こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。
日本では、「円安=善」「円高=悪」と言われる事が多いように思われますが、それは正しいのでしょうか。円安が良いと言われるのは輸出企業の業績が向上すると考えられているからですが、日本は付加価値の大半が国内で消費される内需国で、輸出企業の利益だけを考慮するのは適切ではありません。
円安で輸出が有利になって業績が上がる企業がいる一方で、円安で輸入が不利になって業績が下がる企業がいるのです。また円安は、交易条件も悪化させるので消費者にとっても不利益は大きいです。「通貨高=強い通貨」という本来の考え方は、こうした理由によるものなのです。
日本は輸出国家?
いわゆるアベノミクスの目玉である大規模な金融緩和とその宣言により対米ドルで見て大きく円安になっている傾向が見られます。その傾向は一般的に好意的に報道されていると思いますが、その理由は「輸出企業にとって円安は望ましい」という事にあるでしょう。同じ事ですが、「円高になると輸出企業が海外に出ていってしまう」と言われる事もあります。
輸出企業にとって円安が良いという事は大まかに見て間違ってはいませんが、それを理由に国全体を考える時にも「円安が良い」と考えてしまうのは短絡的です。もう少し冷静に考えてみましょう。例えば、日本は輸出国家でしょうか
日本は内需国である
日本が輸出国家(外需国)であるかどうかを考える時に最も便利で有効な指標がGDPに占める輸出依存度です。下図は、各国の輸出依存度を比較したものですが、日本の輸出額はGDPのうち17.4%に過ぎません。以前、ウォン安で大打撃を受けた韓国の輸出依存度は50%を超えていますので、それに比べれば日本の輸出依存度は遥かに小さく、「輸出企業の利益になるから円安が良い」と簡単に結論付けられるものではありません。
もちろん、この輸出額は「最終的に輸出される財の価格の合計」であり、直接輸出を行わないものの輸出企業に関係する企業は多くあります。しかし、それを加味しても日本は内需国であると考えるのが妥当でしょう。
円安で「得する企業」と「損する企業」がいる
製品を海外に輸出する企業が円安の恩恵を受けるのに対して、製品を輸入して販売する企業が円安によって不利益を被るという側面を忘れてはなりません。日本が内需中心の国である以上、円安で利益が出る企業以上に円安で不利益が出る企業の方が多いと考えるのが普通です。
また、工場などを動かす際に使う電気は輸入資源に依存している状態なので、円安による資源輸入価格の上昇が電気代などの増加をもたらします。こうした影響は輸出企業であっても当然受けるので、円安による利益の一部が円高による生産コストの増額によって打ち消されてしまう事にも注意が必要です。「円高になると企業が海外移転してしまう」という言説がありますが、輸入価格が上がる事によって海外移転を行う企業も存在するので、海外移転を理由に円高を望ましいと主張する事には筋が通っていないでしょう。
円安で交易条件が悪化する
前節で述べた事と本質的には同じ事ですが、円安によって輸出量が増える代わりに輸入量が減る傾向があります。これは、経済学的には「交易条件の悪化」と言います。交易条件とは、輸入財と輸出財の交換比率の事です。交易条件が良い状態というのは、「少ない財を出して多くの財を手に入れる」事なので、円安になると、「多くの財を出して少ない財を手に入れる」事になり、交易条件が悪化します。
これを簡単な例で考えると、ある為替レートにおいて車10台を輸出して小麦300トンを輸入している国があったとして、通貨安になって車12台を輸出して小麦240トンを輸入するようになったとしたら、財の交換として考えると損になります。全体として財の流出になっているわけであり、それは消費者にとっては不利益になります。同じ所得なら安く財を入手出来る方が消費者利得が高いと言えるので、「円高になると企業が海外移転してしまう」とか「円高で安い輸入品が入って国内企業が潰れる」と一面的にとらえて批判することは問題でしょう。
「通貨高=強い通貨」という素朴な見方が適切
以上から見て分かる通り、円安や円高といった為替レートの傾向は、簡単に良いか悪いかを判断出来るものではありません。どちらにもメリットとデメリットがあり、「輸出企業の売上が増える」という一点だけを取り出して「円安が望ましい」と考えてしまう事には大きな問題があるのです。
外需企業と内需企業に分けて考えた時、為替変動は両者にメリット・デメリットの両方をもたらし、その差分が為替変動による利益・損失であり、実際には少しの為替変動が大きな影響を与えるわけではなく、また、日本は内需企業が圧倒的に多いです。この状況から敢えて「円安と円高のどちらが望ましいか」に答えるなら、「強い通貨」としての円高の方が、利益を受ける主体が多いという点で良いと言えるでしょう。