17年7月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比18.5%増と、前月の同6.9%増から大きく上昇した(図表1)。輸出は6月こそイスラム教のレバラン(断食明け大祭)前後の長期休暇に伴う営業日数の少なさを背景に下振れたが、7月はその反動増で再び二桁台まで上昇した。輸出の基調は海外経済の回復による半導体や一次産品の需要拡大を通じて増加傾向が続いている。

先行きの輸出はスマートフォンの新製品発売を追い風に高めの伸びを続けるだろうが、年後半にはベース効果が剥落するほか、半導体需要の増勢がピークアウトを迎えることから、年末にかけて輸出の伸び率は徐々に落ち着いたものになると予想する。

ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、7月は東アジア向けが同24.1%増となり高水準を記録して引き続き輸出全体を牽引したほか、北米向け(同16.0%増)やEU向け(同14.2%増)、東南アジア向け(同15.4%増)も2ヵ月ぶりに二桁増となり、全体的に勢いづく結果となった(図表2)。

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タイ の17年7月の輸出額は前年同月比10.5%増と、前月の同11.7%増から小幅に低下したものの、3ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸びは世界的に電子製品需要が増加を続けるなか、7月には低迷していた乗用車の輸出がプラス転化、コメやゴムなどの農産品輸出も一段と拡大するなど好調が続いている。一方、輸入額は前年同月比18.5%増と、前月の同13.7%増から上昇した。結果、貿易収支は1.9億ドルの赤字となり、前月から21.0億ドル減少した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同8.6%増(前月:同11.6%増)とやや低下したものの、堅調な伸びを続けている(図表4)。工業製品の内訳を見ると、自動車・部品(同21.4%増)と機械・装置(同22.0%増)が上昇、航空機・船舶・機関車(同106.5%増)が4カ月連続の三桁増を記録した一方、電子機器(同10.0%増)や家電製品(同4.4%増)、石油化学製品(同7.9%増)が鈍化した。また農産品・加工品が同20.2%増(前月:同10.3%増)となり、加工食品(同7.6%増)こそ鈍化したものの、コメ(同98.8%増)やゴム(同21.5%増)、ゴム製品(同28.7%増)は高水準となった。鉱業・燃料は同8.4%増(前月:同24.2%増)となり、石油製品(同8.5%増)が鈍化して8ヵ月ぶりに一桁台まで低下した。

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マレーシア の17年7月の輸出額は前年同月比22.6%増と、前月の同4.8%増から大きく上昇して再び二桁増を記録した。輸出は世界的な電子製品需要の増加を背景として主力の電気・電子製品を中心に好調を維持している。6月の輸出こそレバラン前後の長期休暇を背景に営業日数が少なかったことから下振れたものの、7月はその反動増により幅広い品目で増加した。一方、輸入額も前年同月比14.0%増と、前月の同1.1%減から大きく上昇した。結果、貿易収支は18.7億ドルの黒字と、前月から4.4億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同20.1%増(前月:同8.7%増)と上昇し、主力の電気・電子製品(同20.2%増)を中心に再び高水準を記録した(図表6)。動植物性油脂は同7.2%増(前月:同9.1%増)と低下したものの、パーム油(同7.7%増)を中心に堅調を維持している。また鉱物性燃料は同41.0%増(前月:同11.5%増)と大きく上昇した。原油(同8.3%減)が低迷する一方、天然ガス(同53.2%増)が前月に続いて大幅に増加、石油製品(同73.6%増)も急伸した。このほか、製造品(同29.7%増)や食品(同22.6%増)、化学製品(同11.5%増)も前月から上昇した。

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インドネシア の17年7月の輸出額は前年同月比41.1%増と、前月の同11.7%減から大幅に上昇し、再び二桁増となった。輸出は6月こそレバラン前後の長期休暇を背景に営業日数が少なかったことから下振れたものの、7月にはその反動増で上昇した。輸出の基調も中国をはじめ海外経済の回復を背景に増加傾向が続いているものと見られる。一方、輸入額も前年同月比54.0%増と、前月の同17.4%減から大きく上昇した。結果、貿易収支は2.7億ドルの赤字と、前月から19.4億ドル減少した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、まず石油ガスが同17.6%増と、前月の同7.3%増から上昇して高水準を記録した(図表8)。非石油ガスでは、まず輸出全体の7割を占める製造品が同42.2%増(前月:同16.6%減)と上昇した。製造品の内訳を見ると、機械類(同40.3%増)や自動車(同72.5%増)、ゴム製品(同65.8%増)が軒並み大きく上昇したほか、動植物性油脂(同38.4%増)も好調だった。また農産品は同76.7%増(前月:同1.7%増)、鉱業品は同50.8%増(前月:同3.4%増)と、それぞれ大幅に上昇した。

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ベトナム の17年7月の輸出額は前年同月比19.0%増と、前月の同20.5%増から小幅に低下したものの、6ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は昨年後半から主力の電気・電子製品を中心に勢いを取り戻して以降、政府目標(17年は+6~7%)を上回る伸びが続いている。一方、輸入額も前年同月比20.8%増(前月:同21.8%増)と小幅に低下した結果、貿易収支は2.7億ドルの黒字となり、前月から5.5億ドル増加した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同14.6%増(前月:同21.3%増)と低下したものの、4カ月連続の二桁増を記録した(図表10)。電話・部品の好調はサムスン電子の新型スマホの発売開始(米国は4月、日本は6月)の影響と見られ、伸び率は徐々に落ち着いていくものと見られる。またコンピュータ・電子部品も同33.1%増(前月:同42.0%増)と高水準が続き、14カ月連続の二桁増となった。アパレル関連では織物・衣類が同7.1%増(前月:同6.0%増)、履物が同12.7%増(前月:同13.2%増)となり、総じて堅調な伸びを維持している。農産品ではコーヒー(同10.4%減)が落ち込む一方、好天に恵まれてコメ(同98.0%増)や野菜(同79.2%増)、ゴム(同39.9%増)などが好調に推移している。

輸出を資本別に見ると、地場企業が同21.0%増(前月:同12.7%増)と上昇した一方、全体の7割を占める外資系企業が同18.2%増(前月:同24.0%増)と低下した。

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シンガポール の17年7月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比6.9%増(前月:同6.4%増)と3ヵ月連続で上昇した。輸出は医薬品の不振が続いているものの、主力の半導体と石油化学製品を中心に概ね増加傾向にある。なお、総輸出額は前年同月比10.8%増(前月:同5.4%増)、総輸入額も同14.2%増(前月:同4.6%増)と、それぞれ大きく上昇した結果、貿易収支は43.2億ドルの黒字と、前月から0.5億ドル黒字が拡大した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同14.6%増と、前月の同3.1%増から大きく上昇した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、通信機器(同0.2%増)とダイオード・トランジスタ(同5.4%減)が低迷、PC(同2.7%増)も伸び悩んだものの、IC(同29.2%増)とPC部品(同8.4%増)が大きく上昇した。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学製品は同10.9%減と、前月の同7.3%増からマイナス幅が拡大した。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品が同36.3%増(前月:同11.2%増)と一段と上昇した一方、医薬品は同54.3%減(前月:同35.6%減)と下げ幅が拡大した。

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フィリピン の17年7月の輸出額は前年同月比10.4%増と、前月の同5.8%増から上昇した。輸出は海外経済の回復を受けて電子製品を中心に概ね二桁増で推移しているが、先行きはベース効果が剥落して輸出の勢いは弱まりつつある。一方、輸入額は前年同月比3.2%減(前月:同1.3%減)と二ヵ月連続のマイナスとなった。結果、貿易収支は16.5億ドルの赤字と、前月から3.5億ドル赤字が縮小した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同11.8%増と、前月の同4.9%増から上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、計測制御機器(同7.5%減)と遠距離通信機器(同47.8%減)が落ち込んだものの、半導体デバイス(同13.4%増)と電子データ処理機(同13.3%増)、家電製品(同73.5%増)が高水準となった。その他9品目については機械・輸送用機器(同63.8%増)や電子機械・部品(60.2%増)、金属部品(同21.2%増)、イグニッション・ワイヤーセット(同15.4%増)、その他鉱業製品(同6.8%増)が増加した一方、ココナッツオイル(同7.8%減)や木工製品・家具(同4.9%減)、その他製造品(同3.8%減)が減少するなど、総じて増加した品目が多かった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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