エマージング・マーケットとはどのような市場か?-300x200

こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

投資対象としてエマージング・マーケットが注目されていますが、それはどのような市場でしょうか。本稿では、エマージング・マーケットについて簡単に説明した上で、まずリーマンショック後に特に注目されている実態を取り上げます。その上で、エマージング通貨当局の介入姿勢を概観し、最後に好調であるが故の過大評価というリスクについても取り上げます。


エマージング・マーケットとは

エマージング・マーケットは、「新興国市場」と訳される事が多いですが、その新興国がどこからどこまでを指すかの定義に決まったものはありません。Emergingがemerge(出現する、浮かび上がる)の動名詞であるので、新興国市場という訳に問題はありませんが、それ自体は抽象的な言葉です。

先進国との対義語として考えられると思いますが、その先進国にも、G7やG20、一人当たりGDPによる区分など様々な考え方があります。
棚瀬(2012)によると、J. P. モルガンでは先進国を米国・日本・ユーロ圏・日本・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・スイス・スウェーデン・ノルウェーとし、エマージング国をそれ以外としているようです。他にも、米国・ユーロ圏・日本・英国・カナダ以外といった区分もあるでしょう。 資料によって定義が異なるが故、決まった市場を「エマージング・マーケット」と定義する事はしませんが、 「相対的に近年の経済成長率が高いが、一人当たりGDPが相対的に低い国」としておきましょう。


リーマンショック後の注目

投資資金は「高い成長が見込まれる地域」に向かう傾向にあります。それが実際に高いリターンを生むかどうかは分かりませんが、現にエマージング・マーケットに注目が集まっている以上、「高い成長が見込まれる」と広く信じられているのでしょう。

その「高い成長」は絶対的な「高さ」を持つわけではなく、あくまでも「相対的な高さ」であり、「新興国への経済成長期待」だけでなく、「リーマンショックや欧州債務危機による先進国経済の低調」も影響していると思われます。

実際、リーマンショック後の経済成長率には明確な差があります。下図1は、2009~2012年の各地域別経済成長率・先進国経済成長率・新興国経済成長率を示したものです。2009年は先進国(ここでは米国・ユーロ圏・日本・英国・カナダ)全体がマイナス成長になっていますが、新興国アジアなどは高い成長率を記録していますし、それ以降は新興国全体で高い成長率を記録しています。
特に、新興国の経済成長率が高いのは全体的なトレンドですが、何よりもリーマンショックからの回復が早かったというのは投資家にとっては魅力的な市場でしょう。

エマージング・マーケットとはどのような市場か?

図1:世界経済の見通し

出典: 通称白書2011(経済産業省)

注:実質経済成長率を示す。但し、2012年は予測値である。


比較的健全なファンダメンタルズ

棚瀬(2012: 46-49)は、エマージング・マーケットに投資が集まる理由の一つに、「先進国と比較しても健全なファンダメンタルズを持っている」事を挙げています。
エマージング国の財政問題はよく話題になりますが、財政収支の対GDP比などで見れば、全体的に先進国の方が大きな傾向があり、一部の貧困国を除いて、その傾向は顕著です。
参考までに世界の財政収支(対GDP比)ランキングのURLを示しておきましょう。

参考: 世界の財政収支(対GDP比)ランキング(世界経済のネタ帳)

また、公的債務残高の対GDP比で見ても同様の傾向があり、日本やユーロ圏を始めとして先進国の方が深刻な問題を抱えている傾向があります。


エマージング通貨当局の介入姿勢

一方で、エマージング・マーケットなら何でも良いというわけではなく、その通貨当局や政治体制には注意しなければなりません。
ここでは、外国為替投資に大きな影響を与える通貨当局の介入姿勢について見ておきましょう。

一般にGDPに占める外貨準備高が大きいほど通貨当局の介入姿勢が大きいと言われています。
下図2は、2012年の外貨準備高(対GDP比)が多い順に並べたものです。基本的にはエマージング・マーケットと呼ばれる国の方がGDPに占める外貨準備高の割合が多く、その傾向は直線的ではなく、一部の国が圧倒的に多い「べき乗則」(累乗に比例している状態)の傾向を示しています。

エマージング・マーケットとはどのような市場か?2

図2:各国の名目GDPに占める外貨準備高の割合

出典: International Monetary Fund(IMF eLibrary Data) より筆者作成

為替投資のパフォーマンスを考える上で、通貨当局の介入は重要であるので、こうした情報は参考になるでしょう。


好調であるが故のリスク

通貨当局の介入などの問題はありますが、エマージング・マーケットは全体的に高評価で、また先進国経済が不調であるため、投資対象として特に注目されているわけですが、問題が無いわけではありません。 高い成長機会があるということは、それだけハイリスクである 事には変わらないからです。 また、先進国からエマージング・マーケットに資本が逃避している点から考えれば、一部に過剰投資される事によるバブルの懸念もあるわけであり、好調であるが故のリスクがある事は理解しておく必要があるでしょう。

参考文献:棚瀬順哉(2012)『エマージング通貨と日本経済』日本経済新聞出版社

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