日本株の中国関連株が上昇している。日経中国関連株50指数の動きをみると、8月1日の終値は1640で前日終値比0.3%上昇している。

2014年以降の値動きをみると、2015年5月28日に場中で記録した1815.28ポイントが最高値。一方、最安値は2016年6月28日に場中で記録した1134.87ポイント。現在の指数の位置は、安値から44.5%上昇しており、高値まであと10.7%といったところである。4月中旬に急落した後、強い上昇トレンドが出ており、2015年8月18日(終値ベース)以来の高値を更新している。

日本全体で企業業績が好調であり、内外で金融緩和状態が続くといった好環境が株式市場全体を支えているといった面もある。しかし、足元の決算、業績修正などの状況を見る限り、中国関連事業の好転が業績をけん引しているといった企業が目につく。

たとえば、神戸製鋼所、コマツ、日立建機、ファナック、トヨタ自動車などでは、中国での需要拡大が業績を支えており、それが株価を押し上げているといった面が少なからずある。

中国景気、特に好調なインフラ投資に注目が集まっているが、景気の現状と見通しについては日本人が知らない中国最前線(18)で示した通り。

今回は、固定資産投資、特にインフラ投資に絞った状況説明と、下期政策について補足したい。

投資全体の伸び率を大幅に上回る「インフラ投資」

中国経済,建機メーカー
(写真=PIXTA ※画像はイメージです)

4-6月期の中国経済は投資の伸びが鈍化する中で、外需、消費がけん引する形で成長した。

上期の固定資産投資に関するデータについて簡単にまとめておくと、全体の伸び率は8.6%増だが、伸び率のムラが大きい。ウエートの大きなところを見ると、全体の30.9%増を占める製造業は5.5%増と低い伸び率に留まっており、18.0%を占める不動産開発投資についても8.5%増で全体の伸び率とほぼ変わらない。一方、21.2%を占めるインフラ投資が21.1%増と大きく伸びている。その中身を更にブレークダウンすると、鉄道は1.9%増だが、水利は17.5%増、道路は23.2%増、公共施設は25.4%増である。

この伸び率を見る限り、なぜ日本の建機メーカーの業績が良いかよくわかる。

供給側改革を続けていることから、製造業の設備投資が抑えられている。また、不動産価格の上昇を抑えるために厳しいコントロール政策が行われており、投機を抑えることが目的であるとはいえ、投資にも多少は影響が出ている。金融機関に対してはレバレッジ縮小を進めており、資金を実体経済に向けようとしているが、銀行は融資審査に関して、厳しくせざるを得ない。やはり、製造業の設備投資意欲は圧迫されよう。

こうした背景でのインフラ投資の加速である。政策としては、全体的に景気の質を高める方向に向けられており、景気に対しては抑制的である。そうした中で、インフラ投資だけは、慢性的なインフラ不足状態を解消するために、PPP関連投資を拡大させる形で伸びている。

下期も、景気に対して抑制的な政策が続く

下期もこのペースでインフラ投資が増え続けるだろうか?

中国共産党は上期の経済統計が出そろった段階で、毎年、政治局会議を開く。足元の経済情勢を分析した上で、下期の経済運営を決めるためである。今年は7月24日に開催されたが、下期の経済運営のポイントはおよそ以下の7点である。

(1)下期の経済運営を上手く行い、安定の中で前進を求めるといった経済運営の基調を堅持し、穏健な中で前進するといった関係、均衡を保ち、好機をつかみ、それらをしっかりと把握する

(2)供給側構造性改革について変わることなく深化させることを堅持し、“三去一降一補”(過剰生産能力、過剰在庫、高レバレッジを取り去り、コストを引き下げ、弱点部分を補う)を深く推し進め、ゾンビ企業の弱点をしっかりと処理し、その多くについては市場メカニズムによって優勝劣敗を実現させる

(3)累積する地方政府債務のリスクを積極的かつ穏健に処理し、地方政府の起債、融資を有効に規範化し、隠れた債券の増加を断固として止める

(4)金融のシステマティックリスクが発生しないようにそのボトムラインを確保し守る。金融の乱れた現象を深いところから直し、金融監督管理協調を強化し、金融サービスの実体経済への効率や水準を引き上げる

(5)不動産市場を安定させ、政策の連続性、穏健性を堅持し、長期的に効果のあるメカニズムの構築を加速する

(6)外資、民間投資、投資心理を安定させ、財産権保護を強化し、外資の市場参入を拡大し、投資家を吸引するために商業運営環境を強化する

(7)民生業務を高度に重視し、積極的に就業を促進し、民衆を助け、生産、生活の中で発生する困難、問題を解決する

ここで重要なのは、(1)、(2)、(4)、(5)である。

まず、(2)で供給側構造性改革を深く進めるとしている。さらに、ゾンビ企業の淘汰に踏み込むと強調している。下期も素材産業では需給改善から業績回復が続くだろうが、製造業の設備投資に対しては、ややネガティブな影響がありそうだ。

また、(5)で不動産市場を安定させるとしている。価格の急騰は抑えるが、急落も避けるということである。人口が増え続け、所得水準が上昇し続けている一線、二線都市においては、不動産の実需は大きい。不動産投資については横ばい圏か、やや回復するとみている。

一方、(4)で金融のシステマティックリスクを防ぐとしており、投機に対する取り締まりは厳しい。投資への影響が出ないようなやり方をするだろうが、やはり、企業の投資活動への影響は出てしまうだろう。

一方、(1)では経済の安定を強調している。国際要因を含め、景気に大きな変動が起きるようなことが起きれば当局は素早く対応するだろう。政治的には微妙な時期に差し掛かっており、景気を含め、すべてに安定が求められるだろう。

景気と政治とは切り離して考えた方が良い

政策により、下期もPPPプロジェクトは拡大すると予想され、それはインフラ投資の拡大に繋がる。また、2010年に大きなピークを付けた建機、トラックなどの更新需要が出ている。この点を多くのエコノミストが見落としている。

また、実際には動きの鈍い一帯一路戦略だが、習近平国家主席が注力する政策だけに、下期はいくつかの大型プロジェクトが動き出す可能性がある。共産党大会まで景気を支えるが、それを過ぎたら景気は減速するといった見方があるようだが、共産党大会を意識して景気を拡大させているといった事実は見られない。また、共産党大会がいつあろうと、目標とする成長率を達成できなければ指導部は責任を追及される。足元の景気と政治は切り離して考えた方が良い。

下期も中国経済は、インフラ投資に引っ張られる形での成長が続くと予想している。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP: http://china-research.co.jp/