2010年度に開始した高校授業料の無償化は、制度開始当初は一律無料だったが、2014年の改正により年収910万円以上の世帯は補助が受けられないようになった。つまり、高校生を子どもにもつ世帯年収900万円の家庭と910万円の家庭を比べたときに、世帯年収900万円の方が得になるというわけだ。

世帯年収910万円というのは保護者のどちらか片方が働き、子供が高校生1人、中学生1人の4人世帯をモデルとした目安で、共働きか専業主婦か、サラリーマンか自営業かによって基準額は異なる。

正確には「市町村民税所得割額」をもって決定される。市町村民税所得割額は毎年6月頃に勤務先から配布される「市町村民税・県民税特別徴収税額通知書」に記載されており、自営業なら自宅に郵送されてくるはずだ。その市町村民税所得割額が、夫婦合わせて30万4200円未満であれば、「高等学校等就学支援金」を受け取ることができる。30万4200円以上であれば支給はナシだ。

改正を受けて、授業料を無料にするのではなく支援金を支給する形になった。支援金は保護者に振り込まれるのではなく、学校に支給され授業料に充てられる。また、対象となるのは授業料だけで、入学金、学用品、修学旅行、習い事・塾代には適用されない。

【保存版】2019年、知らないと損する「お金のはなし」
相続対策に失敗した「元富裕層」の悲惨な末路

支援金額は年間いくら?

支援金はどのくらいもらえるのだろうか?一般的な全日制の高校であれば、月額9900円だ。年間にして11万8800円になる。改正時の大きな変更点は、私学の場合は支援金が加算されることだ。経済的に苦しい家庭の子が私立学校を選べないのは不公平ということで、年収に応じて支援金を多めにもらえるようになった。350万円以上590万円未満世帯で子供が私立高校に通う場合、支援金は1.5倍の17万8200円、250万円以上350万円未満なら2倍の23万7600円、250万円未満なら2.5倍の29万7000円だ。

これが、世帯年収が910万円を超えると、1円ももらえなくなる。何とも働き損な感じがしてやるせない。十分裕福なように感じられるが、これは夫婦合算した数字だ。2013年の報道によると、全世帯の22%が対象から外れるという。

教育にかかる費用は授業料だけではない。施設整備費、教科書・学用品、修学旅行代、通学関係費など、授業料以外にも公立高校では年間約23万円、私立高校では約48万円かかる。さらに、公立高校の学費は11万8,800円なので実質無料だが、私立の場合は支援金があっても授業料すべてをまかなえないことが多い。高校生ともなると塾といった補助学習も必要となる。塾代は年間10万円を下らないだろう。

それだけに、授業料だけでも支援してもらえるとありがたいのだが、世帯年収が910万円を超えると、それさえも受けられないのだ。

世帯年収900万円あたりが意外と苦しい思いをする

年収900万円前後は、「稼いでるんだからちょっとくらい多めに負担してもらってもいいでしょ」と狙われがちな年収帯だ。そのため、収入の割には自由に使えるお金が少なく、意外と苦しい思いをしている。その理由は、公的制度の負担額は大きいのに、受けられる恩恵が少ないことにある。高校の授業料の他にも同様の例は多い。

児童手当の支給額

所得が上限を超えると子供1人あたり1万円から1万5,000円の児童手当がもらえない。所得制限の目安は子供2人なら世帯主の年収が917万円以上。

子供医療助成制度

子供が一定の年齢になるまで医療費が無料または減額。高所得者は対象外であることが多い。上限は自治体による。

所得税負担額

累進課税により、年収が高いほど税率が高くなる。330万円以下なら10%だが、900万円を超えると33%。

社会保険料負担(年金・医療・介護)

年金保険料、健康保険料、介護保険料は収入×一定の割合なので、年収が高いほど負担が大きい。

保育園利用料

世帯収入が高いほど保育料は高くなる。基準は自治体による。地域と収入によっては10万円を超えるところも。

これはほんの一例である。所得の低い人でも教育や社会保障を十分に受けられるようにする所得再分配機能は社会において必要なものだが、稼ぐほどに損をする仕組みでは、労働意欲をそぐ結果になりかねない。

受給には申請が必要

高等学校等就学支援金がもらえるかどうかは年収910万円が分かれ目だが、あくまでも目安なので正確には市町村民税所得割額を参照しよう。夫婦合わせて30万4200円未満なら、年収が910万円を超えていても支給が受けられる。

支援金を受給するには、申請手続きが必要だ。4月の高校入学時に申請書と課税証明書を提出する。さらに、毎年7月に継続して受給するための届け出手続きも行う。いずれも学校から配布されるので、子供がきちんと持ち帰るか心配なところである。(篠田わかな、フリーライター)

【保存版】2019年、知らないと損する「お金のはなし」
相続対策に失敗した「元富裕層」の悲惨な末路