生産緑地法は高度経済成長期の1972年に設定され、その目的は、都市部に残る緑地を守ることだった。その後1992年に法改正され、三大都市圏(東京、大阪、名古屋)とその近郊にある市街化区域内の農地を、宅地化する農地とそのまま緑地として保持する土地に分け、後者を改めて生産緑地と指定し直した。

改正生産緑地法では、農地は固定資産税、都市計画税、さらには相続税も宅地並み課税を受けることが原則だったが、保全農地として生産緑地の再指定を受けることが出来れば、今まで通りの軽減税率を使うことが出来た。農家の選択により、それからの30年間は、激安の軽減税率を使えるが、その間、宅地への転用は原則不可だ。

1992年の改正生産緑地法では、当時から30年後、すなわち2022年には、生産緑地所有者は市町村長に対し、当該生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができるとの文言があるが、実際は地方財政のひっ迫から、自治体が買い取りをすることはなく、したがって生産緑地の所有者は、生産緑地の指定を解除し、宅地として売却する可能性が高いことが予想される。

すべての土地が転用されるわけではないが、不動産市場にかなりのインパクトが見込まれる。これが生産緑地の2022年問題の背景だ。

1992年当時の地主の考え方

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(写真=PIXTA)

当時、生産緑地指定を選択した地主からすると、30年という期間はライフステージの概念からすると「ほぼ半永久的」と感じる方が多かったのではないだろうか。

例えば、駅前にある農地は、政策的に考えれば宅地化が適しているのだが、所有者からすると、代々受け継いできた土地を手放すことは考えづらく、そこに大幅な軽減税率が適用される法律があれば、それを使うことは至極当然のことだった。

同じ理屈で、国道や県道など主要幹線道路沿いの有効活用に適する優良な土地も多くあった。

生産緑地の土地

それら生産緑地の広さは市街化区域内の1区画500平方メートル以上の土地という、ある程度まとまった広さなので、宅地業者やマンション開発業者には、かなり魅力的な土地だ。

現状は、これらの土地が、生産緑地という名のもとに非常に軽い税負担で所持されている。では、一体どのくらいの生産緑地が存在しているのだろうか。

国土交通省がまとめた最新の都市計画現況調査2015年版(3月31日現在)によると、生産緑地の広さは日本全国で1万3442ヘクタール。一都三県ごとの内訳は、東京都は3296ヘクタールで、うち練馬区189ヘクタール 、世田谷区95ヘクタール 、江戸川区64ヘクタール 、都下では、八王子市245ヘクタール 、町田市237ヘクタール 、立川市210ヘクタール 、神奈川県は1,380ヘクタール で、うち横浜市307ヘクタール 、川崎市290ヘクタール 、埼玉県は1792ヘクタール で、うちさいたま市358ヘクタール、川越市141ヘクタール 、千葉県は1175ヘクタールで、船橋市193ヘクタール、柏市176ヘクタール などとなっている。

想像しやすいようにこれらを東京ドームの広さに換算すると、日本全国では2860個、東京都701個、神奈川県293個、埼玉県381個、千葉県250個分と計算される。

改正生産緑地案

一方、国土交通省は、今年2月10日、「都市緑地法等の一部を改正する法律案」を提出し、閣議決定された。この法案は生産緑地法も対象としており、様々な影響も考えられる。

この改正の背景は、「公園、緑地等のオープンスペースは、良好な景観や環境、にぎわいの創出等、潤いのある豊かな都市を作るうえで欠かせないもの。また、災害時の避難地としての役割も担っている」と国交省がうたっている通り、(1)都市内の農地の再評価、(2)災害時の避難地として有効活用する、(3)都市空間の緑の保全 など宅地化一辺倒にくさびを打つ政策を打ち出している。

前に述べた通り、現行法では、生産緑地の要件として1区画の土地面積が500平方メートル以上あることが必要条件だったが、市町村が条例により、その面積を変更できる(おおよそ300平方メートル)という改正が予定されている。

また、様々な理由から農地として保全することが都市環境に有効だと判断された土地については、市町村が特定生産緑地として指定し、買い取りの申し出をすることができる時期を10年間先送りするという制度が盛り込まれた。これにより、2022年不動産流通市場に一気に放出される農地を減少させ、不動産流通価格を落ち着かせる意図も見え隠れしている。

相続税対策も踏まえた決断を

30年前に生産緑地指定を選択した当時50歳の方々は、今80歳。その子供たちに相続する場合、激安の相続税特例を適用するには、子供たちが死亡するまでの終生営農が前提となる。固定資産税だけ考えるなら判断は容易で、2022年をいまかいまかと待ちわびている農家も多い。しかし、今回の判断は相続税のポイントも重要になる。そろそろ農協などから地主の方々に説明会が開かれることになるだろう。30年前の親の代では、「先祖代々の土地は失いたくない」という考えで決断したかもしれない。

しかし世代も時代背景も変わった今、新たな世代がどのような判断を下すのだろうか。それにより、膨大な土地が動き出す可能性も大いにある。

中村伸一
マネーデザイン代表取締役社長
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。