2018年からは個人の所得課税における配偶者(特別)控除が大きく変更される。適用を受けられる配偶者の年収拡大が注目されているが、ここでは高所得の納税者では適用が制限される問題に着目する。給与の手取り額が減少しても、還付で取り戻せる余地はある。
2017年の年末調整で提出する申告書の変更点
具体的な事例で考えてみよう。以下のとおり想定してみる。
・夫=Aさん(会社員):年収1170万円(額面)
内訳:給与毎月85万円(社会保険料10万円)、賞与2回各75万円(社会保険料11万円)
・妻=Bさん(パートタイマー):年収100万円
・夫婦2人世帯、2人とも給与以外の所得は無し
・所得から差し引く所得控除に関しては、配偶者控除と(給与天引き保険料による)社会保険料控除以外は無し
予定されている税制改正をもとに、会社員の夫にかかる所得税額や年末調整手続きに関して、2017年から2018年にかけてどのような変化が起きるかを見てみる。なお以下の解説においても、給与以外の所得に関しては考慮しない形とする。
2017年の年末調整に向けて、職場に年末調整の書類を出そうとしたところ、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の様式が変更になっている。
【参考】
平成30年分以降の配偶者控除及び配偶者特別控除の取扱いについて P10
従来控除対象配偶者を記載していた欄が、「源泉控除対象配偶者」となっている。会社員のAさんは、妻Bさんの年収がずっと103万円以下であることから、これまで控除対象配偶者として妻の情報を記入していた。では、源泉控除対象配偶者としても記入するのであろうか?
答えは「記入してはいけない」である。
従来の控除対象配偶者の欄は、翌年に配偶者の給与年収が103万円以下と見込まれる場合に記載する。
一方源泉控除対象配偶者の欄は、翌年(この場合2018年)の配偶者給与年収が150万円以下と見込まれる場合に記載する。ただし夫Aさんのように給与年収が1,120万円超の場合はBさんの情報を記載できなくなる。
2018年の給与天引き所得税はどのように変わるか?
源泉控除対象配偶者(2017年までは控除対象配偶者)と16歳以上の扶養親族の数によって、会社員の給与から天引きされる所得税の額も変動する。
Aさんのような高所得層では、Bさんが源泉控除対象配偶者ではないことから、所得税が増え給与の手取りが減少することも考えられる。
2017年の段階では毎月の給与に約6万8000円の所得税がかかっていたのが、2018年になると約7万5000円の所得税がかかり、手取りが月約7000円減る。
また2017年では1回のボーナスにつき所得税約11万円かかるが、2018年では所得税約13万円となる。年間で10万円を超える所得税増税になってしまう。
2018年の年末調整ではさらに新たな申告書が登場
1年経って2018年の年末調整をむかえたが、この段階でAさんはまた「給与所得者の配偶者控除等申告書」なる見慣れない書類を書くことになる。扶養控除等(異動)申告書には(源泉控除対象配偶者として)Bさんの情報を記載しなかったが、配偶者控除等申告書にもBさんの情報は書かなくて良いのだろうか?
答えは「Bさんの情報を書かないと税金で損してしまう」。
2018年以降、所得税の配偶者控除額は、会社員の給与年収1120万円以下・配偶者の給与年収150万円以下では38万円となる(配偶者年収が103万円超〜150万円の場合配偶者特別控除が適用されるが、38万円には変わりないのでここでは便宜的に「配偶者控除」とする)。これが以下の通りに変わる。
会社員の給与年収 配偶者控除額
1,120万円超〜1,170万円以下 26万円
1,170万円超〜1,220万円以下 13万円
1,220万円超〜 0円
Aさんの年収は1170万円であり、Bさんの年収が100万円であるから、配偶者控除額は26万円となる。
所得税率が23%になると考えれば、配偶者控除等申告書できちんと申告しておくことでおよそ6万円の還付が予想される。逆に申告しないと約6万円分損をする。
配偶者控除等申告書は2017年8月上旬時点では未公表であるが、納税者Aさんの所得と妻Bさんの所得を記載するような形で、配偶者控除の金額を計算するものになることが想像される。
還付で損しないよう今後の年末調整では注意を
専業主婦(夫)の就労拡大を狙った税制改正であるが、税収低下が大きくならないよう高所得層では控除額が縮小もしくは0円となってしまった。
Aさんのように縮小で済む場合は、年末調整の書類で記載したほうがいいもの・しないものが混在し、申告する・しないで還付の額が変わることがあるので気をつけていただきたい。(石谷彰彦、ファイナンシャルプランナー)