2017年にベンチャーキャピタル(VC)から多額の調達したスタートアップ10社が発表され、日本のソフトバンクも投資する個人ローンスタートアップ、SoFi (15.8億ドル)も入った。様々な分野のスタートアップがランクインしているが、いずれも「デジタル化された商品やサービスを中心に提供している」という点で共通する。

今年7月までのデータに基づいて「Onlinesearch.net 」 が掲載したもの。

VCから多額の資金を調達したスタートアップ10社

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(写真=SoFiサイトより)

・Laurel & Wolf 2500万ドル(インテリアデザイン)
・Discord 2900万ドル(コンピューターゲーム)
・Hollar 4900万ドル(eリテール)
・Houseparty 6950万ドル(チャットアプリ)
・Zipline 8500万ドル(医療宅配サービス)
・Minted 8900万ドル(デザイン・マーケットプレース)
・The Real Real 1.23億ドル(高級品委託販売)
・Opendoor 3.2億ドル(不動産)
・Affirm 5.3億ドル(決済)
・SoFi 15.8億ドル(個人ローン)

Laurel & Wolf オンラインでインテリアデザイナー探し

「インテリアの専門家に家やオフィスの内装を頼みたいが、気に入った見つけるのが大変そう」「部屋の模様替えをしたいけれど仕上がりのイメージがわかない」という声は意外に多い。もっと気軽にインテリアを楽しむ環境が欲しい。

Laurel & Wolfはこうした消費者の要望に応え、オンラインで仕上がりイメージのシュミレーションやデザイナー探しができるプラットフォームを開発した。

インテリアデザイン・サービスをデジタル化し、より身近な存在へと作り変えることで、顧客層を拡大するという発想だ。

ウォルト・ディズニー・カンパニーにデジタル戦略を取りいれたブランドン・ノアCEO が、2012年にロサンジェルスで設立した。共同設立者のルーラ・ファイン氏は、大手インテリアデザイン企業で経験を積んだインテリア・デザイナーだ。3度の資金調達ラウンドで総額2550万ドルを調達している。

Discord ゲーマー向けチャットアプリ

iPhone用ソーシャルゲーム・プラットフォームの「OpenFeint」のジェイソン・シトロンCEO が2012年に設立。「安全・無料でメッセージが交わせる」という点が売りに、SkypeやTeamspeakなどの音声チャットサービスのライバル的位置づけを全面に打ちだしている。

Housepartyと同じく、ゲーム仲間同士が気軽に交流できる手段として、利用者は2500万人を突破。 1日1億件ものメッセージに対応している。

昨年12月に始まった新サービス「GameBridge 」 では、ゲーム中でも音声通話やメッセージのやり取りが可能になった。ゲーム内にテキストチャンネルを設置し、ゲームのリプレイなどを公開することで、ほかの利用者とコミュニケーションが図れる。またゲーム開発者が自分のゲームチャンネルを管理できる開発ツールも提供している。

チャットボットを利用してコミュニティーの拡大もできるほか、開発会社が新商品のテスター・コミュニティーを構築し、体験者からフィードバックを求めるという目的にも使える。
6度の資金調達ラウンド で多国籍VCインデックス・ベンチャーズ などから調達した資金は、総額7930万ドルにのぼる。

Hollar  サンフランシスコ発ネット100円均一 ショップアプリ

「ほとんどの取扱い商品の価格が2ドル前後」というネットショップ・アプリ。コンセプト自体は「米国版100円均一」と共通するが、モバイル対応のオンライン販売に進化させたという点が高評価を受けている 。

昨年11月にSensor Toweが集計したデータ によると、iOS版は国内で19.2万人からダウンロード されている。Android版やウェブ版も提供しているので、総合するとかなり大規模な利用者層に成長しているはずだ。

取扱っている商品は日用雑貨からおもちゃ、電化製品、衣類、化粧品まで非常に幅広い。昨年11月のシリーズB資金調達ラウンドでは、VCのクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズなどから3000万ドルを獲得。これまでに総額4755万を調達している。

Houseparty  若者に人気のビデオチャットアプリ

サンフランシスコを拠点とするモバイル動画アプリサービス・スタートアップ。数あるチャットアプリの中でも「画面を最大8分割し、全員がリアルタイムで顔を見ながら会話できる」という点で群を抜いている。

設立者のベン・ロビン氏が「インターネット上のリビングルーム」 と例えるHousepartyでは、すべてのやり取りがリアルタイムで行われるのはもちろん、最大8人との同時動画チャットが楽しめる。まるで自分(あるいは友人、家族)のリビングルームで談笑しているような経験が、好きな場所で好きな時に得られるというわけだ(Medium.com より)。

こうした発想が「もっと気軽に友人と集まりたい」という若者の願望と一致し、2011年の設立以来瞬く間に1日100万人が利用する 人気アプリ に成長を遂げた。SNSアプリランキング では18位(10月26日データ)。 利用者の6割以上が24歳以下というのも納得だ。

2006年のシリーズAから昨年のシリーズCまで、9件の資金調達ラウンドでは米大手VC企業セコイア・キャピタルなどから資金を調達している。

Zipline 世界初のドローン医療

「血液をドローンで空送する」斬新な発想で世間を驚かせた、世界初のドローン医療スタートアップ。「医療ケアへのアクセスを改善し、人々の命を救う」というコンセプトの基、2011年にサンフランシスコで設立された。

2016年10月にルワンダで商用ドローンサービスを開始したのを機に、病院への血液空送で助命活動に大きく貢献している。来年新たにタンザニアで配送センターを開設する計画だ。Ziplineが実現した「未来の医療」は世界中の医療機関から注目を集めている。

Ziplineはハーバード大学で社会学や経済学を学んだケリー・リナウドCEO、ウィリアム・ヘトズラー氏などが共同で立ち上げた。医療ケアや交通・輸送・自動化といった分野への興味と、ロジスティック・ネットワーク(企業戦略の一部として市場に適化するよう物流管理ネットワーク)が未発達の新興国を融合させることで、新しい形の人命救助手段を生みだした。
東京にもチームが在籍するサンフランシスコの国際テクノロジー投資企業ヴィジョネア・ベンチャーズを筆頭に、9件の資金調達ラウンドに成功している。

世界中のアーティストが収入を得れるチャンスを提供 Minted

世界中のグラフィックデザイナーが、自分のデザインを公開しながら収入を得られるコミュニティーだ。利用者に選ばれたデザインを用いたポストカードや文房具を作成・販売している(Tech Crunchより )。「インディペンデント・アーティスト」による既成品とは一味違ったデザインが売りだ。

現在は新たに「オリジナル・アート・プログラム」を実施中。利用者はサイトから気に入ったデザインを見つけ 、Minted経由で作成者(アーティスト)に交渉を行う。合意に至れば製品化・販売される。

アーティストには価格決定や利用者との交渉を行う権利が与えられるほか、販売価格の80%が支払われる。残り20%はMinted に手数料として納められる。最低手数料を75ドルに設定するなど、価格競争対策も配慮している。

2007年の設立以来5回にわたる資金調達で、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・グループのVC子会社ノースウェスト・ベンチャー・パートナーズなどから 、総額8910万ドルを獲得している。

女性起業家メリッサ・キム氏とマリアム・ナフィシー氏が、カリフォルニアで立ちあげた。

The Real Real  高級ブランド委託販売サイト

2011年、サンフランシスコで女性起業家ジュリア・ワインライト氏 が設立した。シャネルやルイヴィトンを含む高級ブランドの委託販売サイトだ。前所有者の身元が確認できる保証書付きの商品だけを厳選し、「セレブもほしがる」という触れこみで一気に人気に火がついた。

これまでに7件の資金調達ラウンドで総額1.7億ドル を獲得 (Crunchbaseデータ)。ワインライト氏は上場の野望なども明らかにしている。2013年には日本へも進出を果たしたが、わずか3年で撤退した。理由は公表されていない。

Opendoor  不動産取引プラットフォーム

「オンラインで効率的に家を売る」という忙しい現代人の需要に見合ったサービスで、シリーズDで3回の資金調達に成功。昨年はノースウェスト・ベンチャー・パートナーズから2.1億ドルを調達した。

予想分析ツールで売却希望物件の価格を予想。売り手が提案された価格に納得するとOpendoorとの取引が成立する。Opendoorは買い取った物件にリフォームするなど手を加えた後、再売却して利益をだすという仕組みだ。テクノロジーを賢く活用することで不動産取引プロセスを劇的に短縮した。

また従来の手法で物件を売却した場合、7~10%という手数料が相場だが、Opendoorを通すと平均6~7% にコストを抑えることができる。

Affirm  クレジットカードなしで分割払いOK

PayPalの共同設立者マックス・レブチン氏によって、2012年に設立された。対応サイトでの決済時に利用者の個人情報に基づいて与信枠を設定。クレジットカードを所有していない若い顧客層をターゲットに、分割払いサービスを提供している。

金利は審査結果に応じて10~30%で、返済期間は3・6・12カ月の中から返済計画に合わせて選択できる。延滞金や手数料がいっさいかからないという点も消費者にとっては心強い。

実際の融資はクロス・リバー銀行が提供しており、Affirmはあくまで仲介業者の位置づけになる。

昨年10月に1億ドルを投じたモルガン・スタンレーなど、大手企業から4件の資金調達に成功している。

SoFi 融資産業の常識を変えた公平な審査法

SoFi はスタンフォード大学経営大学院の同級生4人が2011年、サンフランシスコで共同設立したスタートアップで、学生ローン借り換えサービスで脚光を浴びた。

米国の学生ローン問題は年々深刻化し、若い層の生活を圧迫している。USA Todayが昨年末に報じたところでは、米国成人4420万人が総額1.4兆ドルの返済に頭を悩ませているという。教育大国で社会現象となったローン地獄と滞納対策として、SoFiのようなサービスの需要が伸びるのも不思議ではない。

クレジットスコア(欧米でローン審査の基準となる個人の信用評価点)に重点を置いた従来の審査法ではなく、予想されるキャッシュフローやキャリア、学歴なども考慮するというまったく新しい手法で、融資産業の常識を根本からくつがえした。

現在は住宅ローン(借り換えも含む)や個人ローンにも事業を拡大。CrunchBase が現時点(2017年11月)までのラウンドをまとめたデータによると、資金調達件数は12件、総額21.5億ドルに達している。ソフトバンクが昨年9月に投じた10億ドルが最高額だ。

テクノロジーの発展とともに、スタートアップ分野はますます広がりを見せると予測される。どんな新鮮な発想をもったスタートアップが次に現れるか、非常に楽しみだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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