第2次安倍政権が掲げたアベノミクス。3本の矢のうち、1本目とされる金融緩和、2本目の財政出動までは政府が主導して進められた。しかし、3本目の矢である成長戦略は官の力だけで実現できない。民間の力が大きな比重を占める。
当初から、成長戦略には時間がかかるとされてきた。新しい産業などを生むには、それなりの時間が必要になることは誰にでも理解できる。アベノミクスにおける成長戦略とは、経済を発展させるために妨げとなっている規制を取っ払うということだ。
そうした規制緩和の波は、地方自治にも及んでいる。今般、日本は少子高齢化が急速に進み、生産人口の減少も顕著になっている。2020年頃からは、世帯人口も減少に向かう。それにも関わらず、住宅の着工件数は伸びている。このままのペースで住宅を建設したら供給過剰になることは明白だ。
『 老いる家 崩れる街 』
著者:野澤千絵
出版社:講談社現代新書
発売日:2017年3月17日
「住宅過剰社会」各地で横行する無秩序な都市計画
ところが、こうした人口減少などを考慮しない、無秩序な都市計画が各地で横行する。東京湾岸部ではタワーマンションの建設が相次ぎ、郊外でも一軒家が続々と建てられていく。さらに、学校・公園・道路・上下水道・電気・ガスといった生活インフラが整備されていないような、居住するには不向きな農村部にも新築住宅が建ち始めている。
そんな住宅過剰社会になってしまった原因を、本書は規制緩和にあると指摘する。もともと日本の国土は、都市計画法に基づいて市街化区域と市街化調整区域とに区分されてきた。市街化区域では自治体や開発事業者によって積極的にインフラ整備と住宅建設が進められた。一方、市街化調整区域は原則として農林漁業用の建設のみが許可される程度で、開発行為は認められてこなかった。
こうした線引きは無秩序な開発を抑制する目的があったが、他方で地方の市町村は住宅が増えない要因ともされてきた。過疎化に悩む市町村が手っ取り早く人口を増加させる手段として選択したのは、どこでも住宅が建設できるという魔法のような手段だった。
地方都市は土地が安い。そのメリットを活かして住宅を次々と建てられるようにする。これまで市街化調整区域で住宅が建設できなかったエリアを市街化区域へと用途変更すれば、それは簡単に叶う。
市街化区域への変更を容易にするという規制緩和によって、新しい住宅が次々と建てられる。住宅が増えたことで、ニューファミリー層と呼ばれる20代-30代の若い夫婦がニュータウンに引っ越してくるようになった。政府の住宅金融政策も若いファミリー層の住宅購入意欲を刺激し、これをアシストした。