社会人に求められる「コミュニケーション能力」とは?

ある調査によると、企業が新卒の採用選考時に重要視する要素として「コミュニケーション能力」が10年連続で第一位にランクされています( 参考 )。その一方で、88%の社会人が「仕事で自分の考えがうまく伝わらないことがある」と感じ、悩んでいるそうです(「第2回ビジネスパーソンのコミュニケーション感覚調査」産業能率大学2011)。

もっとも、コミュニケーション能力が具体的にどういった力を指すのかは、必ずしも明確ではありません。

ある人は「空気が読める、誰とでもうまく関われる、感じがいい」といったような資質のことを思い浮かべるかもしれません。あるいは、「自分の思い通りに相手を動かすスキル」と考える人もいるでしょう。

しかし、それらは、仕事をはじめとした社会のさまざまな場面で必要な「成果が問われるコミュニケーション」においては最優先の事項ではありません。(前書きより)

こう著書の中で記しているのが、大企業でコンサルタント・マネージャーやアナリストを勤め、現在は武蔵野大学で人気のビジネス・コミュニケーション講座で教鞭をとる、金子敦子さん。

金子さんによると、社会人に求められるコミュニケーションは、 目的に照らし合わせて、相手に「誤解なく情報を共有し、対話し、成果へとつなげる」 ことだそうです。

今回は著書、 『「で、結局何が言いたいの?」と言われない話し方』 の中から、相手に誤解なく確実に伝える話し方のポイントを教えてもらいます。

成果を出すコミュニケーションの3原則は……

まず、仕事をはじめ、成果が問われる場面でのコミュニケーションには、次の3つの原則があります。

1、 コミュニケーションには目的がある

何のための話なのか、という「目的」を見失わないようにします。目的がはっきりしていれば、何を話し、聞くべきかがつかめます。仕事におけるコミュニケーションのゴールは「相手の話を理解し、自分の話を理解してもらい、成果につなげること」です。

2、 コミュニケーションは受け手が出発点である

「受け手」の頭の中を想像し、ひとりよがりのまとまりのない報告にならないようにします。いくら話し手が言葉を発しても、受け手が知覚しなくては、コミュニケーションは成り立ちません。

3、 コミュニケ―ションにはコストがかかる

コミュニケーションを取ろうとすれば、自分の時間と同時に、相手の貴重な時間も消費してしまいます。「忙しいのに」と、いらだちを感じさせないためにも、「コスト」を考えて、話がだらだらと長くならないようにしましょう。

これらは、金子さんがコンサルタントとして働く中で「なんで?」「で、どうしたらいいの?」とつっこまれ続ける中で、またアナリストとしては、自分が発したメッセージで、数千万円単位の金額が動き成果がシビアに評価される中で、「コミュニケーション」について試行錯誤をしながら気づいた原則です。

以上の3原則を踏まえて、相手に誤解なく、確実に伝えるための話し方のポイントを紹介します。

「で、何が言いたいの?」といわれる、伝え方をしない

相手になにか物事を伝えるとき、まず自分自身が話す目的を理解している必要があります。たとえば会社で、部下から「困りました」や「どうしましょう」とあいまいに相談されても、上司は困ってしまいます。

相談や報告をするときは、「○○の企画についてですが、少し問題が起こりました。対応についてご相談する時間はありますか」というように、「何についての話」で「現在どうなっていて」「どうしてほしいのか」がわかると相手も話の内容を理解しやすくなります。

お客様との商談でも、「○○をご提案したいと思います。理由は○○です。いかがでしょうか」というように、あなたが伝えたいのはどんな話で、相手にどう関わる話なのかをきちんと示すことが大切です。

コミュニケーションには、何かしらの目的があります。「状況を知らせたい」「助言がほしい」「調整したい」といった、自分が求めている目的を明確にしないと、相手もうまく答えることができません。

主語と動詞をはっきりさせる

上司に報告する際、こんな言い方をしてしまうことはありませんか?

「『ぜひ、この企画で進めたい』と言っています」
これでは、誰が進めたいと言っているのかがわかりません。他の部署の人なのか、あなたなのか、取引先なのか……、誰が企画を進めたいのでしょう。

他には、上司に慌てた様子で、こんな報告をする人もいます。

「急がないとまずいので、了解をいただきたいです」
これも、誰にとってまずいことが起こるのかわかりませんし、何に対してゴーサインをだしていいものか、上司には判断がつきません。

このように不鮮明で、混乱を引き起こす伝え方は、主語と動詞がはっきりとしていないことが原因です。大事なのは、「主語と動詞をはっきりさせる」ことで聞き手が余計な疑問を抱かないように配慮することです。「誰が」「何をしたのか・するのか」をはっきりと伝えれば、相手が誤解する余地がなくなります。

また「それ」や「あれ」といった代名詞は、できるだけ使わないようにしましょう。上司への報告で、「あの件に関しては、進めておきますね」などと、会話をしてしまうと、「あの」が何を指しているか上司と部下で認識が違ったということが起きかねません。

重要な話ほど、短く伝える

重要な話ほど、誤解のないように詳しく話さなければと、長くなってしまうものです。しかし「確実に伝えたい話ほど、簡潔にしましょう」と、金子さんはいいます。

話し手は、一生懸命に話していると時間が経つのを忘れてしまいますが、聞き手の集中できる時間は限られています。相手にきちんと伝えたいことがあるときには、自分の持ち時間を意識して、話す必要があります。

そのために意識するポイントは以下の3つです。

・関連の低い話は削る

「関係しそうな情報は全部伝えたい」あまり、関連する情報を話にすべて盛り込んでしまう人がいます。しかし、関連性の弱い情報や、テーマからそれた情報まで話すと、聞き手に混乱を生じさせるばかりか、聞く気をなくさせてしまいます。

相手がどのくらい詳細な話を求めているか、そのレベルを意識しすることが大切です。

・欲張らない

話し手はできるだけたくさんのことを伝えたいと思っていても、聞き手はそれほど覚えられないものです。聞き手に「この話から、何を持ち帰ってもらいたいか」を意識しましょう。

・短く伝える練習をする

そうはいっても、伝えたいことを端的に話すのは意識してもなかなか難しいものです。そこで、金子さんは1分で話す練習をすることを勧めています。1分で話せる量は文章にすると、250字くらい。一般的に1分あれば、メインメッセージと主な根拠を話すことができるそうです。

時計の秒針が1周する間に、どれだけのことが言えるか。日頃から練習をしておくと、とっさのときにも簡潔に伝えられるようになります。

大事な話は事前にレビューする

話したあとで「で、何が言いたいの?」と言われてしまわないために、周囲の人に事前にレビューしてもらうことで、内容の質をあげておくことができます。周りの人も忙しくてそんなことを頼めない、という時は1人でもレビューができる便利な3つの質問があります。

1、「本当?(True?)」
2、「どうして?(Why?)」
3、「で、どうしたい?(So what?)」
(本書75ページより)

「本当?」と「どうして?」は確認をしたり、詳細や根拠を求める質問で、知らないことや予想外のことを聞いた時に自然に出てくるセリフです。これを自分自身に問いかけることで、自分の話のどこがわかりにくいのかに気づくことができます。

さらに、言いたいことを言葉にしてみたけれど、なんだかわかりづらいと思ったら、3の「で、どうしたい?」という問いを自問してみましょう。相手に何か伝えるべきことがあるとき、「自分はどうしたいのか?」「相手にどうしてほしいのか?」を確認すると、本来の話の目的が明確化されていきます。


伝えるべきことはきちんと話しているはずなのに、「自分の考えがうまく伝わらない」と悩んでいる方は、仕事に求められる「成果を出すコミュニケーション」を意識してみてはどうでしょう。

(提供: 日本実業出版社 )

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