朝の時間を活用する重要性を把握した後は、昼、午後、夜の時間を組み合わせた「時間ポートフォリオ」を考えます。特に、朝の時間を活かすのは前日の午後から夜にかけて。インプットと、そのインプットをすべて忘れる時間として活用することで、朝の時間を最大限に活用できるのです。

(本記事は、永井孝尚氏の著書『 残業ゼロを実現する「朝30分で片付ける」仕事術 』KADOKAWA(2017年6月15日)の中から一部を抜粋・編集しています)

朝のゴールデンタイムにしてはいけない仕事

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(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

午前6時。人気のない朝は気持ちよく、静かで透明です。新鮮な空気を心地よく感じます。

午前7時。誰もいないオフィスに到着。質のよい睡眠を十分にとって、頭がリフレッシュし、コーヒーをひと口飲んで頭が覚醒するその時間は、誰にも仕事を中断されることもなく集中でき、頭が1日の中で最も活性化するゴールデンタイムです。

そんなゴールデンタイムに、出張旅費精算とか、先週開催したセミナーのアンケート入力作業を行ったとしたら、どうでしょうか?いくら頭が活性化していても、精算や入力などの単純作業のスピードが6倍になることはありません。もったいないですよね。

朝早く仕事をするだけでは、朝の生産性は6倍になりません。頭が最も活性化している朝の時間を有効活用し、生産性を6倍まで高めるには、1日の時間の使い方全体を見直す必要があります。

どの時間帯にどんな作業をすると生産性が高まり、仕事の質が向上するかを考えます。この「仕事と時間帯の組み合わせ」のことを、私は「時間ポートフォリオ」と呼んでいます。

「時間ポートフォリオ」は、あなたの生産性と仕事の質を大きく向上させます。特に、1日で一番頭が活性化する出社直後から正午までの時間をいかに有効活用できるかがポイントです。

アイデアがつくられる5段階のプロセス

朝の生産性を6倍に高めるには、「時間ポートフォリオ」を考えるための基本理論となるのが、ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』(阪急コミュニケーションズ)です。同書の英語での初版は1940年。もはや古典ともいえる本です。日本語版は1988年に出版されました。100ページの薄い本ですが、この本にはアイデアを生み出すために必要な方法論が詰まっています。以下はその引用です。

  • アイデアの作成は、一定の明確な過程であり、流れ作業である。この技術を修練することが、これを有効に使いこなす秘訣である。
  • アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。
  • 以下がアイデアの作られる全過程ないし方法である。

第一、資料集め:諸君の当面の課題のための資料と一般的知識の貯蔵をたえず豊富にすることから生まれる資料と。
第二、諸君の心の中でこれらの資料に手を加えること。
第三、孵化段階。そこでは諸君は意識の外で何かが自分で組み合わせの仕事をやるのにまかせる。
第四、アイデアの実際上の誕生。〈ユーレカ!分かった!みつけた!〉という段階。そして
第五、現実の有用性に合致させるために最終的にアイデアを具体化し、展開させる段階。

『アイデアのつくり方』のポイントをかみ砕いてまとめると、

① 事実・データをできるかぎり収集し、
② 徹底的に考えに考え、
③ いったん忘れて潜在意識に処理をまかせて、
④ アイデアが生まれ出るのを待ち、
⑤ アイデアが生まれたら、それを誰にでもわかるように具体化するということなのでしょう。

『アイデアのつくり方』に従って順に紹介します。この理論の第一段階「資料集め」です。それは前の日の午後から始まります。

デキる人は「午後にインプットし、夜は忘れる」

午後は情報のインプットと思考に充てる(13時~18時)

「時間ポートフォリオ」は前日の午後をスタート地点と考えます。
午後は、早朝からの仕事の連続で、頭が疲労し始める時間なので、なかなかアイデアを生み出すことはできません。

そこでこの時間帯には、『アイデアのつくり方』の第一段階「資料集め」と第二段階「心の中で資料に手を加える」作業を行います。

私の経験では、脳が適度に疲労している午後の時間帯は、潜在意識に情報をインプットするためには適した時間です。そこで、資料の収集と読み込み、つまり脳への大量インプットを行います。

少し疲れた頭でひたすら考えながら、情報をできるだけたくさん詰め込み、脳がいっぱいいっぱいでこぼれそうな状態にします。その状態になったら、あとは、なすがままにして忘れます。

出張旅費精算などのルーティーンワークも、この時間帯にまとめて行います。

アイデアやひらめきを必要としない仕事は、できるかぎり午後の遅い時間に回すことがポイントなのです。

夜は「忘れる」のが仕事(18時~翌朝5時)

何もせずにボーッとしているとき、突然アイデアがわくことがあります。それまでずっと頭を悩ませてきた問題の解決方法が浮かぶのは、得てしてこうした「何もしていない瞬間」です。

そればかり考えていたときは思いつかなかったことが、いったんそこから離れて忘れておくと、フッとアイデアとしてわいてくる。これは何が起きているかというと、あらかじめ脳を情報でいっぱいにしたうえで、あえて意識の上からその問題を消し去ることで、知らない間に潜在意識が大量の情報を整理し、組み合わせ、つなげてくれるのです。それによって、今まで気づかなかった視点がもたらされ、パッとひらめくというわけです。

では、夜にすべきことは何でしょうか。

「この潜在意識の作業を邪魔しないためにも、いったん忘れる」ことが必須なのです。
少し意外かもしれませんが、夜は何もせずに「忘れる」ことです。何もしていなくても、潜在意識はちゃんと働いていて、午後にめいっぱい詰め込んだ情報をセッセと整理してくれています。

いくら考えても答えが見つからないときは、その話題を頭から消し去って「忘れる」こと。そうすれば、あとは潜在意識が勝手に処理してくれます。これが『アイデアのつくり方』の第三段階「孵化段階」です。

脳にはちゃんとこのような仕組みがあるのに、活用しないのはとてももったいないことです。

この夜の時間こそ、プライベートで家族と充実した時間を過ごしたり、ライフワークに使ったり、遊んだりすべき時間なのです。あるいは、ゆっくりと寝ていてもよいでしょう。その間も、潜在意識はちゃんと仕事をしてくれているのですから。

「よく学び、よく遊べ」といわれるのも、同じことです。このことわざは、英語では、“All work and no play makes Jack a dull boy.”(勉強ばかりさせて遊ばせないと子どもはダメになる)といいます。大人であっても、いつも仕事ばかりしていると、生産性と仕事の質が下がってしまうのです。

アイデアは早朝にやってくる(5時~9時)

早朝は、脳が一番活性化する創造的な時間です。ここで、前日の「仕込み」が利いてきます。

前日の午後に詰め込んだ情報を、リフレッシュした頭であらためて眺めてみましょう。おそらく、前日気がつかなかった新しい視点や洞察が得られるはずです。それは、前の晩から明け方にかけて、潜在意識が情報を整理してくれたおかげです。86『アイデアのつくり方』の第四段階「アイデア誕生」です。

前日の午後に情報を仕込み、残業はせずに仕事を離れ、潜在意識に情報の整理をまかせてしまう。このような下準備をすることで、前の晩に3時間残業しても得られなかった洞察が、朝の30分で得られるのです。こうして得られた新たな洞察は、仕事の質と効率を格段に上げてくれます。

午前中にアイデアを形にする(9時~13時)

どんなに素晴らしいアイデアが浮かんだとしても、それを他人にも理解できる形に落とし込まなければ、単なる“思いつきの域”を出ません。

早朝に得たアイデアはたいてい手書きのメモのような自分にしか理解できない形になっています。そのままでは役に立たないので、それを他人が見てもわかるように加工することが必要です。

要するに、アウトプットです。具体的には、文章にまとめて関係者にメールで送ったり、パワーポイントなどのチャートに整理して説明できる状態にしておきます。

これが、頭が疲労する前の午前中に行うべき作業です。『アイデアのつくり方』の第五段階の最終的なアイデアの「具体化・展開」です。

アウトプットするときには、どうすれば他人でもわかる形になるかを考慮します。せっかくのアイデアも、他人に伝わらなければ役立ちません。そして他人に伝わらない状態は、生産性を大きく下げます。これについては、コミュニケーション術について述べた第4章でご紹介します。

「前日に情報を詰め込む」→「夜は忘れて潜在意識に整理をまかせる」→「翌朝、着想を得る」→「午前中にそれをまとめる」というサイクルを習慣づけることで、アイデアを生み出す力がどんどん高まっていきます。

その結果、朝の生産性はますます上がっていくのです。

なお、実際には、ここで紹介した「時間ポートフォリオ」どおりに事を運ぶのはむずかしいかもしれません。私も日々の仕事では、ゴールデンタイムの早朝から昼まで会議が入ったり、緊急対応案件が入ったりして、必ずしもこのとおりに時間を活用しているわけではありません。しかし、この基本的な考え方を身につけ、できる範囲で実践することで、生産性がアップし、仕事の質も大きく向上します。

永井孝尚
1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。本業のかたわら朝時間の活用によりビジネス書の執筆活動を続けベストセラーを生む。2013年、30年間勤務した日本IBMを退社して独立。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任し、数多くの企業や団体に講演やワークショップ研修を実施。