「10年後にはAI(人工知能)教師が主流になる」との見解を、英国の名門私立校ウェリントン・カレッジのアンソニー・シェルドン校長が示した。「学習面はロボットが担当し、人間の教師はあくまで補佐の役割に移行する」と予想している。
AI技術は既に教育の領域にも進出しており、現在の教育をまったく異なるものへとつくりかえる可能性が議論されている。
AI教師ならば各生徒の能力を最大限に伸ばせる?
歴史および政治評論家で、キャメロン前英国首相やブレア前英国首相の伝記の著者でもあるシェルドン校長曰く、「AIは人間の生活様式を変える」革命的な存在であり、人間の教師から子どもが学ぶという伝統的な教育構造も徐々に変わっていくという(インデペンデント紙より )。
将来は「全生徒がそれぞれの需要に合わせた教育を、最高の教師=AIから学べるようになる」。人間の教師の役割は学習分野から離れ、教材の準備や生徒の素行管理など、どちらかというと「教員補助的な役目が中心になる」と予想している。
各生徒の学習能力の判断にAI技術を利用し、最大限の能力を引き出すという発想は素晴らしい。人間の教師では時間や労力的な問題から、必然的にクラス単位の授業になりがちだ。しかしAIならば、マンツーマン授業が可能になる。
シェルドン校長による「AI学校」の発想に関しては、2018年出版予定の著書『第4次教育革命』の中で詳しく解説されている。教育産業で旋風を巻き起こしそうだ。
米ジョージア工科大学では、生徒はAIだと気付かずに質問
AIは既に様々な教育現場で活用されている、あるいは導入が検討されている。オンラインでの通信講座が人気の現在、「生徒からの質問にAIが答える」という試みも始まっている。
一例を挙げると、米国のジョージア工科大学では、ジルと名付けられたAI補助教員を採用している。
同校のコンピューター科学博士号コースでは、知識ベース人工知能(KBAI)に関する質問だけで、1学期中に約300人の生徒から1万件の質問がオンラインフォーラムによせられる。教員補助8人では到底対応しきれない。そこでジルが採用されたのだが、生徒は人間の教員補助だと気付かず、やりとりを交わしていたという(サイエンス・デイリーより )。
ここで繰り返し議論されている、「ロボットが人間から職を奪う」という疑念が再浮上する。AIの普及に伴い、教員職は著しく縮小されるのだろうか。
ジョージア工科大学からは、ジルの登場によって既存の教員補助の数が減ったという報告は聞かれない。しかしジルが「1万件の質問の4割に対応できる能力」を備えている点を考慮すると、この先もリストラはないとは断言できないだろう。
AIが教育をどのように変えるのか。そして結果的に人間の生活をどのような影響をおよぼすのか。10年先、20年先の未来が興味深くもあり、恐ろしくもある。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)