャー、ACアダプター、キャリーケース込)」で購入する必要がある。キットの購入には事前予約が必要で、現在は1人当たり1キットしか申し込むことができない。スターターキットに、5個460円のたばこカプセルを装着して喫煙する。

JTを含む、過熱式たばこを販売する会社は、レストランや公共施設など紙巻きたばこが吸えないエリアでも過熱式たばこは吸えることを許可するステッカーを共同作成し、自治体や外食店に無料で配布することを明らかにしている。こうした普及活動を通じて、市場を拡大していく方針だ。

株価は時代の変化に敏感である。JTの株価が上昇したのは、電子たばこ市場という「新潮流」を好感したのだろう。

海外の事業展開を積極的に推進

ところで、先進国では急速に縮小している「たばこ市場」であるが、アジア地域などではまだまだ成長の余地が残されている国があるという。

実際、JTの2016年12月期の売上を見ると、海外たばこ事業は1兆1992億円で、国内たばこ事業の6842億円を大きく上回っている。JTは1999年に米たばこ大手RJレイノルズを買収したほか、2007年には英たばこ大手ガラハー、2016年には米ナチュラル・アメリカン・スピリットの海外部門をそれぞれ買収している。こうした積極的なM&Aで海外事業の拡大に取り組んできたのである。

たばこのイメージが強いJTであるが、実はたばこ以外の部門も拡大している。たとえば食品部門では、冷凍食品をテーブルマーク(旧加ト吉)で展開しているほか、医薬品部門も鳥居薬品 <4551> で展開している。電子たばこ市場の成長も含め、JTは今後どのように変貌していくのか注目したい。(ZUU online 編集部)