medium_5229077159

皆さんが日本において生活する際に使用する通貨はもちろん「円」です。しかし、日本で生活する人以外に自分の金融資産として「円」を保有している人は世界中にいるのです。普段の生活の中ではその「円」が世界的に見ても非常に重要な通貨であるという事を実感するという機会は殆どないと思いますので、この記事を読んで頂く事で少しでもその事を感じて頂ければ幸いです。


外国為替市場での「円」

外国為替市場における円の流通量はベスト3にランクインされるほどメジャーな通貨となっています。これは何も知らない人にとって、意外な事実だったのではないでしょうか。円は1日に取引される金額がおよそ300兆円もある世界最大市場の主要通貨という存在なのです。近年の円高から円を金融資産として長期保有している投資家も世界中に存在しています。長期的に見ると1985年のプラザ合意以降、長期の円高トレンドが継続しています。これは日本が毎年積み上げている経常黒字によるもので輸入額よりも輸出額が多いという特長を持っています。さらに日本は対外純資産を300兆円近く持っています。(2013年時点)もちろんこれは世界一位で二位の中国とダブルスコアーになっているほどダントツなのです。このような点から円が評価され、価値が上がってきているのです。


なじみの深いクロス円

FX取引をしているとクロス円という言葉がすぐに耳に入ってくるかと思います。FX取引と言うのは相対取引ですので通貨を買う為には他の通貨を売らなければなりません。表示方法としてドル/円、ユーロ/円という様な方式が取られていてISO(国際標準化機構)により決められているのです。この様に1ドルを円に換算するといくらなのかという表示方法をしているペアの事をまとめてクロス円と呼んでいます。最近のニュースでは為替相場のコーナーでドル/円、ユーロ/円の2ペアを表示している事が多いですね。海外旅行によく行く方であれば空港やホテルのフロントなどにもクロス円のレートが表示されている事に気づく方が多いのではないでしょうか。クロス円以外にはドルストレートという様なペアがあります。例えばカナダドル/USドルなど、ドル換算したらいくらかというペアですが私達にはあまりなじみがないので、そのレートを言われても高値なのか安値なのかも良く分かりませんよね。


危機に浮き彫りとなる「円」の強さ

サブプライムローン、リーマンショック、ギリシャ危機とここ数年未曾有の金融危機が世界を襲いました。皆さんも良くご存知かと思いますが、安全資産として円が買われ2011年にはドル/円が過去最高値を付けました。有事のドル買いという言葉はどこに行ったのかというくらいドルは円に対して売られ、他の通貨に対しても円は独歩高の様相を強めました。高金利な通貨ほど下落が激しく、一時的に豪ドルなどはピークから一気に半分くらいになってしまいました。なぜ円が安全資産として考えられたのでしょうか。その理由は序章にも述べさせて頂きましたが、世界第一位の経常黒字国、対外純資産保有国であること。さらに地政学的なリスクが少なくテロの標的等になりくい事や、すでにバブル経済の崩壊で痛い目を見た日本の金融機関は海外の金融機関と比較して健全であったことなどです。そういった点から資金の逃避先として消去法により円が買われたのです。世界で最低水準の金利しか持たない円を買わなければならないほど深刻な金融危機であった事がわかりますね。


日銀と「円」

日本の中央銀行は日本銀行であり、新聞などでは略して日銀と呼ばれています。円は日銀が発行している通貨であり、通貨の発行量や政策金利等を決定する権限を有しています。アメリカの中央銀行は連邦準備制度理事会(FRB)、EUは欧州中央銀行となっています。日銀は政府と連携して日本の経済状況を注視しつつ、必要な金融政策を行うのが役割となっています。数年前に円高が急激に進行した際にそれを是正すべく日本単独の為替介入を幾度も実施したのは皆さんもご存知ではないでしょうか。2013年の現在ではアベノミクスによる大規模な金融緩和策を実施する事になっており、2014年度末までに市場に出回る円の量を2倍にするというオペレーションを段階的に行う事になっています。これは円高による国内輸出企業の衰退を防ぐ為の円安誘導策と市場では捉えられています。世界各国で自国通貨安政策がとられており通貨安戦争ともつぶやかれる様相を呈してきました。先進国は新興国に対する輸出を重視する傾向があり、どこまでこの戦争が続くのかはかなり不透明な状況にあります。


2014年の「円」の展望

もちろん、今後円高になるのか円安になるのかについてはいろいろな議論があり世界中にこれを断言できる人はいません。ただ、先日12月18日のFOMCでバーナンキFRB議長は来年1月から量的緩和の縮小を発表しました。これにより、2014年後半には日米の金融緩和の方向性の違いが鮮明になり、ドル・円は1ドル=105円〜110円まで進むと予想します。現在、FRBは「QEの縮小と利上げ」は別物と明言しているため、イエレン次期FRB議長は政策金利の引き上げを急がないでしょう。しかし、それでも2015年末から2016年前半には出口に至る公算が大きいためマーケットもそれを織り込む形で金利上昇の圧力はかかり続けるでしょう。但し、円がリスク回避する際に買われる通貨であるという事を覚えておきましょう。2007年頃から始まった世界金融危機は明確に終わったという様な証拠はありません。現在の世界経済は大規模な金融政策により延命処置を行っている様な状態であり、この先同じような危機が発生しても、各国政府及び中央銀行は殆どカードを使い切ってしまっている状態ですので打てる手がないのです。大規模な金融緩和はいずれバブルを生み、同じ事を繰り返すというのがこれまでの世界経済の歴史です。プラザ合意以降継続している長期の円高トレンドをアベノミクスがはじき返せるかどうか、2014年は注目の年になりそうです。

photo credit: Neil Kremer via photopin cc