もう「丸暗記」はしなくていい!

山口真由,ストーリー式記憶術
(写真=The 21 online)

年齢を重ねるにつれ記憶力が鈍って、新しい知識を覚えられない──と悩むことの多い40代。その苦労は「楽しく、合理的な覚え方によって解消できる」と語るのは、32歳で米ハーバード大学法科大学院に入学した山口真由氏。司法試験をはじめ多くの難関を突破してきた山口氏が勧める「ストーリー式記憶法」の極意とは?

40代のインプットは「合理的に楽しく」

学生時代や新入社員時代にひたすら知識を吸収してきた方々も、30代、40代に入るとかつて学んだ知識を使って要領よく仕事をこなし、「もう新しい分野へのチャレンジはおしまい」という気持ちが芽生えがちです。

「今さら勉強なんて……」としり込みする人も少なくありません。

しかし、私はこの年代こそ新たなインプットが必要だと思います。今はこれまでの蓄積が開花する「充実期」を過ごせているかもしれませんが、50代を超える頃にはそのストックも尽き、昔の焼き直しのような仕事しかできなくなる危険も。それでは、技術が日進月歩で進化する現代のビジネスシーンについていけなくなります。新しい知識を学び続けなければ、市場では生き残れないのです。

とはいえ、体力が衰えてくると「覚える力」に変化が訪れるのもまた事実。私自身、32歳でハーバード大学に入学したときには、昔のように徹夜で知識を詰め込むような勉強法はもう不可能だと気づかされました。

そこで考えたのが、より合理的な記憶法──すべての知識をストーリーに見立てて覚える「ストーリー式記憶法」です。

これは私が幼少期より無意識に行なってきた手法なのですが、30代に入ってからはより意識的に活用するようになりました。では、なぜストーリー化することが有効なのか。そのメカニズムを説明しましょう。

記憶には、いわゆる知識を覚える「意味記憶」と、自らの体験を記憶する「エピソード記憶」があります。「いつどこで、何を経験したか」というエピソード記憶は、自分自身の感情と直結するため知識記憶より鮮やかに残り、思い出しやすいのが特徴。ストーリー式記憶法はその特徴を利用して、知識=意味記憶を、エピソード記憶に近い形にして楽しく覚えるという方法です。

法律ですら、心に響く「ストーリー」になる!

「そんなことが可能なのか?」と思われるかもしれませんが、実際にはどんな分野でもストーリーにアレンジできるものです。

たとえば、私の専門分野である法律の世界。一見、無味乾燥な条文の丸暗記ばかりが必要と思われがちですが、それは誤解です。さまざまな「判例」は、まさにひとつの物語です。とくに私が留学時代に熱心に学んだ「家族法」(夫婦や親子など家族に関連する法律)は、当事者の行動に共感したり憤慨したりの連続でした。
1つひとつの判例もドラマチックですが、複数の判例を時系列で追うと、そこにもストーリーがあります。

たとえば、1920年代には却下されていた「不貞をした側による離婚の申し立て」が、70年代には緩和され、80年代になると「別居期間が長く、結婚が破綻していれば許される」と変わっていくのは、日本における家族観の変化が垣間見えて面白いものです。1つの判例、判例から判例への推移、さらにそれらが家族をめぐる全体の歴史を作っていく。このように、重層的にストーリーが楽しめるのです。

経営や会計といった、数字に関わる分野の暗記も同様です。利益目標を立て、それに向かって何をすればどういう結果が得られるか、というストーリーを組み立てることが可能です。ストーリー化とは、因果関係を整理することで記憶に残りやすくする作業とも言えるでしょう。

ストーリー化が難しそうな経済学の公式にも、物語性を見出すことは可能です。「人がこう行動すればこんな現象が起こる」といった分析や推論はまさにストーリー。たとえば、各人が公平性を無視して自分の利益だけを追求すると結局は全員が損をする、という「共有地の悲劇」などはその典型です。

日本史や世界史となると、長大なストーリーそのものです。ここで「年表の丸暗記」などの無機的な勉強法を選択してしまうのはもったいない話です。年代を覚えるための「語呂合わせ」も、良い方法だとは思えません。起こった出来事の内容と直結する語句を使っているならまだしも、大半はかなり無理のあるこじつけや、無関係な言葉です。出来事と語句の関係性が薄いため、思い出しにくいのです。出来事の前後関係や背景を踏まえて一連の流れとして覚えるほうが効率的で、ひとつのエピソードから連想して思い出しやすくもなるはずです。

では、語学はどうでしょうか。英単語や文法の暗記はストーリーとは縁が薄いように思われますが、「面白いストーリーを伴う文章」を読むことで楽しく覚えられます。小説や興味のあるテーマのニュース、海外スターのゴシップ記事なども面白い教材になります。英語「を」覚えようとするのではなく、英語「で」覚える感覚で楽しむのが良い方法です。

「覚えている自分」もストーリー化しよう

また、分野を問わずお勧めしたいのが、「覚えているときの自分」と結びつけるという方法です。「この本はあの店でコーヒーを飲みながら読んだ」「この部分は○○線の車中で覚えたところだ」と、インプット中に自分が何をしていたかというエピソードとセットにすると、学んだ内容も強く記憶され、思い出しやすくなるのです。

ちなみに、私は美容院で髪を切りながら勉強することがよくあります。「髪を切る」という、ある意味特異な状況と結びつけることが、印象を深めるうえで効果的なのです。

また、「自らストーリーを作る」という意味で有効なのが「ひとり質疑応答」。学んだ内容に関する質問を想像し、それに答えてみましょう。

私も司法試験の勉強中に「ひとり口頭試問」をよく行ないましたが、それによって理解が深まりました。聞かれて答える自分、というストーリーを描くことでより深い学習体験ができ、記憶として定着させることができるのです。

山口真由(やまぐち・まゆ)弁護士
1983年生まれ。札幌市出身。筑波大学附属高等学校進学を機に単身上京。2002年に、東京大学入学し、法学部に進み、3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。また、学業と並行して、東京大学運動会男子ラクロス部のマネージャーも務める。学業成績は在学中4年間を通じて“オール優”で、4年次には「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け、2006年3月に首席で卒業。同年4月に財務省に入省し、主税局に配属。主に国際課税を含む租税政策に従事。2008年に財務省を退官し、2009年に弁護士登録。現在は主に、企業法務を担当する弁護士として活動するかたわら、テレビ番組や執筆等でも活躍中。
著書に『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(扶桑社)、『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)がある。(取材・構成:林加愛)(『 The 21 online 』2017年7月号より)

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