第3四半期(2017年7~9月)の売上高が14%増だったルイ・ヴィトンやブルガリなどを傘下に抱えるLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン。第3四半期(2017年7~9月)の売上高が14%増だった同社を筆頭に、今年は高級ブランド市場が絶好調だ。

高級ブランド市場にもデジタル改革の波が押し寄せており、デジタルショッピング・プラットフォームやスマートウォッチの開発・販売など、LVMHが率先するかたちで様々な改革に取り組んでいる。

こうした市場の変化に敏感に対応する姿勢が、各高級ブランドの明暗を分けることとなりそうだ。

2020年までには39兆円市場に成長?

長らく低迷気味だった高級品市場だが、2017年は回復基調にあるとの見方が強い。中国の消費者間で高級品の購買意欲に再燃傾向が見られるのに加え、欧州でも同様の流れが感じとれる。

ベイン・アンド・カンパニーは今年5月に発表したレポートの中で、2017年の個人向け高級品市場が2~4%の実質成長率を示し、2540億~2590億ユーロ(約33.7兆~34.4兆円)に達すると推測。2020年までには市場規模が、2900億ユーロ(約38.5兆円)に成長する可能性を秘めているという。
「戦略次第で勝者と敗者の格差がさらに広がる」と予想されるため、各社にとって戦略の見直しがいかに重要かを指摘している。また主要顧客層がミレニアル世代に移行しつつあることから、若い層にアピールするサービス・商品の提供が成功のカギをにぎるとの見解だ。

次世代高級市場をリードするLVMH、昨年から引き続き業績好調

勝者の道を着実に走っている高級品企業の代表は、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・グループだろう。

ルイヴィトン、フェンディ、ブルガリ、ロロ・ピアーナ、エミリオ・プッチなど、多数の高級ブランドを傘下にかかえ、高級ブランド市場の最高峰に位置する国際コングロマリットだ。

ファッション情報サイト「Fashion United」 のデータによると、第3四半期の売上高は前年同期比14%増の103.8億ユーロ(約13.7兆円)。3四半期累計(9カ月通算)の総売上高は前年の同時期から14%増え、301億ユーロ(約4.2兆円)。オーガニックグロース(自立的成長)は前年同期比12%増を記録した。

売上高が特に成長したファッションおよびレザー商品のオーガニックグロースは14%、売上高は108.3億ユーロ(約1.4兆円)。

2016年を通して記録的な業績を残したLVMHグループだが、今年も好調さは続いている。こうした堅実な戦略が市場で高く評価され、株価が高騰。2016年1月には130ユーロ台(約1.7万円)だったが、2017年3月に200ユーロ台(約2.6万円)に乗り、11月250ユーロ台(約3.3万円)まで値上がりしている(ロイターデータ )。

クリスチャン・ディオールやフェンディなど、傘下ブランドも成長中

ファッションおよびレザー部門の売上増加は、高級市場全体で見られる現象だ。

今年4月にLVMHグループに130億ドルで買収されたクリスチャン・ディオール・クチュールの同部門も、3四半期累計のオーガニックグロースが14%。売上高は118億ユーロ(約1.5兆円 )。グループ全体の3四半期累計売上高は311億ユーロ(約4.1兆円)に達した(決算報告書より)。

同じくLVMH傘下のフェンディは米国で新店舗をオープンさせるなど事業を着実に拡大しているほか、ロロ・ピアーナ、セリーヌ、ロエベも順調な成長を続けている。

香水・化粧品部門(3四半期累計オーガニックグロース14%増)、時計・宝石部門(13%増)なども好調だ。

買収・売却にも積極的 ブランド入れ替えに挑戦

同グループはクリスチャン・ディオール・クチュール買収のほか、昨年10月にドイツの老舗高級旅行かばんメーカー、リモワ の80%の株を6.4億ユーロ(約8513億円)で取得した 。

リモワはベルリン、ハンブルク、ミュンヘンに次ぐ大都市ケルンで1898年に設立されて以来、伝統技術とテクノロジーを融合させた独自のスタイルで、欧州屈指のレザー製品メーカーの座を築き上げた。LVMHにとっては初のドイツブランドである。

リモワ買収直前、同グループは2001年に6億4300万ドルで買収したダナ・キャランを売却している。「DKNY」をセカンドラインにもつ人気ブランドだったが、業績不振が長引き、2015年には創設者が退任してしまった(ロイターより )。

売却先はニューヨークを拠点とするG-IIIアパレル・グループで、アンドリュー・マークやヴィル・ブレクインなどを傘下に置いている。売却額6億5000万ドルの大型売却となった。

高級品市場のデジタル化をリード

LVMHグループはこうしたブランド入れ替えを実施する一方で、あらゆる事業の存続・拡大に必須の要素となったデジタル改革にも乗りだしている。

高級ブランド市場では火がつくまでに時間を要したデジタル化だが、LVMHは単にオンライン販売を開始するといった単純な戦略ではなく、時代の需要を見極めた効果的かつ効率的なサービス提供を目指している。

ルイヴィトン、クリスチャン・ディオール、クロエ、ヴァレンティノを含む150ブランドの商品がオンラインで買えるデジタル・プラットフォーム「24 S�+2vres」 の開始が一例だ。

「ボン・マルシェ百貨店(パリ7区のバック通りにある百貨店)とはまったく違うショッピング経験を提供する」というコンセプトの基、最新のパリのファッションが動画などでチェックできる。

世界75カ国以上から商品の購入ができるほか、Facebookメッセンジャーを通してチャットボットによるサービスも、顧客の利便性を配慮したものだ。

続々とスマートウォッチを発売する高級ブランド

高級ブランドがデジタル分野で挑戦しているのはサービスだけではない。デジタル商品の開発・販売にも挑戦している。例えばウェアラブル端末として、多数のITメーカーが発売しているスマートウォッチ。

スマートウォッチの売上は、オメガやロレックスといった高級時計ブラントを追い上げている。Apple Watchの売上が過去1年で50%以上増え「市場トップに躍りでた」ことも、Appleのティム・クックCEOによる昨年9月の発言から明らかになっている(wareable.com より)。

LVMHグループは今年7月、Android対応のスマートウォッチ「タンブール・ホライゾン」 をルイヴィトンから発売した。公式サイトの情報 によると、日本では「タンブール・ホライゾン・ モノグラム」や「タンブール ホライゾン グラフィット」など6種類が手に入る。価格帯は30万~36万円前後だ。

スタイリッシュで高級感あふれるデザインはもちろん、機能面のベースはAndroid Wear 2.0で、Bluetoothと接続すればiPhoneとの連動も可能になる。

ほかにもブルガリが決済機能付きのスマートウォッチ「ブルガリ・ディアゴノ・マグネシウム」 を発売。決済大手Master Card、スイスのセキュリティー・ソリューション企業WISeKeyとの提携で開発された。

ICチップ搭載のこの高級スマートウォッチは、リンクさせたスマートフォンにかざすだけでロックが解除され、支払いができる。また自宅・オフィス・車のロックなども近づくだけで解除できるという優れものだ。

ケリンググループを親会社とするグッチは 、2015年という比較的早い時期にスマートウォッチ市場への参入を試みた。米国のミュージシャン、will.i.amとのコラボレーション製品で若い顧客層を意識した戦略だった。

スマートフォン不要で同等の機能が使える(電話・メッセージ・メール・カレンダー機能など)という点を売りにしていた。発売前はApple「Siri」のような音声対応機能を備えているとの触れ込みだったが、実際にはそこまでの機能は備えていなかった。

ミレニアル世代の顧客獲得にデジタル化は必須

何故デジタル化が重要な戦略の要とされるのだろう。

主要消費者層がデジタル世代といわれるミレニアル世代に移行しつつある近年、サービスや商品のデジタル化に対する需要が急速に高まっている。高級品市場にかぎらず、時代はデジタルとともに進化し続けていくはずだ。

デジタル趣向への移行が、ベイン・アンド・カンパニーが指摘する「戦略の見直し」の一環となることは間違いない。商品やサービスを販売する上で、消費者の要求を無視することは不可能だ。

LVMHに代表される一部の高級ブランドの動きは、こうした時代の需要と今後の展望を見据えた懸命な戦略といえる。

デジタル大国、中国で高級ブランド熱が再燃

また高級ブランド市場が拡大している中国は、世界最大のデジタル大国でもある。同国における高級ブランドの需要は、倹約令などの影響で昨年は一旦下火となっていたものの、今年に入り再燃しているようだ。

世界最大のeコマース市場に成長を遂げた中国では、総売上が年内に2.2兆ドル、そのうちモバイル・ショッピングの利用者が75%に達すると予想されている(eMarketer より)。
同じくデジタル大国といわれる米国は4500億ドル、英国は1100億ドルと予想されていることから、その桁違いな市場規模が読みとれる。日本は950億ドルとの予想だ。

小売産業全体の23.1%に値する数字だが、2021年にはさらに40.8%にまで成長するといわれている。

こうした背景を考慮すると、高級ブランドが需要の再燃を継続する上で、デジタル戦略が必須となることはいうまでもない。

拡大する模造品ネットワーク 撲滅対策が課題に?

デジタル化が高級ブランドの脅威になっているとの説もある。

インターネットの普及で世界中のどこからでも簡単にブランド商品が買える時代、格安価格で買えるディスカウントストアの存在がますます大きくなりつつある。

多くの高級ブランドが正規ルート以外での販売を禁じているが、すべてを厳重に取り締まるのは困難だ。商品の品質にこだわらない消費者であれば、信用よりも価格を重視しても不思議ではない。

これらの企業にとっては、年々勢いを増す偽造品の流通も頭痛の種となっている。最近の偽造品は精度が非常に高く、専門家でも見極めが難しい場合があるという。

OECDの調査によると、偽造品市場の規模は年間4620億ドルにまで成長している。そのうち63.2%が中国で製造されており、ルイヴィトン、シャネル、ロレックス、ブルガリといった高級ブランド品から、NIKEやアディダスといったスポーツ用品、iPhoneなどの電化製品、医薬品、ウォルトディズニーのキャラクター商品まで、広範囲にわたる偽商品が消費者の手にわたっている。

高級ブランドが知的財産権や信用を維持する上で、こうした犯罪行為への強力な対応策も打ちだしていくことは、デジタル化と同じくらい重要な課題となるだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)