「文章を書くのが苦手」の原因は?
「言いたいことがよくわからない」
「もっとわかりやすい文章を書いて欲しい」
企画書などのビジネス文書や就活における自己PR文など、自分が書いた文章を読んだ人から、こんな風に言われたことはありませんか?
あるいは、手紙などプライベートなものも含めて、文章を書くときになかなか思い通りにいかずに、「自分には文才がない」「語彙が足りない」とあきらめていませんか?
自分の考えを上手く表現できずに、結果として「わかりにくい」「伝わらない」文章を書いてしまう原因はどこにあるのでしょうか。
ロングセラー『文章力の基本』の著書もあり、長年に渡って数多くの社会人や学生に文章指導をしてきた阿部紘久さんによると、文章を書くのが苦手な人は文才や語彙が足りないのではなく、
「誰でも知っているやさしい言葉を適切に組み合わせることができない」
のだそうです。加えて次のようにも指摘しています。
無駄なことをたくさん書いてしまったり、考えていることと違うことを書いてしまったり、頭の中にあった大事なことをうっかり書き忘れてしまうことも珍しくありません。『文章力を伸ばす』
( 『文章力を伸ばす』 「はじめに」より)
阿部さんの新著、 『文章力を伸ばす』 には、
「読み手の側にまわってみる」
「文の基本形を確かめる」
「言葉を削れば、より多く伝わる」
「難しい言葉で飾らない」
「基本的な言葉を正しく使う」
など、明快で伝わりやすい文章を書くための81のポイントが、文例とともに提示されています。ここではその第4章
「読むそばからスラスラ分かるように書く」
と、第9章
「共感が得られるように書く」
の中から、一部を紹介しましょう。
読み手の頭に入りやすい文章とは
読み手にとって、頭に入りやすい文章とそうでない文章の違いはどこにあるのでしょうか。
読み手は、基本的に何の知識もないまま文章を読み始めます。一方で書き手は、自分が分かっていることをつい自明のこととして書いてしまうことが多く、読み手はここにストレスを感じます。
次のようなポイントに気をつけて読み手の立場に立って書くと、読みやすく負担をかけない文章になります。
1.主役を早く登場させる
【文例1】
次々と新しい事象が発生し、同時並行で複数業務を行わなければならない点に、本社業務の難しさがあります。
文例1は、製造現場の仕事に比べ、本社業務の何が難しいのかを書いた文章です。「本社業務の難しさ」というこの文章の主役が最後に出てくるので、読み手はしばらく「何の話かな?」と落ち着きません。もっと長い文章なら、読むのを止めてしまいかねません。
次の改善案のように主役を早く登場させれば、読み手は安心して読み進むことができます。
【改善案】
本社業務の難しさは、次々と新しい事象が発生し、同時並行で複数業務を行わなければならない点にあります。
2.基本は時系列
【文例2】
今はもう辞めてしまったが、ボストンへ短期留学する前、私はこの英会話教室に小学生の頃から通っていた。高校生の時、引越しをしたのでこの教室が遠くなってしまったが、それでも電車で往復一時間かけて通い続けた。
時系列を無視して思いついた順番に書いてしまうと、読み手が混乱します。基本は時間を追って順に書きます。
【改善案】
私はこの英会話教室に小学生の頃から通っていた。高校生の時、引越しをしたのでこの教室が遠くなってしまったが、それでも電車で往復一時間かけて通い続けた。大学入学後も、ボストンへ短期留学する前までずっと通っていた。
(62ページ)
3.曖昧接続を避ける
【文例3】
サンゴの天敵であるオニヒトデのトゲには毒があり、慎重に駆除作業を進めます。
因果関係がはっきりしている文章は読みやすいですが、それを曖昧に書いてしまう人がいます。文例3は読点の前後の内容が因果関係ではなく単なる併記のように感じられるため、明快さを欠いています。
原因と結果の関係はストレートに書いたほうが、言いたいことがはっきり伝わります。
(74ページ)
【改善案】
サンゴの天敵であるオニヒトデのトゲには毒があるので、慎重に駆除作業を進めます。
共感が得られるように書く
自分の感情をわかってほしい、と思うあまりに、強調表現や凝った表現を使い過ぎると、読み手は押し付けがましさを感じて共感してくれません。事実に淡々と語らせた方がかえって読み手の心を動かします。
3つの文例を見ていきましょう。
1.強調語を使い過ぎない
【文例4】
この経験から、自分に目標と強い意志があれば、どんな難しいことでも必ず達成できるということを学びました。
就活生の自己PR文でしょうか。自分を売り込みたい気持ちはわかりますが、「どんな難しいことでも必ず達成できる」は誇張でしょう。
阿部さんが見たある学生の「志望動機」には、 「極める」「猛勉強」「心から」「涙が出そうに」「必ずと言っていいほど」「感激」 などの強調語が詰め込まれていたそうです。逆効果ですね。
【改善案】
この経験から、自分に目標と強い意志があれば、難しいことでも達成できるということを学びました。
(156ページ)
2.凝った表現は避ける
【文例5】
高校野球を小さい頃からテレビで見ていた。そして、そのプレーにいつも感動している自分がいた。
「自分がいた」「自分の中で」といった表現を使う人が増えていますが、ちょっと思わせぶりで格好つけているな、と感じる読み手も多いので気をつけましょう。
【改善案】
高校野球を小さい頃からテレビで見ていた。そして、そのプレーにいつも感動していた。
(157ページ)
3.自分のことも、事実に淡々と語らせる
【文例6】
私は高い想像力を持っています。自分が経験したことのないことでも自分に置き換えて想像をすることができるので、人の気持ちになって考え、その気持ちを理解することができます。
これもある人が書いた自己PR文ですが、このような、手放しで自分を礼賛する文章は共感されません。普段の人間関係と同じで、やや控えめで謙虚さが見える文章の方が好感を持たれるでしょう。
【改善案】
私は相手の身になって感じたり考えたりする想像力を磨こうと、いつも心がけています。
(161ページ)
阿部さんは
『文章力を伸ばす』
の序章において、「書く力は、考える力そのものです」と指摘しています。自分の考えを文章で相手に伝えるためには、考えていることを誰にでもわかるように組み立てて、共感が得られるように表現することが求められます。したがって、文章力を磨くことは思考力を磨くことに他ならないわけです。
文章力は、社会人として、学生として、あるいは1 人の人間として、さまざまな可能性を広げてくれる能力なのです。
(序章より)
文章を書くことが好きな人も嫌いな人も、「書くこと」にもっとチャレンジして、文章力を磨いてみませんか?
(提供: 日本実業出版社 )
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