9月下旬から10月上旬にかけて本土4G・5G関連セクターの株価が上昇している。本土A株77社で構成される4G・5G関連指数(同花順によるセクター指数)の終値は9月19日には2421.90ポイントであったが、10月10日には2715.37ポイントまで伸びている。

この間の上昇率は12.1%。同じ期間における上海総合指数の上昇率0.8%、創業板指数の上昇率2.0%と比べると大きくアウトパフォームしている。

個別銘柄では、東北地方を中心に通信ケーブル保護パイプ、通信設備の設置工事、通信ネットワーク維持サービスなどを手掛ける中通国脈(603559)は97.8%、光ファイバーセンサーなど光通信機器を製造する太辰光(300570)は38.3%、M2M(Machine to Machine)製品を製造する広和通(300638)は37.7%、情報電子部品、通信設備などを製造する長江通信(600345)は31.4%、光通信ネットワーク、無線通信ネットワーク設備を製造する華脈科技(603042)は24.0%、通信キャリア向け機器、スマホなどの消費関連機器を製造する中興通訊(000063)は22.8%それぞれ上昇している。

通信関連機器メーカーが買われているわけだが、その背景には中国の5G(第5世代移動通信システム)開発が順調に進んでいることが挙げられる。

工業情報化部、間もなく5G屋外実用化試験に移行

中国,5G関連銘柄
(写真=PIXTA)

中国の4G(第4世代移動通信システム)ネットワークは世界最大規模である。4G基地局の累計は299万か所に及び、全世界の約6割に達している。中国は、産業発展の基礎ともいえる通信技術の発展に注力しており、大手3大通信キャリアは厳しい競争に勝ち抜くために、5G開発に力を入れている。

現状において4Gによる巨額資産が5Gへの投資を鈍らせるといったことを心配する必要はなさそうだ。4Gサービスがしばらく併存する形で5Gサービスの実施が進むだろう。むしろ、大規模な4Gネットワーク運営による豊富な経験が、5Gの開発を進める上で有利に働くと考えてよい。

工業情報化部、中国国際貿易促進委員会は9月27日から30日にかけて北京市で2017年中国国際情報通信展覧会を開催した。各国の関連企業が参加、衛星通信、量子通信などの最新ブロードバンドネットワーク、4G/5Gなどの無線ネットワーク、AI(人工知能)、スマートセンサー、VR(バーチャルリアリティ)などの新技術、都市運営、政府サービス、交通、エネルギー供給、農業、医療、旅行、教育、自動運転や、製造業に関する最新の応用技術、セキュリティ、チップ、ソフトウエアなどの最新の状況が紹介された。

展覧会期間中、フォーラムが開催されたが、工業情報化部通信発展司の聞庫司長は、「中国の5G技術実験は既に第2段階に進んでおり、その中心内容となる仮想実験は基本的に終了している。現在、5G推進グループは北京懐柔区において、30カ所の基地局から成る屋外実験設備を建設中であり、間もなく、実験は第3段階に移るだろう。

この段階では、国際標準規格を遵守し、商用のハードウエア・プラットフォームを用いて、商用設備のネットワーク性能テスト、互換テストなどが行われる。これにより、要求される設備、チップなどの性能目標が明らかになる」などと説明している。行政による詳細な5G規格作りがより具体的になってきた。それが今回の通信設備メーカーの株価急騰に繋がっている。

2018年には全面的に5G産業化が開始

通信キャリアの投資動向が気になるところである。マスコミ報道(中国証券網、2017年10月9日、以下同様)によれば、チャイナモバイル傘下の無線・ターミナル技術研究所の楊光副所長は、「我々は2016年、関連技術に関して試験を行い、2017年には屋外技術実験場でシステム試験を行った。2018、2019年、規模を拡大して屋外技術実験を行い、基礎技術、生産の成熟度を見て、基地局の規模、数量を決めるだろう」などと発言している。

チャイナモバイルだけではなく、3大キャリアはいずれも、北京、上海、広州などで5Gシステムモデルに関する屋外実験場を建設、実験を開始している。チャイナテレコムでは、「2018年6月から2019年12月にかけて6都市で小規模商用テストを実施、2020年以降、大規模商用段階に進むだろう」などと説明している。

また、大唐モバイルの馬建成総経理は、「来年は世界に先駆けて中国の5Gが産業化段階に入るだろう。設備は既に小型化、低コスト化において、実用段階に達しており、来年には商業段階に入るだろう」などと発言している。多くの業界関係者は、「2018年には、チップ、システム、末端製品の第一段階における技術標準が確定し、5G産業化が全面的に開始される」とみている。

5Gの平均通信速度は10Gbyte/秒程度となり、4Gの100倍以上になると言われている。これだけ通信速度が上がれば、遅延が極端に短くなり、同時多数の接続が可能となる。国際情報通信展覧会は、5Gがもたらす未来社会の予想図を示している。市場では自動運転の実用化に大きな注目が集まっているが、IoT需要の広がり、規模の拡大は極めて大きい。5Gは社会そのものを大きく変えるキー技術となりそうだ。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP: http://china-research.co.jp/