9月の米雇用統計の結果はハリケーンの影響で予想を大きく逸脱した。10月はハリケーンの直接的な影響はなくなるが、ウオール街の市場関係者からは「9月の『歪み』からの調整が必要で数字をそのまま鵜呑みにすることはできない」との意見が多く聞かれる。今回は間もなく発表される10月の米雇用統計のポイントを整理してみよう。

9月の米雇用統計「数字のカラクリ」を検証

米雇用統計,見通し
(写真=Thinkstock/Getty Images)

9月の米雇用統計では雇用者数の減少、失業率の低下、賃金の伸び加速と予想外の結果が並んだ。しかし、そのいずれもハリケーンの影響による「イレギュラーな結果」であり、鵜呑みにすることはできない。

9月の雇用者数は前月比3万3000人減少と2010年9月以来、7年ぶりに減少したにもかかわらず、失業率は4.2%と前月から0.2ポイント低下した。一見すると矛盾した結果となったのは統計の取り方が違うからだ。

雇用統計の調査期間は12日を含む週の1週間だが、雇用者数を推計している事業所調査では給与の支払いがないと雇用者としてカウントされない。たとえば「ハリケーンの影響でレストランが休業」し、調査週に給与の支払いがなかった場合、たとえ雇用契約が継続していたとしても、従業員は雇用者とは認められず、統計上の雇用者数は減少する。

一方、失業率を算定している家計調査では実際に働いているかどうかは問題ではなく、仕事に「就いている」のであれば就業者としてカウントされる。したがって、調査週に自宅待機となり、まったく働いていなくても、しばらくすれば職場に復帰する予定であるなら就業者数は減らない。

米労働省はハリケーンの影響で150万人が自宅待機となったと発表しており、9月の結果は給与の支払いこそなかったものの、仕事そのものを失ったわけではないことを示唆している。

雇用は大幅増も「賃金の低調な伸び」が心配

10月の雇用統計では、ハリケーンの影響で休業していたレストランが再開され、雇用者数が「カサ上げ」される一方で、賃金の伸びが低下することになりそうだ。

非農業部門の雇用数の事前予想は前月比31万人増と実現すれば2年ぶりとなる大幅な伸びが見込まれている。8月までの1年間では月平均で17万2000人増だったことから、ハリケーンによる「歪み」が是正されることで約14万人の上振れが見積もられているようだ。

ただし、雇用者数は7月が13万8000人増、8月が16万9000人増とやや寂しい数字となっており、基調的な増勢は15万人レベルに低下している可能性もある点には留意が必要だろう。

とはいえ、予想を下回ったとしても、経済指標や他の雇用指標が好調なことから、深刻に受け止める必要はなさそうだ。

10月のISM製造業景気指数は、約13年ぶりの高水準となった前月からはやや低下したものの、依然として高い水準を保っており、視界は良好だ。ADP民間雇用者数も10月は23万5000人増と事前予想の20万人増を上回り、7カ月ぶりの大幅増となったほか、失業保険の申請件数もハリケーン前の水準に戻り、1973年以来の低水準にある。また、8月の雇用動態調査(JOLTS)での求人数は過去最高の水準にあり需要も堅調だ。

一方、10月は雇用増加の大勢を低賃金業種が占める見込みであることから、賃金の伸びは低調となり、事前予想は前月比0.2%上昇と9月の0.5%上昇を大きく下回る見通しだ。

12月の追加利上げ見通しに影響はない?

ところで、注目の次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長にはパウエル理事が昇格することになり、当面はイエレン路線の継承が見込まれる。12月の追加利上げ見通しに影響はないものの、低調な賃金の伸びは来年以降の利上げペースをより緩やかにする可能性がある。

また、賃金の伸びは低いとはいえ、物価の伸びも低いことから「相対的に低いとも言い切れない」との指摘も多い。7〜9月期の雇用コスト指数は、前期比0.7%上昇と前期の0.5%上昇から伸びを加速している。前年同期比は2.5%上昇となっており、物価の伸びが2%を下回っている中で、雇用コストの上昇は企業収益を圧迫する恐れもある。

マクロ経済に目を向けると、ネガティブな影響が予想されたハリケーンだったが、実体経済への影響はポジティブとなり、7〜9月期GDP成長率は3.0%と絶好調となった。ただし、成長は在庫の増加と外需に支えられており、内需は1.8%とそれほど強くはない。

その一方で、所得の伸びを上回るペースの消費が続いており、9月の貯蓄率は3.1%と2007年12月以来の低水準にある。消費信頼感指数は2000年以来の高水準にあるが、貯蓄を取り崩して消費を拡大する姿はやや楽観的過ぎるかも知れない。

雇用者数の堅調な伸びが確認されれば、素直に株高となり、ドルも上昇することになるだろう。ただし、賃金には神経質に反応することになりそうで、低い伸びとなれば消費の先行きに対する警戒感が広がる恐れがある。また、信用も拡大していることから、所得の低い伸びが続くとローン遅延率の上昇につながることも懸念されよう。

一方、可能性は低いとみているが、賃金の伸びが予想外に高まった場合、来年以降の米利上げ見通しが強まり、株価が伸び悩む一方でドルが強含むことになりそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

【編集部のオススメ記事】
2017年も勝率9割、株価好調の中でもパフォーマンス突出の「IPO投資」(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
株・債券・不動産など 効率よく情報収集できる資産運用の総合イベント、1月末に初開催(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)