大事なのは「仕事の意味」を自分自身で見出すこと

小笹芳央,モチベーション,マネジメント
(写真=The 21 online)

「モチベーション」という言葉は、今では一般的な言葉になっているが、浸透したのはここ20年ほどのことではないだろうか。「働く人のモチベーションは時代の変化とともに変わっている」と話すのは、モチベーションを切り口としたコンサルティングサービスを提供し続けてきたリンクアンドモチベーション創業者の小笹芳央氏。日本でいち早く「モチベーション」に注目した小笹氏に、今考えるべきモチベーションの高め方についてうかがった。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影=長谷川博一》

「お金」「出世」では、もはや人は動かない

日本でいち早く「モチベーション」に注目し、モチベーションを切り口としたコンサルティングサービスを提供し続けてきたリンクアンドモチベーション代表取締役会長の小笹芳央氏。同社を設立した二〇〇〇年と比較すると、「今はモチベーションのあり方が加速度的に多様化しており、モチベーション管理がますます難しくなっている」と指摘する。

「働く人のモチベーションの変遷を見てみると、かつて高度成長期のいわゆる『闘うサラリーマン』は、家族を養うため、物質的な豊かさを得るために働いていました。出世して、いい給料をもらうことがモチベーションの源泉だったわけです。

ところが、1990年前後あたり、経済が成熟期を迎えた頃に入社した人たちを見ると、必ずしも出世や給料のためだけではなく、自分らしくありたい、誰かの役に立ちたい、誰かに認められたいなど、モチベーションが多様化してくるのを感じました。この先、企業ではモチベーションの世代間ギャップが顕在化し、モチベーション管理が課題になるに違いない。そのように予測して、モチベーションにフォーカスしたこの会社を立ち上げました。

それから17年経った今は、一人ひとりの事情に応じた働きやすさを実現しようとする『働き方改革』の動きも加わり、モチベーションの多様化がますます加速しています」

「個」を大切にするマネジメントとは?

モチベーションが多様化すると、昔のように待遇や給与での動機づけだけで組織の士気を高めることは難しくなってくる。多様な「個」に応じたモチベーション管理が必要だ。ここに、今の時代ならではの難しさがあると小笹氏は言う。

「今の若い人たちは、皆で飲みに行っても、『とりあえずビール』ということがなく、『私はハイボール』『私はレモンサワー』などと自由に注文するように思います。おそらくこれまでの生活のなかで、集団の型にはめられたり、圧力を受けて理不尽な思いをしたような経験がかつてよりも少ないのでしょう。その意味では、『個』として大切に育てられてきたと言えます。逆に言えば、『個』を守ろうとする防御心も強い。若い人の中には、『個』を尊重したマネジメントをされないと、自己否定されたように感じ、心が折れてしまう人も少なくありません。

今の時代のモチベーション管理において必要なのは、『個』の特性を把握しておくことです。どのような環境で育ち、なぜこの会社に入ったのか、何が喜怒哀楽のポイントなのか。

たとえば、リーダーシップを発揮したいタイプなら、なるべく口を出さずに仕事を任せるようにしたり、チームでやる仕事をやらせてみる。あるいは人の役に立ちたいと思っているタイプなら、直接顧客の声を聞くことができるような仕事を任せてみる。このように一人ひとり異なるモチベーションのあり方を理解し、マネジメントしていくことが大切なのです」

組織においては、個人のモチベーションを高めるだけでなく、それらを束ね、共通の目標達成に導いていかなければならない。

「皆が同じ方向を向いていた時代は、個人の出世欲や金銭欲を満たすことで、組織全体のモチベーションも高めることができました。ところが今は、多様化した個々のモチベーションに応じたマネジメントを行ないながら、組織全体のベクトルも合わせていかなければなりません。これが、昨今のモチベーション管理のもう一つの難しさです」

(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

気乗りしないときは「地球儀」を眺める!?

では、個人と組織の双方におけるモチベーション管理の方法はそれぞれどうすべきか。まず「個人」についてだが、モチベーションが最も高い状態とは自分が「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の三つが重なり合うときだという。

「この三つの重なりを追い求めることが、個人のモチベーションアップにつながります。ただ、今は『やりたいこと』が十人十色で、『やるべきこと』と一致しないことも多い。やるべき仕事と頭で理解していても、気乗りしない仕事もあるわけです。

モチベーション管理のうまい人は、仕事に取り組むことの意味を理解しています。『これをやり遂げれば自分の成長につながる』と意味づけできる人は、その仕事にエネルギーを注ぐことができるのです。その点、上司側も部下の意味づけを手助けして、本人のやる気を引き出すマネジメントが求められています」

ただ、どんなにやる気がある人でも、モチベーションが下がるときはある。

「モチベーションが下がったとき、気持ちを立て直す方法を自分なりに持っておくとよいでしょう。たとえば、友人と飲みに行くと元気になるとか、夜空を眺めると気分が晴れるとか、モチベーションを引き上げる方法は人それぞれで構いません」

小笹氏の場合、気分が沈み込んだ時は、よく「地球儀を眺める」と話す。

「地球儀全体を見渡すと視野が広がり、自分の悩みが小さなことのように思えて、気持ちが晴れていきます。これは自分の頭の『空間』を切り替える作業です。そのほかにも、目先のことで行き詰まったら、5年後、10年後の未来を具体的に考えてみたり、あるいは先のことを不安に感じるときは、今日1日でうれしかったことや改善できたことを書き出し、今という時間にフォーカスしたりしています。これは『時間』の物差しを切り替える作業です。悩み事にとらわれてやる気の出ない状況から脱却するには、このように頭の中の『空間』や『時間』を切り替えると効果的です」

会社を仮想的にするリーダーは続かない

では、組織として個々のモチベーションを束ね、目標達成に導いていくにはどうすればよいのだろうか。組織全体のモチベーションを高めるには、ビジョンや理念、戦略、方針などの共有がカギとなる。

「これまで数多くの組織変革をサポートしてきた経験から言えば、リーダーのビジョンや理念に一貫性があり、それがチーム全体に共有され浸透していると、メンバーのモチベーションも一様に高い傾向にあります。反対に、リーダーが自分の経験とスキルによって組織を束ねようとしている組織では、メンバーのモチベーションも低いという結果が出ています。『自分たちはなんのために働くのか』ということが、組織で働くあらゆる人を束ねる軸となるからです」

ビジョンや理念の発信・共有は、組織のトップの仕事だと思われがちだが、実はそうではないと小笹氏。

「部署やチームのリーダーも、会社のビジョンや理念から落とし込んだそれぞれの部署やチームの戦略を、自分たちの言葉で語る必要があります。

ここで気をつけるべきことが一つあります。中間管理職にありがちな例として、会社を仮想敵にして一致団結を図ろうとすることがあります。それは短期的に見れば人がついてくることもあるのかもしれませんが、実際は長続きしません。リーダーが語るミッションや戦略の上には、会社の方針があります。その二つのベクトルが一致していなければなりませんから」

「あるべき姿」と「禁止事項」の合わせ技

チーム内でビジョンや理念を共有するには、リーダーがメンバーに繰り返し伝えていく必要がある。ただ、しっかり伝えたつもりでも、浸透していないことは起こり得る。

「浸透させるには、二つの方法があります。一つは、自分たちのミッションに照らし合わせて、自分たちの『あるべき姿』を言語化し、共有すること。もう一つは、『これはやめておこう』という禁止事項を設定することです。

たとえば『お客様満足度ナンバーワンを目指す』というミッションがあるとします。このとき、そのためにすべきことを共有するだけではなく、『電話は30秒以上お待たせしない』『ご要望に応えられない場合でも、すぐにNOと言わない』など、達成のために『してはならない』ことも共有しておくのです。

若い人の場合、自分の仕事と使命の間に距離を感じることも多いので、『こうありたい』よりも『~してはいけない』のほうが腑に落ちやすいものです。ポジティブな『ありたい姿』と、ネガティブな『禁止事項』の両方を設定すれば、組織のベクトルは合わせやすくなります」

最近はプレイングマネジャーが増え、部下とのコミュニケーション不足も問題になっている。

「リーマンショックの後、多くの企業がプレイングマネジャーを増やしました。その結果、現場の戦力としては優秀だけれども、チームのマネジメントや部下育成にまで手が回らないリーダーが増えています。しかし、そんな難しい時代だからこそ、部下としっかりとコミュニケーションを取り、多様化する個々のモチベーションに向き合ってメンバーをうまく束ねられる人が、重用されるのは間違いありません」

小笹芳央(おざさ・よしひさ)リンクアンドモチベーション会長
1961年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートに入社し、人事部で採用活動などに携わる。組織人事コンサルティング室長、ワークス研究所主幹研究員などを経て独立。2000年に株式会社リンクアンドモチベーションを設立し社長に就任。’13年から現職。モチベーションエンジニアリングという同社の基幹技術を確立し、幅広い業界からその実効性が支持されている。
著書に、『1日3分で人生が変わるセルフ・モチベーション』『変化を生み出すモチベーション・マネジメント』(以上、PHPビジネス新書)、『会社の品格』(幻冬舎新書)、『お金の話にきれいごとはいらない』(三笠書房)など多数。(『 The 21 online 』2017年10月号より)

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