家計が保有する金融資産が増えています。日銀が2017年9月20日に発表した「2017年第2四半期の資金循環(速報)」よれば、2017年6月末時点で家計が保有する金融資産は約1,832兆円となり前年比4.4ポイントの増加でした。
しかもこのうちの約半分を占めているのは現金・預金で945兆円となり、51.6%を占めています。一方、投資信託は前年比15.6ポイント増の100兆円、株式等は22.5ポイント増の191兆円で、合わせても全体の約15%に過ぎません。しかも、これらの増加は個人が投資に積極的になったというわけでは無く、株式相場の上昇により資産価格が押し上げられたことによるとみられています。
また、家計の金融資産の半分以上は60歳以上が所有していることも分かりました。
未だデフレ脱却が本格化しない日本経済の低迷には、この家計の保有する金融資産が休眠状態にあることと、60歳以上が保有する資産が現役世代へシフトしないことが問題とされています。
60歳以上が保有する1,000兆円の資産
金融庁が2016年9月に発表した「平成27事務年度 金融レポート」では、特に、60歳以上の高齢者が1,000兆円程度の金融資産を所有していることが明らかになっています。
同レポートによれば、60歳以上が保有する金融資産は1989年には家計の金融資産に占める割合の約3割でしたが、25年後には約6割にまで増加しています。
60歳以上の金融資産が増加したことには3つの原因が考えられています。1つは高齢化に伴う人口構成の変化、2つめには家計の資産形成の多くが退職金に依存してきたこと、そして3つめとしては平均寿命が伸びたことで高齢者から相続する次の世代も既に高齢化しているという状態が増加したことです。
さらに長くデフレ状態にあった我が国では、現金を持っていることが有利であることから、一端金融資産を所有した高齢者は、お金を使わずに貯め込む傾向を強くしてきました。このことは、お金持ちの高齢者は増えていますが、マイホーム購入や子育てなど最もお金が必要なライフイベントを多く迎える現役世代にはお金が回りにくくなっていることを示します。
しかし、今後デフレ脱却を目指す政策が功をなしてインフレが進めば、現金の価値は目減りしますので、積極的な投資による資産運用が注目される可能性があります。
個人の金融資産で広がる世代間格差
一方、インフレが進むことは、20代や30代の現役世代の実質所得の目減りも意味し、さらに逃げ切り世代と言われる高齢者の増加による社会保障負担も重くなるという、現役世代にとっては厳しい現実が到来することが予想されます。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(平成28年)』によれば、2人以上世帯の年代別金融資産の保有額の平均は20代が385万円、30代が612万円、40代が939万円、50代が1,650万円、60代が2,202万円、70歳以上が1,963万円となっています。
この調査結果からは、20、30代の最も出費がかさむ現役世代の金融資産が、それぞれ60代の約17%と約27%しかないという世代間格差が広がっていることが分かります。
しかも50代や60代以降の世代が積極的に20代や30代に資産を移転したり職場などでの権限を委譲したりすることは考えにくいため、現在の現役世代が50代や60代になったときに十分な資産を形成していることは期待しにくい状況があります。
そのうえ20代、30代は出費が多いライフイベントが集中するため、自分たちの収入から貯蓄に振り分けられるお金の余裕がありません。
このままでは、資産における世代間格差は一段と広がることになるでしょう。
失われた20年でも増加した個人資産
一方で、我が国は失われた20年と言われる長期の景気低迷に見舞われたとしながらも、個人資産は増加してきました。特に富裕層や超富裕層の増加が注目されています。
野村総合研究所の調査によれば、2015年時点で1億円以上の金融資産を持つ富裕層は2000年以降では最多の約121.7万世帯に増加しており、この世帯数は日本の総世帯数の約40分の1に該当します。そしてこの富裕層の内、金融資産が5億円を越える超富裕層は約7.3万世帯でした。
これら富裕層と超富裕層の純金融資産は、2013年からそれぞれ17.3%と2.7%増加していたのです。
この増加の要因としては、アベノミクスによる株価の上昇により富裕層の資産が押し上げられたことや、同様にして投資で資産を運用していた準富裕層の資産が増えて富裕層にシフトしたことが考えられています。加えて相続税の課税強化が生前贈与を活発化したことも考えられます。
増加しても眠り続ける個人資産が日本経済の課題の1つ
以上のように経済が低迷している中にあっても、個人の金融資産が増加していることは既に述べた通りです。
ところで個人の金融資産の1,832兆円とはどれほどの規模なのでしょうか。この金額は2016年の国家予算約97兆円の約18倍強に匹敵し、そのわずか3%が運用されるだけで同年の税収約55兆円を上回る規模を示しています。
ところが前述の通り、日銀の「2017年第2四半期の資金循環(速報)』によれば、この膨大な個人金融資産の半分である51.6%は現金・預金で動かない資産です。一方、投資信託の100兆円と株式などの191兆円を合わせても15%にしかなりません。
米国では個人金融資産のうち現金・預金は13.6%で証券投資が51.8%と、ちょうど日本と逆の比率になっています。しかも日本での現金・預金が占める割合は、この40年間ほとんど変動していません。
その理由として考えられるのは、日本人にとっては倹約や貯蓄が美徳であるという考え方が根強いことや、長いデフレにより現金・預金の価値が高かったことが上げられます。デフレ時には預金金利が低くても、相対的にお金の価値が高まっていくためです。
そのため、現在金融資産の大部分を保有している世代が順次死亡して次の世代に相続されたとしても、結局現金・預金として保有され続けることが予想できます。
ただ一方では、もし脱デフレが成功してインフレが進めば、現金・預金の資産価値が目減りしていきますので、眠っている金融資産が株式などの投資の運用にシフトする可能性もあります。
そうなれば、株式市場にお金が流れ込むため相場が上昇する可能性がありますので、資産運用を検討している人は、インフレ率の変化に注意し、投資のタイミングを見極める必要があります。
つまり現在の日本経済の問題点の一つは、膨大な個人の金融資産が眠ったままの状態にあることです。この金融資産が消費や投資に流れ始めれば、日本経済の回復に寄与する可能性があります。
相続税の強化と贈与税の緩和とは
既に、この個人の金融資産を市場に流出させるための政策の一環として、相続税が強化されたということがあります。
親族間で資産の所有権が移転するだけでは、現在高齢者に偏っている金融資産が市場に流出することがありません。そこで2015年に相続税の基礎控除を引き下げることなどで税を強化して、相続前に資産が市場に流出することが促進されると期待されているのです。
一方、生前贈与は緩和が進められています。贈与税は2015年から最高税率が上がりましたので強化されているではないかと見られがちですが、贈与税率のテーブルが「特別贈与財産」と「一般贈与財産」の2通りに分かれ、部分的にではありますが、税率や控除額が緩和される方向に変更されたのです。
例えば20歳以上の人が直系尊属(父母、祖父母、養父母など)から贈与された財産を示す特別贈与では、2014年までの税率が2015年の改定で課税財産が400万円以下では20%から15%へ、600万円以下では30%から20%へ、1,000万円以下では40%から30%へ、1,500万円以下では50%から40%へ、3,000万円以下では50%から45%へと下がっています。
また、特別贈与以外の贈与である一般贈与では、課税財産が1,500万円以下の場合に50%から45%に下がっています。
資金が必要なライフイベントの多い現役世代への資産シフトが求められている
ここまで述べてきましたように、我が国の家計の金融資産が高齢者に偏って動かず、現役世代に移転しないことが消費低迷の原因の1つであることが指摘されてきました。
このような指摘に対して、暦年贈与の控除額拡大や、住宅の購入・教育資金・子育て資金などの目的別に贈与税の非課税枠を設置、あるいはジュニアNISAなどの資産の世代間移転を促す政策が開始されるなどの動きが進んできています。
その結果、こうした非課税精度の利用者は年々増加してきており、家計消費が拡大することが期待されています。
しかしここまで見てきました通り、現実にはまだ高齢者への金融資産集中の傾向に大きな変化は出ていません。
しかも金融資産が多い高齢者ほど期待収益率が高い金融商品からの収益を得られる一方、若年層は期待収益率が低い金融商品に偏っているため、さらに世代間格差が拡大しています。
つまり、世代間の資産移転を促そうとする各種政策は、今のところ目に見える成果を出すことができていないと言えます。
この状況を、世代間の資産移転の成果が出るには時間がかかっているのだと判断したとしても、既に述べた通り、移転先世代が既に高齢化していたり、若年層が年金制度などに対する不信感を抱いていたり、あるいは長引く経済低迷や実質賃金上昇の低迷、そしてリストラへの備えなどから、移転された資産を消費拡大に回す可能性が高いとは言えません。
高齢者が資産を動かすための環境整備が必要
家計の金融資産が高齢者に偏っていることは、各人が老後に備えて蓄えてきた結果だという面が強いため、積極的に元本が割れる可能性があるリスクを取ってまで運用するという動機が見つけられないことも考えられます。
しかし、我が国の経済低迷を打開するきっかけの1つとして、偏った金融資産の保有層には特に高額商品の消費者となることや、経済活動を発展させるための投資を行う役割が期待されています。
そのためにも、高齢者が積極的に消費したり資産運用したりするための環境整備が急がれます。たとえば投資に関する正しい知識を学ぶための機会を増やしたり、魅力的な金融商品を整備したりすることが大切です。
そのような活動により、貯蓄が美徳で投資はギャンブルであるといった根強い考え方を変えていく努力も必要とされるでしょう。そのことが、やがては我が国の経済発展に貢献するであろうことが期待されます。
既に証券取引所や証券会社などが高齢者向けの資産運用や投資に関するセミナーを開催するなどの活動を活発化しています。
また、一定金額以内の株式投資においては売却益や配当金を非課税にするNISA(少額投資非課税制度)のような仕組みの認知度を上げることも大切です。
金融庁が2016年10月に発表した「NISA制度の効果検証結果」によれば、NISAの口座開設数は同制度の導入から2年半後の2016年6月末には1,030万口に達し、8兆3,762億円の買い付け額になっています。
しかも同報告書によれば、投資経験が乏しい50歳以下の人による開設が増加傾向にあるようですから、若年層が積極的に資産運用を始めようとしている機運が高まっている可能性もあります。
また、2016年から始まったジュニアNISAは子や孫の代理として祖父母が投資する制度で、高齢者から若い世代への金融資産の移転が促されることが期待されています。同報告書によれば、口座開設は急増しており2016年3月末から6月末までの3ヶ月で77.4%増となっています。
投資や現役世代への資産シフトが日本経済の活性化に求められている
これまで、モノの値段が下がり(つまり現金の価値が上がり)続けるデフレ環境のもとでは、現金や元本保証の預金を増やして保持することが資産を増やす堅実な手段でした。
前述のように、政府は高齢者に偏った金融資産の流動性を高めようとしている一方では、増税や自由貿易の拡大など、相変わらずデフレを促進してしまう緊縮政策を採用する傾向があるため今後の日本経済の動向を正確に予測することは困難な状況です。
しかし政府も経済界も、基本方針としてデフレ脱却を目指している以上、インフレが進む可能性もあり、現金・預金による資産の目減りが始まる可能性もあります。
このような環境の変化に対して各個人が採るべき対策は、各種投資による資産運用でインフレ率を上回るリターンを確保することです。そのためにも、個人が自己責任において投資を行い資産運用するための知識を身に付けなくてはならない時代になってきました。
同時に、資金を必要とするライフイベントが集中する現役世代に資産をシフトさせる県境作りも急がれるところです。
これらのことが、個人の金融資産が経済の活性化に活かされる道筋を付けことになるのではないかと期待されます。
(提供: Incomepress )
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