ジャクソンホールで行われたカンザスシティー連銀主催の経済シンポジウムでは、FRBのイエレン議長とECBのドラギ総裁が講演したが、ともに金融政策に関する言及はなかった。その理由として、物価上昇が鈍いため欧米の当局は引き締めに対して慎重になっているとの解釈が市場の一部にあるようだ。実際、イエレン議長の講演後に米国の長期金利は低下し、主要通貨に対してドルが売られた。しかしそれは穿った見方というものだろう。そもそもジャクソンホールのシンポジウムは金融政策の発表の場ではない。金融政策に関する言及がなくて当然であり、なかったからと言ってそこに理由や思惑を探ろうとすること自体が無意味である。市場の動きも合理的でない。仮に、イエレン議長・ドラギ総裁の「言及なし」が引き締めに慎重であることのサインであるとするならば、それに対する市場の反応は「ドル安」は理解できるが、「ユーロ高」は理屈が通らない。ユーロは急上昇。対ドルで一時1.1941ドルまで上げ、およそ2年7カ月ぶりのユーロ高・ドル安水準を付けた。

ともかくジャクソンホールという材料はこなしたが、今後も膠着相場は続くだろう。ジャクソンホールでのサプライズを警戒して売買を手控えていた投資家がマーケットに戻るということも期待できるが、今度は他の不安材料がクローズアップされてくる。

CMEのFedウオッチで、FRBが昨年12月に利上げして以来初めてとなる「年内利下げ」の確率が示された。市場は年内の利上げに懐疑的になり始めているだけに、今週出てくるインフレ指標は重要である。31日のPCEデフレーターと週末の雇用統計の平均時給だ。これが弱いようだと一段と円高が進むリスクがある。

北朝鮮に対する不安もくすぶる。26日にもまたミサイルと見られる飛翔体を発射した。北朝鮮は建国記念日にあたる9月9日に去年は核実験を行っている。9月9日に向けて緊張が徐々に高まるだろう。最大の不透明要因は米国の財政問題。新年度予算と債務上限引き上げが絡み合って政府閉鎖やデフォルトのリスクまで意識されている。9月5日に議会が再開されるが、議論の行方を市場は固唾を飲んで見守ることになる。9月7日にはECB理事会もある。そう考えると少なくとも9月上旬までは重要イベント目白押しで動けない相場が続くだろう。

今週の日経平均の予想レンジは19,500円を挟んで上下に200~300円の範囲と想定する。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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