スバルが米国で絶好調だ。同社の米子会社スバルオブアメリカは7月3日、2017年上半期(1~6月)の総新車販売台数が上半期新記録の30万4810台と、前年同期比の9.1%増に上ったと発表した。

米自動車市場がピークアウトを迎え、日米を含む各国の自動車メーカーが苦戦を強いられるなか、ステーションワゴンとSUVのクロスオーバーSUVである『アウトバック』(日本名『レガシィアウトバック』)が前年同期比11.5%増の新記録、8万6253台と2桁の伸びで牽引役を演じたことが特筆される。

さらに、SUVの『フォレスター』は、これまた上半期の新記録の8万7957台を売り、前年同期比9.6%増、「WRX」を除く『インプレッサ』はフルモデルチェンジ効果もあり、上半期の新記録となる4万3026台、前年同期比で44.6%増と販売が大きく伸びた。多くの車種でアナリストの想定を上回る実績だった。

これらの数字は全般的に、米市場で人気車種がセダンからSUVに移っている傾向と合致しており、米国におけるスバルの販売の伸びの大きな部分は、「SUV人気」で説明できる。

だが、スバルが売れる背景には、SUVブームだけではない独特の理由がある。また、日本側から見た、「これが米国でスバルが売れる理由だろう」という推測と、現地のディーラーなどがスバル車を売り込む際に使うセールストークには微妙なズレがあり、文化の差を感じさせて興味深い。

なぜ今、スバルが米国人に好まれるのか。探ってみよう。

日本側は「安全」、米国側は「実用」

SUBARU,スバル
(写真= Grisha Bruev/Shutterstock.com)

著名自動車評論家の坂上賢治氏は最近の記事の中で、スバルの米国販売好調の理由のひとつを、米国の自動車安全基準である「Top Safety Pick(自動車安全基準の最高評価)」の全車種獲得に求めている。また、全体的に高い同社の技術力や、完成度へのこだわりも理由に挙げている。坂上氏の分析は、それなりに当たっていると思われる。

だが、実際に米国の現地でスバル車を売るディーラーのセールスポイントは、「安全」「技術」ではなく、「実用性」に重点を置いている。米コロラド州デンバー市は、11万台のスバルが走る、全米4位の「スバル都市」である。そのデンバーに隣接するオーロラ市で「ショートライン・スバル」という名のディーラーの販売部長を務めるビル・カレラ氏によると、「ほとんどのスバル車はフルSUVではないが、少なくとも5ドアのハッチバックであることが特徴だ」と、スバル製品が差別化できる長所を説明。

その上でカレラ氏は、「スバルの車なら、雪だろうがぬかるみだろうが、ノープロブレムだ。何でも運べるし、車中泊でさえできる。そうやって、どこにでも行けるから、コロラドの人はスバルが好きなんだ」と説明する。

ウリは、あくまでもSUVのような機動性を備えたステーションワゴン、というところにある。デンバーのように雄大な自然が近くにある場所では、なおさらだ。こうした理由で、デンバー地区で一番売れているのはクロスオーバーSUVの『アウトバック』なのだという。

カレラ氏はさらに、「トラックほどの大きさはないが、性能は負けてはいない。安全で、運転も簡単だ。アウトドア派には、たまらないね」と述べる。他にもスバルはシアトルやポートランドといったアウトドア派の多い都市で人気だが、ニューヨークやフィラデルフィア、首都ワシントンといった、「都市の中の都市」でも人気上位にランクインしていることが特徴だ。こうした場所では、スバルご自慢の安全技術や車載コネクティビティ(インターネットと車の融合)も購入検討の重要な要素だ。

新型の『クロストレック』(日本名『XV』)は車載コネクティビティの「スターリンク」の最新版の採用し、6.5インチのタッチパネルを核にしたマルチメディアシステムを、車の中でiPhoneを使えるアップルの「Apple CarPlay」およびグーグルの「Android Auto」に対応させている。さらに、SOS緊急アシスタンス、自動衝突警告、ロードサイドアシスタンス、メンテナンス通知なども提供することで、魅力を高めている。

また自動車業界誌「オートカー」は、スバルが2021年までに米国で電気自動車SUVの『フォレスター』を発売すると予測しており、米国のスバルファンの間で期待が高まっている。

人気の根底にある「スバル愛」

このように、米国における歴史が50年目を迎えたスバルは、上昇気流に乗っている。だが、最初の40年は鳴かず飛ばずの状態であった。それが、どのようにして認知され、ファンを増やしていったのだろうか。

スバルオブアメリカでマーケティング上席副社長を務めるアラン・ベスキー氏は、「販売が上向き始めたのは、2006年にミネアポリスに本拠を置く広告代理店のカーマイケル・リンチを採用してからだ」と明かす。2008年から2009年にかけて、消費者認知度とブランドイメージが向上し始めたのだ。

そのきっかけを作ったのが、「ラブCMキャンペーン」である。一連の広告で、スバルオーナーの家族への愛とマイカーへの愛を融合させたメッセージを送ったのが、受け入れられた。この「スバル愛」が、米国におけるスバル販売のアイデンティティーと基礎になったのだと、ベスキー上席副社長は語る。

こうして顧客が「次のクルマもスバルで」と指定するようになったばかりか、他社のクルマに乗っていた人たちも、「次はスバル」と考えるようになった。これが、クロスオーバーSUV人気と重なり、現在の好調な販売につながっているわけだ。

こうして、米国でポジティブな見方をされるスバルは、今年の4月1日に『富士重工業株式会社』から社名変更をしたばかりだが、その源流には太平洋戦争中に大活躍した『加藤隼戦闘隊』で有名な一式戦闘機「隼」など、計29925機の航空機や高性能の「栄」「誉」エンジンを開発・生産した『中島飛行機』がある。

「スバル愛」の基礎となっているのは、戦前から脈々と受け継がれる確かな技術であり、それを一般の米国人向けに「どんな道でも大丈夫なSUV」「愛すべきクルマ」というわかりやすい形で発信したことが、米国での大成功につながったようだ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)