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Written by 鈴木 まゆ子 44記事

平成29年度税制改正の変更点

中小企業オーナーの「自社株相続」事情 節税対策で設立した企業には逆風か

平成29年度税制改正により、今年の1月1日から、相続や贈与などで引き継いだ非上場株式の評価の仕方が変更になった。これにより、非上場株式に課せられる相続税はおおむね減税になる模様だ。ただし、条件によっては、一部の中小企業の株式はむしろ増税となることも。

非上場の自社株の評価はどのようになっているのか。そして、どのような場合に増税となるのだろうか。

非上場の自社株の評価とは

自社株相続,平成29年度税制改正
(写真=PIXTA)

自社株相続とは、同族会社のオーナー社長やその一族が所有する株式の相続のことをいう。上場企業の株式のように、取引相場の価格という客観的な基準で評価を行うことができるが、中小企業の株式のように上場していない場合には、そのような基準がない。

そこで、非上場株式については、「財産評価基本通達」に基づいて、株主や会社の規模などに応じ、その評価方法を行うことになっている。中小企業に多い同族会社の場合、その会社に対する一族の支配力も強いため、中心的な同族株主や役員候補が取得した場合、原則として次のように会社の規模に応じて株式を評価することになっている。

大会社:類似業種比準価額
中会社の大:類似業種比準価額×90%+純資産価額×10%
中会社の中:類似業種比準価額×75%+純資産価額×25%
中会社の小:類似業種比準価額×60%+純資産価額×40%
小会社:純資産価額

ただし、大会社と中会社については、純資産価額との選択適用が、小会社については「類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%」との選択適用が認められている。

類似業種比準価額は、事業内容が類似する上場企業の株価をベースにし、これに上場会社と「自社の配当」「利益」「純資産」を考慮した上で、自社株を評価する方法だ。

この方法だと、自社の事業で利益が出ている場合や基準となる企業の株価が高い場合は、自社株の評価額も高くなりやすい。しかし、市価の変動が大きいため、対策も取りやすい。

一方、純資産価額は株式を会社財産に対する持ち分と考え、会社の純資産額に基づいて株式を評価する方法をいう。この方法では、社歴が長く剰余金の大きい会社や含み益のある不動産などを保有している会社の場合は評価が高くなりやすい。また、基準が資産であるため変動が少なく、その分対策が難しい。

平成29年度税制改正による変更点とは

税制改正による変更点は、相続等により取得した非上場株式の類似業種比準価額の計算方法だ。2017年1月1日から次のように変更された。

①上場会社と自社の「利益:配当:純資産」を比較する際、それぞれの比率の考慮の割合が「1:3:1」から「1:1:1」になった。

これにより、変更前の利益の比重が60%だったのがおよそ30%程度になり、利益が多くても評価額を抑えることができるようになった。そもそも利益体質で、一時的で無理な決算対策をしなくてもいい同族会社も出てくるだろう。

②類似業種の株価(上場会社の平均)に「前2年間平均」を追加した。これにより、上場株式の株価変動が評価額に作用する度合いを抑えることが可能になった。

③大会社及び中会社の適用範囲が拡大した。

例えば、これまで「大会社」になれるのは従業員100以上の企業だけだったが、改正以後は70人以上でも可能になった。一般的に、類似業種比準価額の方が純資産価額よりも低くなりやすい。そのため、これまで中会社だったのが大会社になったり、あるいは類似業種比準価額の要素がより大きくなったりすることは、自社株の評価を抑制する効果を生む。

以上の変更は、好況のメリットを受けるのが上場企業であり、中小企業はあまり関係ない事情を配慮したためのものだ。上場企業は、アベノミクスの影響やグローバルな事業拡大により株価が上昇しやすい。しかし、中小企業はそのような影響は受けにくい。そして、その自社評価は急な株価変動が生じやすい上場企業の株価が基準となっている。これらの結果、株価の変動が中小企業の円滑な事業承継にヒビを入れることにもなりかねない。このような背景を鑑み、中小企業の円滑な事業承継を保護すべく、今回の改正が行われた模様だ。

改正が裏目に出る会社も

類似業種比準価格での税制改正は中小の同族会社の多くにとっては減税となる見込みだ。とはいえ、例外はある。特に、資産管理会社や社歴の長い同族会社にとっては逆風になるかもしれない。

①株式保有目的会社は評価が高めに

非上場の同族会社の中には、土地保有や株式保有が目的などといった、いわゆる「資産管理会社」も少なくない。こういった会社は、一般的な事業を行うことではなく、資産管理が目的であるため、先の「大会社」「中会社」「小会社」の扱いとは別に、「特定評価会社」としてその株価の評価が行われる。

今回の改正により、株式保有特定会社の判定の際、これまで除外されていた新株予約権付社債も判定材料として用いられることとなった。株式保有目的会社は、原則として純資産価額方式により株価が評価されることとなる。そのため、税制改正前の基準よりも高く株式評価が行われる可能性も低くない。

また、上場企業の連結決算の結果も、今回の改正により加味され、簿価純資産の比重も20%から30%前後に増すこととなった。そのため、上場企業の株価上昇の影響が以前よりもダイレクトに響くことになるだろう。

②社歴が長く、含み益を多く抱えるオーナー企業の株価評価も高くなる

毎年の利益はそれほど大きくなくとも、社歴が長く、過去の内部留保が蓄積されている同族会社にとっては、今回の改正はマイナスに響くかもしれない。なぜなら、先述の通り、自社株評価にあたって、簿価純資産の比重が20%から30%以上に高まるため、含み益のある資産があればあるほど、それが評価に直結するからだ。

また、こういった会社は、節税対策として生命保険に加入しているケースが多く見受けられる。この場合も要注意だ。生命保険は、自社株評価にあたり、「生命保険を受け取れるとしたらいくら受け取れるのか」という解約返戻金の額で評価されることになる。これは、保険が簿価ゼロであろうが、保険積立金がいくらであるかに関係しない。相続対策を行うなら、こういったことも考慮に入れた上で行うのが望ましい。

今回の自社株評価における改正は、ざっと見ると「節税対策で設立された企業には逆風だが、そういったこととは関係なく地道に本業をまっとうしようとしている企業には追い風」といった様相を呈している。経済活性化の一つの柱として行われた改正と見ていいだろう。これを上手に活用し、他の対策を含め、円滑な事業承継を進めていくのが望ましい。

鈴木 まゆ子 
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年税理士登録。現在、外国人の日本国内での起業支援に従事。会計や税金、数字に関する話題についての記事執筆を行う。税金や金銭、経済的DVにまつわる心理についても独自に研究している。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「税理士がつぶやくおカネのカラクリ

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