120年ぶりの民法改正が公布された。2019年秋以降を目途にした施行となる。300近い条文変更箇所となるようだ。その中でも賃貸借契約の連帯保証については、限度額を設定する方向でかえって連帯保証人になることへの懸念が広がるという。関連する家賃保証会社の市場が抱える問題と併せて検証していく。

現在の連帯保証人制度と改正点の違い

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(写真=PIXTA)

現在の連帯保証人制度では賃貸借契約における契約書では殆どの場合において「連帯保証人は借主が貸主に対し負う一切の債務につき連帯で保証する」と定められている。家賃滞納だけに限らず、賃貸借契約から派生する借主が引き起こした他の債務や賠償についても基本的には適用される。改正版では、この「一切」という取り決めが無効になる。明確に「最高○○○万円を限度として」と限度額を明記しなくては有効にならない。専門家や業界の側からみると「連帯保証人にとって安心感の得られる制度」なのだが、どうやら一般的に人の受ける感覚では少し違うようだ。

賃貸物件を借りたい場合には連帯保証人を身内に依頼することが一般的であった。他人よりもまずは身内にまず頼む。しかし近年、核家族化や親戚付き合いの希薄化が進み、連帯保証人を身内に頼める人のほうが珍しくなっている。職場の同僚や先輩、友人に依頼している人が多い。しかし親戚よりも頼みやすくなっているのが今の社会現象だとはいえ、実際契約書類に判を押す段階で「金○○○万円」という金額を目にすると断りたいと思う人のほうが増えるかもしれないというのだ。

実はリーマンショック以降じわじわと増えた家賃保証会社利用

その影響を受け家賃保証会社の利用者が増えると見ている。家賃保証会社とは賃借人の滞納が発生した家賃を家主へ代位弁済し、家主に代わり賃借人へ請求する会社である。実はリーマンショック以降、不景気の影響からすでに利用する賃貸人は増えている。非正規雇用者が増え、身内と言え連帯保証できない人が増えたためだ。その頃から様々な内容の家賃保証会社が登場している。

改正民法での連帯保証人限度額は個人に対してのみの規定である。法人である家賃保証会社が保証する場合はその限度額を明確化することは不要であるため改正後は更に利用者が増えるとみられている。

家賃保証会社の市場が抱える問題

家賃保証会社は滞納が発生した家賃に対し、早い対応ではその月からそれを立て替え家主に支払う。立て替えた家賃分は借主に対し支払うように何度でも督促を行う。しかし1か月や2か月の滞納では借地借家法上退去を迫ることは難しい。しかもそれを行えるのは家主だけである。滞納期間が延びれば伸びるほど家賃保証会社にとっては回収不可能になる確率が高くなる。実際には毎日深夜に取り立てに行ったり、手荒い方法での支払い請求をおこなったりが問題となり裁判となっている例もでている。結果、借主に対しての損害賠償支払いの判決が出ているケースもあるのだ。

家賃保証会社の市場はその急発展がためにまだ法整備が追い付いていない。賃貸借契約上はっきりとした位置づけがされていない。監督官庁も存在しないためある意味放置状態である。現在のところは加入者を増やしたい保証会社とキックバック目当ての不動産管理会社が提携し、連帯保証人と家賃保証会社加入の2本立てを賃貸借契約の条件にしているケースが多い。滞納があっても、賃借人と連帯保証人の両方に取り立てが可能になるからだ。しかし改正後、連帯保証人が取れなくなることが一般的になってしまうと予見するのであれば、早急に保証会社についての法整備を行わなければ、トラブルが増発することは容易に想像できる。

この民法改正ではこの他にも「敷金原則返金の明文化」や「一定期間以上大家が放置した場合の賃借人による修繕の許可」なども含まれてくる。いずれにしろ不動産業界、賃貸経営の関係者たちにも大きな影響が予想される。関連する諸問題への対処も含め施行まで引き続きその行方に注目しておきたい事項である。(片岡美穂、行政書士、元土地家屋調査士)