消費者の要求が目まぐるしく変化する近年、生き残り策として事業の多角化に乗りだす国際企業が増えている。そうした多角化の一環として、安定した成長を示すエンターテイメント市場に参入する企業も少なくない。

デジタル社会の需要に見合ったストリーミング・サービスを通してAmazonやウォルト・ディズニーが拡大中の国際エンターテイメントおよびメディア市場は、昨年1.9兆ドルを記録(PwC調査)。2020年にかけてますます拡大すると予想されている。

ヴァージングループが参入した豪華客船への投資総額は世界各国・地域で年々増加傾向にあり、昨年末に68億ドルを突破した。

ストリーミングサービス買収でエンターテイメント産業に参入したAmazon

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(写真=Thinkstock/Getty Images)

Amazonのエンターテイメント産業への進出ぶりには、ライバルを寄せつけない目覚ましい勢いを感じる。

1994年、オンライン小売業として事業を開始したAmazonは、動画や音楽のダウンロード、ストリーミングサービスからモバイルデバイス、ネットスーパーまで、多様多種な事業展開で時価総額4270億ドル(フォーブス2017年5月データ )を誇る世界屈指の国際企業へと成長した。

Amazon の事業多角化戦略の柱のひとつとなっているのは、オン・デマンド サービス「Amazonビデオ」や「Amazon Music」を含むエンターテイメント事業だ。具体的な数字は公表されていないものの、The Motley Fool はこれらの サービスがパッケージ化されたAmazonプライムの昨年の収益を25億ドル前後と見積もっている。

Netflixの80億ドルという収益の足元にもおよばないが、Netflix とのキャリアの差は無視できない。Netflixが過去20年にわたりエンターテイメントを専門としてきたのに対し、Amazonはまったく畑違いの分野から参入している。

同社がエンターテイメント事業に本腰を入れ始めたのは2011年、英国のDVDレンタルおよびオンデマンド・ストリーミングサービス、Lovefilmを買収した辺りだと記憶している。2002年に設立されたLovefilmは取扱い作品8万以上という豊富なラインアップで、当時140万人以上から利用されていた。

しかし消費者の需要が日数や手間を要する郵送サービスからリアルタイムなストリーミングサービスに移行するにつれ、次第に売上が減少。今年10月末でDVDおよびブルーレイの郵送サービスを廃止する意向をAmazonが明らかにした(BBCより)。

Lovefilmのストリーミングサービスは、2014年にAmazonのビデオサービスに統合されている。要するにAmazonは時代の需要に見合ったサービスだけを吸収し、不要な部分を切り捨てたということになるが、厳しい競争を勝ち抜くうえで懸命な選択だったといえる。

Amazon Music がApple Musicを追い抜く?

同社は音楽ストリーミング・プラットフォームの提供でも、エンターテイメント産業に注力している。2016年は世界最大の音楽ストリーミングおよびダウンロードサービス、SpotifyやApple Musicに次ぐ巨大ストリーミング配信プラットフォームとなった。

MIDIA の2017年6月データ によると、世界の音楽ストリーミング利用者は1.3億人。そのうち40%をSpotifyが独占し、19%をApple Music、12%をAmazon Musicが占めている。
「Amazonプライム利用者の35%がApple Musicも利用している」と考えると、けっして驚くべき数字ではない。

AmazonがApple Musicを、そしていずれはSpotifyを追い越す日はそう遠くないかも知れない。新たな顧客層の獲得・維持する上で、ライバルが音楽のストリーミングサービスにのみ依存しているのに対し、Amazonは便利な即日配送や割引制度を含むプライムサービスの利用者に、ストリーミングを利用するよう促進するだけでよい。同じ定期利用料金を支払うのであれば、どちらを得だと感じるだろう。

Apple Mediaで同産業に進出したApple

Apple Media を含むAppleサービシズ事業 の2017年第1、2四半期連続で売上高は70億ドルを記録。Amazon(36億ドル)やNetflix (26億ドル)をはるかに上回った。前年同期と比べると10.5億ドル(18%増)と、全体的な成長(23億ドル増)の半分を占めている。

同社のアイコン的商品、iPhoneの成長が3.9億ドル増であったことを考慮すると、その急速な成長ぶりに驚かされる。Macは7.4億ドル増、iPadに至っては5.1億ドル減だ。

Apple サービシズ事業の最大の強みはその安定性にあるかも知れない。iPhoneやiPadなどハードウェアの売上がイベントや新モデルの発売に大きく左右されるのに対し、サービスの需要は一定の速度で成長している。

Appleサービシズの成功は、ハード製品との融合が起因する部分が大きいだろう。Apple製品の利用者は、同社が提供するサービスやほかのハードウェアを利用する確率が非常に高い。そうした意味では、需要と供給のループが絶妙なバランスで保たれている。
好調さを受け、Appleは2020年までにサービス関連の売上2倍増を目標としている。

リゾート事業、デジタルチャンネルを強化するディズニー

元祖エンターテイメント企業も同産業内での活性化に積極的だ。ウォルト・ディズニーはワールド・リゾートの4大テーマパークの1つ、エプコットの35周年を記念し、宇宙飛行士訓練を疑似体験できるアトラクションを新設するなど、パーク・アンド・リゾート事業 に力を入れている。

またテレビジョン ・アンド・メディアプラス事業 では、市場における需要の急速な変化に対応するため、今年8月、15.8億ドルを投じてBAMTechの保有株を75%に増やした。昨年の時点で親会社であるMLBからBAMTech 33%株を取得していたため、すでに方向転換を視野に入れていたものと思われる。

同部門の主要収益源であるスポーツチャンネルESPNでは、2018年にストリーミング・サービス、2019年に家族向けストリーミング・サービスの配信も予定している。

同社はこうした再編に向け、2019年に完了するNetflixとの契約を更新しない意向を発表した。

ストリーミング・サービスが従来の有料テレビや衛星放送の脅威になっている近年、ESPNの視聴率・収益ともに落ちこんでいる。

メディア・エンターテインメント市場の需要が、ブランドバリューだけではなく、「高品質・低価格・便利・独創性」へと移行しつつあることは明らかだ。

大胆な改革が生き残りに必須と判断したロバート・アイガー会長は、「BAMTechの主要株取得が必須である」と主張した。

ヴァージングループは豪華客船事業に参入

音楽、映画配信サービス、ヴァージンメディアのほか、ヴァージン航空、ヴァージンモバイル、ヴァージン・レコードなどを有するヴァージングループが昨年10月に立ち上げた最新のエンターテイメント事業は、豪華客船会社「ヴァージン・ヴォヤージュ 」 だ。

現在は造船段階で、2020年にマイアミでの初就航 を計画している。重さ11万トンの豪華客船を手掛けるのは、イタリアの港町トリエステに本社を置く、総合造船グループ企業フィンカンティエリ。2020〜2023年にかけ、毎年1隻、合計3隻の完成を予定している。いずれも乗客2860人、乗組員1150人を収容できる大型客船だ。

ほとんどの客室に専用バルコニーが設置されるなどプレミア感を醸しだしつつも、ライバルブランドとはまったく異なるヴァージン独自の「若々しいデザイン」を目標にしているという。

豪華客船産業は近年急成長中の産業の一つだ。10年前には1780万人だった年間利用者は、今年は2600万人に増えると予想されている(cruising.org調査 )。世界各地で400もの多様多種な事業を運営する野心家、ヴァージングループの設立者リチャード・ブランソン氏が関心をいだいたのも不思議ではない。

そのブラウン氏が新事業の社長として選んだのはトム・マカルピン社長。ウォルト・ディズニー・カンパニーのクルーズ事業、ディズニー・クルーズ・ラインを手掛けた人物だ。「長年にわたりクルーズ産業への進出計画を温めてきた」と、新たな展望への意気込みを見せている。

既存のヴァージンサービス同様、独創性あふれる船の旅に期待

具体的な構想などついてはあまり明かされていないが、既存の自社商品・サービスと同じぐらい、独創性あふれるサービスとなることは間違いなさそうだ。ブラウン氏は新事業設立に辺り、「豪華客船産業をゆさぶり、利用者が心から楽しめる海の旅を提供する」と自信たっぷりだ。

二酸化炭素を大幅に削減できるシステムの導入を目指し、クリーンエネルギー技術企業クライメオンとも提携を結ぶなど、環境への配慮も忘れていない。

現在はウェブサイト(https://www.virginvoyages.com/)から乗船予約を受け付け中。全額払い戻し可能な手付金500ドルを納めるだけで、ヴァージン初の記念すべき豪華客船の旅を満喫することができる。

注意すべきは、ヴァージン・ヴォヤージュ初の船旅が「未成年禁止」である点だ。顧客や旅行代理店などのフィードバックから検討した結果、「18歳以上」を乗客資格に設けたそうだ(USA Today より)。

多角化の失敗例?「ハリウッドの夢」を売却したワンダグループ

昨年エンターテイメント産業への進出失敗例は、中国の巨大コングロマリット、ワンダグループ(大連万達集団)による「ハリウッド買い占め」だろう。

過去数年にわたり、米国の映画館チェーンや映画制作会社レジェンダリー・エンターテインメントなどを次々と買収してきたほか、中国の青島市に大規模な撮影スタジオの建設計画を立てていた。

しかし10億ドルを投じて買収を試みたTVプロダクション会社ディック・クラーク・プロダクションズとの交渉は暗礁に乗り上げ、「ハリウッドを呼び寄せる」との野望を燃やした撮影スタジオも売却されることが明らかになった。

さらに同グループは今年7月、76のホテルと13のテーマパークなど娯楽事業を、総額93億ドルでSunac China(融創中国控股)に売却すると発表した(ロイターより )。

エンターテイメント市場を制する勢いを冷却したのは、資金不足と海外への資金流出を懸念する中国政府からの圧力だと報じられている。一説では、政府はワンダグループの動きを封じるために、国内の銀行に国外娯楽企業買収目的の資金貸し出しを禁じたという。

また同国メディアの報道によると、同社は「政府の方針に従い、国内投資に専念する」意向を示したそうだ。

実際にはもっと複雑な事情が入り組んでいるものかと推測されるが、「東のハリウッド」の夢がはかなく散ったことは間違いない。 「常に消費者の関心を惹きつける価値の創出に積極的」という点では群を抜いていたものの、残念な結果となった。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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