政府が「人生100年時代構想」を掲げるなど、高齢化社会をむかえ、60代でも働くことを求められている。定年が60歳から引き上げられるのであれば年功序列のままであるが、多くの企業は定年60歳のままその後は継続雇用という形をとっている。違和感を覚えるなら、雇用以外の働き方--たとえば起業――も考えればいいだろう。いずれにせよ年金についてもあわせて考えるべきである。

継続雇用制度は揉め事の温床にも

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(写真=PIXTA)

老齢年金の支給開始年齢は65歳であり、それを考慮して企業には65歳まで希望者全員の雇用を義務づけている。ただ定年を65歳以上に引き上げる必要は無く、希望者に65歳までの継続雇用を約束することでも構わない。

実際には企業の8割は定年引上げでなく、継続雇用制度を導入している。60歳以前の働き方を続けるのは健康上の理由があると企業側が認識しているからだ。

もっとも2017年9月1日に、政府は公務員の65歳定年引上げを検討していると報道された。民間企業でも日本生命が総合職において65歳定年引上げの方針を労働組合に提示したことが2017年9月6日に報道されており、今後は定年引上げの企業が増えてくることも考えられる。

ただ60歳定年制が根付いた現在でも55歳あたりで役職定年を設け、この定年を過ぎると管理職などを外す企業もあるため、給与のピークは55歳にくるのが一般的だ。

労働者も同じような認識があれば企業と対立することはないが、(役職)定年前までの感覚でずっと働こうとすると戸惑うことになる。55歳前後の役職定年後は重責の職務から外れ、さらに60歳以降の継続雇用の場合、たいていは非正規の嘱託社員扱いとなるので、より一層職務に制約が出てくる。

同じ会社で働こうとすると、畑違いの仕事に回されることすらある。定年まで事務職だった人を清掃の仕事に回し、訴訟を起こされた上場企業もある。裁判では無効判決も出ているが、訴訟を起こすのも時間とお金手間がかかる。

以下、老後の働き方に関して主にやりがいを重視したい人向けに、選択肢を提示していきたい。

継続雇用で満足できないならフリーランスという選択肢も

60歳以上も働きたい、かといって継続雇用では満足のいく働き方ができないと思った場合は、フリーランスとして働く、起業することも視野に入れておいたほうがよい。例えば保険営業職のサラリーマン経験を生かして保険代理店を立ち上げる、専門職の知識を生かしてライターをやるなど考えられる。

人脈を作る、設備投資が必要なら資金調達するなど、起業するなら準備は必要であるが、ここまで働けば若い時の起業よりはリスクも少ないと言える。

また継続雇用での嘱託社員は、週3~4日程度の勤務になることも多い。このすき間を埋める形での副業として起業することも考えられる。

年金制度との関わりにも注意

起業しフリーランスとして活動するにはリスクが伴うが、年金制度との関わりで判断材料にしておきたいこともある。

嘱託社員のような短時間労働者では、501人以上の事業所では雇用期間1年以上・週20時間以上・月収8万8000円以上の雇用契約となっている場合、500人以下の事業所であっても雇用期間2カ月以上・週30時間以上働く場合は厚生年金に加入することになる。

上記にあてはまらない短時間労働者や、もっぱら個人事業主として働く場合は、60歳以上では年金保険料を負担することは無い。

60歳以上も厚生年金に加入すれば、加入期間や給与に応じて65歳以降もらえる老齢厚生年金は増える。働いている間は年金も我慢してリタイア後の安心を得たいなら、厚生年金に加入するような形の継続雇用も良いだろう。

しかし働きながら年金受給を65歳以前まで繰り上げ、厚生年金をもらいたい場合は注意も必要だ。厚生年金保険料を払っている場合は、給与と繰り上げた厚生年金の月額がおよそ28万円を上回ると、もらっている厚生年金が減額される。

その点では、個人事業主としてシニア起業する場合は、老齢厚生年金を繰り上げてもらう場合とも相性が良い。例えば事業がうまくいかず年20万円の赤字になったとしても、年100万円の老齢厚生年金がセーフティネットとして活用できる。また税制面でも、老齢厚生年金から源泉徴収されていた所得税が戻ってくる場合がある。

もちろん事業で損失を出すことは好ましくないが、生きがいとして事業に取り組んだ場合にはこのようにうまく活用していきたい。(石谷彰彦、ファイナンシャルプランナー)