要旨
本稿は、中国経済をこれから学ぼうとお考えの方々を対象に、通常前提として省略されることの多い基礎的な経済データを、図表を用いて分かり易く解説し、理解を深めていただくことを趣旨としている。今回はその第十四回目として、「就業構造」を取り上げ、就業者数のこれまでの推移、国有企業等と私営企業等の業種別従業員構成の違い、現在進行中の3つの就業構造の変化、そして将来の中国経済にとって第3次産業の労働生産性の向上が課題であることなどを解説している。中国経済に関する新聞記事やレポートを読む上で、その一助となれば幸いである。
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中国の産業構造は、その経済発展とともに、第1次産業から第2次産業へ、さらには第3次産業へと、産業の牽引役が変化してきた。中国経済が“中所得国の罠”に陥ることなく経済発展を続けるためには、産業構造の円滑な移行が欠かせない。この産業構造の変化に関しては、2015年11月に「
図表でみる中国経済(産業構造編)
」で取り上げたが、本稿ではそれを就業構造の面から見てみたい。
就業者数は増加も、伸びは鈍化
2017年5月、中国人力資源・社会保障部が公表した「2016年度人力資源・社会保障事業発展統計公報」によると、中国の2016年末の就業者数は7億7603万人で、前年に比べると152万人増えている。しかし、その伸びは年々鈍化してきている。図表-1に示したように1990年代はおおむね前年比1%前後の伸びを示していたが、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を背景に、就業者数の伸びは徐々に鈍化、2016年は前年比0.2%増に留まった。
国有企業等と私営企業等でほぼ半々の構成
また、都市部の従業先を見ると、「国有企業等(含む国有単位、集体単位、その他単位)」と「私営企業等(含む個人営業)」でほぼ半々の構成となっている。業種別に見ると、国有企業等では、図表-2に示したように製造業が28.1%で最大のシェアを占め、建設業が15.5%、教育が9.6%などとなっている。一方、私営企業等では、図表-3に示したように卸売業が42.3%で最大のシェアを占め、製造業が14.6%、商業サービス等が8.8%、ホテル・外食が7.4%などとなっている。
就業構造には3つの変化が進行中
◆農村部から都市部へのシフト
前述のとおり2016年の就業者数の伸びは前年比0.2%増に留まったが、図表-4に示したように都市部の伸びは同2.5%増と比較的高い伸びを維持している。一方、農村部は同2.3%減と1997年をピークに減少が続いている。即ち、農村部から都市部へのシフトが進行中である。なお、2016年の構成は都市部が4億1428万人(構成比53.4%)、農村部が3億6175万人(構成比46.6%)である。
◆国有企業等から私営企業等へのシフト
また、前述のとおり現在の都市部の従業先は国有企業等と私営企業等でほぼ半々の構成だが、図表-5に示したとおり国有企業等の従業員数は2014年の1.83億人をピークに減少し始めた一方、10年前の2006年には7000万人に過ぎなかった私営企業等の従業員数は右肩上がりの増加傾向が続いており、2016年には2億人を超えてきた。即ち、ここもと雇用を吸収しているのは私営企業等だといえる。
◆地域別に見ると二極化
また、地域別の就業者数を見ると、増加した地域と減少した地域がある。図表-6は習近平政権が誕生して以降(2013年-15年)の就業者数の年率換算した伸び率を見たものである。これを見ると、北京市が年率9.6%増、上海市が同8.8%増、広東省が同17.2%増と沿海部は引き続き高い伸びを示しており、また四川省が同19.0%増、重慶市が同13.2%増と内陸部にも急増している地域がある。一方、雲南省が同7.4%減となったほか、黒龍江省や遼寧省など東北部では減少している。
第3次産業の就業者一人当たり実質GDP成長率に注目!
最後に、産業別の就業者数の推移を見てみた(図表-7)。第1次産業の就業者数は減少を続けており、第2次産業は頭打ち、第3次産業は増加ピッチが加速してきている。また、ニッセイ基礎研究所で産業別の就業者一人当たり実質GDP成長率を試算した結果が図表-8である。これを見ると、就業者が減っている第1次産業や第2次産業は、少ない就業者で高い生産の伸びを維持したこともあって、比較的高い成長率を保っている一方、就業者が増えた第3次産業の成長率はここ数年それを下回っている。就業者が第1次産業・第2次産業から第3次産業へシフトしていく中で、第3次産業の就業者一人当たり実質GDP成長率が伸び悩むようだと中国経済の将来が懸念されるだけに、今後の動きが注目される。
三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
上席研究員
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