北朝鮮の度重なるミサイル実験と核実験にともない、「EMP攻撃」の危険性が指摘されている。これは、上空で爆発により電磁波を起こすことで、地表近くの電子機器などを壊してしまうもの。北朝鮮の朝鮮中央通信が能力保有の可能性を示唆したことから、関心が高まっている。EMP攻撃とは何なのか、その影響や対策方法はあるのだろうか?

核爆発の副産物「EMP」を使った攻撃は文明生活すべてを破壊し得る

EMPとは「Electro Magnetic Pulse」、電磁パルスのことであり、これ自体は普遍的に存在する。核爆発による膨大なガンマ線の放出により、高層大気と作用して電磁波の波長を狂わせ(コンプトン効果)、結果的にそれがEMPを生み出し地表の広い範囲に影響を及ぼし、電子機器を使えなくするというものが概要である。核兵器そのものはEMP攻撃を目的としている訳ではないので、いわばEMP攻撃は核兵器の「副産物」と言える。

EMP攻撃により影響を及ぼすのは電子機器のため、一般的に考えられる電化製品はすべて影響を受ける。電磁パルス自体は落雷などでも起こるが、EMP攻撃の場合、いわゆる雷サージよりも遥か速い速度で電子回路に影響を及ぼすと考えられている。

電力会社の送電網、非常用電源などにも影響を及ぼすと考えられており、不可逆的に電子回路を破壊するとされているので、電気を使った経済活動はすべてストップする。こうなると、必然的に文明的な生活を送ることは不可能である。核兵器は威力にもよるが、それでも破壊される範囲は限定的である。しかしEMP攻撃は宇宙空間での核爆発によって引き起こされるため、その影響が及ぼす範囲も格段に広いとされている。

EMP攻撃の効果は、実は「はっきりとしていない」

こう書くと恐ろしいことだらけだが、ここでは意図的に「考えられている」「されている」などの文言を使っている。

なぜなら、この攻撃そのものは「電磁パルスが起こってそれが電子回路に影響を及ぼすことは実証されている」が、「実例があまりに乏しいため影響はハッキリと算定されていない」からである。1962年7月のアメリカによる核実験によって、ハワイで大停電を引き起こした例がEMP攻撃の影響として引き合いに出される。

しかしこれは半世紀以上も前の事例であり、その後の技術進化によって取られている電磁波対策がどのように有効か(あるいは無効なのか)については、大気圏内外の核実験が行われていない現在においては実証する手段がない。

大気圏外で核爆発を起こすことにより、電磁パルスが引き起こされることだけはハッキリとしており、理論的にも実例としても証明されていることは事実である。しかしそれが、現代社会でこれだけ電子機器が普及し、それ相応の電磁波対策を取られている状況において、「すべてが破壊され尽くされる」のか「まったく影響がない」のか、ハッキリと証明できない。

無害であるという証明ができない以上は対策をせざるを得ないが、軍事攻撃そのものに対する対策を講じるのであれば、「そもそも撃たせないようにする」という後ろ向きな対策しか取れない。

取り得る対策は少ないが、災害時の備えの延長で考えるしかない

核兵器による攻撃と同様、EMP攻撃に対しても、一般市民が取れる対策はほとんど存在しない。広範囲な送電網を一瞬で破壊し尽くす威力がEMP攻撃にあるとしたら、言葉は悪いが「何をやっても無意味」である。

しかし一般的な災害に対する備え、食料や飲料、燃料の備蓄などは行っておくべきである。

EMP攻撃で「広範囲」にインフラが破壊されなかった場合、一般的な地震や洪水に対する備えは生きてくるからである。できる範囲の事を確実に行い、備えを万全とすることで、「不確実な恫喝などには負けない」という毅然とした態度もまた重要だ。(信濃兼好、メガリスITアライアンス ITコンサルタント)