●株式市場が好調な中、銀行株は精彩を欠く。利鞘の低下が続き、今期の収益は、減益か、せいぜい横ばいと予想されていることが主因。

●他方、本日発表の7-9月の貸出の伸び率は名目GDP成長を上回るなど堅調。更に、先週以来、銀行貸出の基準となるTibor(東京銀行間取引金利)が、定義変更等から9年ぶりに上昇した。

●金利の上昇幅はごく僅かで、大手行でも年間数億円~30億円程度の収益影響しかない。それでも、長年低迷してきた基準金利に底打ちの兆しが出てきたのは注目に値する。銀行株は足元の出遅れを十分取り戻しうるだろう。

Tibor金利の上昇は9年ぶり:小さいながらリアルな利益影響

1日経平均が1996年以来の高値を更新する中、銀行セクターの出遅れが目立つ。9月初旬には、金利の上昇でやや復調したが、その後は堅調な相場の流れからの出遅れが目立つ(図表1)。利鞘の低下が続き、今期は横ばいから減益と予想されていることが株価低迷の主な理由とみられる。

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一方、先週10/5に、銀行の貸出基準金利であるTibor(東京銀行間取引金利)が、2008年10月以来9年ぶりに上昇した(図表2,3)。Tiborは、銀行の貸出の約半分を占める変動金利貸出のベースになるものである。今回は、僅か1bp(100bp=1%)の上昇ではあるが、これが続けば、大手行それぞれ数億円~30億円程度の自然増益(年度ベース)となる。

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Tibor上昇の背景と今後の見通し

Tiborが上昇した背景には、今年7月24日に行われた指標の決定方法の変更がある。これにより、Tibor金利は、市場金利を反映して決められることとされた。

これまでは、メガ及び大手地銀が「優良な銀行の取引レートはこれくらいだろう」と"想定する"金利を申告していた。これに対し改正後は、「無担保コール市場」「譲渡性預金金利」など、参照する市場金利とその優先順位を決めて、

無担保コール市場をまず参照
→適切なコール市場取引がなければ譲渡性預金等
→それもなければ、大口定期、OIS等の市場金利
→それもなければ銀行による判断

という具合に、順次、優先される市場を参照しつつ、自行の取引金利を全銀協Tibor 運営機関に申告するよう変更された。海外のLibor(ロンドン銀行間取引金利)の不正申告問題を受け、Tiborについても改革が必要だとしてこの3年議論されてきたものである。

9月末、このTiborの定義変更が軌道に乗ってから初めて、市場金利が本格的に上昇した(図表4)。これまでの9年間、このように市場金利が変動しても、Tibor金利は全く動かなかったが、決定方法が変わったことを受け、Tibor金利も微妙に上昇した。(因みにTiborレートは、上下2行の異常値を除く平均という"オリンピック方式"なので、一部の銀行の特殊事情のみで上昇したとは考えられない。)

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これに伴い、今後は、短期市場金利が上昇すれば、銀行の利益に素直にプラスの影響が出やすくなった。マイナス金利が続く限り、そこまで極端に短期市場金利が上昇することは考えられないものの、短期市場金利は少なくとも底を打ち、長期的には上昇方向にある(図表5)。

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国内貸出も順調:銀行株は出遅れを取り戻す可能性

更に、本日発表された7-9月の貸出の伸び率は3.2%と名目GDPの伸び率を上回る勢いとなっている(図表6)。重石になっている金利にわずかながらプラス要因も見えてきたことから、銀行株は足元の出遅れを十分取り戻しうるだろう。

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大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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