行動経済学&実験心理学からわかるモチベーションUP法
コーチングのプロである池田貴将氏の編著書『図解モチベーション大百科』が話題になっている。この本は、行動経済学、実験心理学を扱った国内外の文献から、人の心理。行動に関する実験とその結果を抜粋し、池田氏が解説を加えた構成だ。ここではその中から、「なんとなく気分が乗らないとき」「部下のやる気を引き出したいとき」など、モチベーションアップを図りたい7つの場面について、実験とそれに基づくモチベーションアップ法を紹介しよう。〈取材・構成=西澤まどか〉
1 自問式セルフトーク~「なんとなく気が乗らない」ときに
やる気が出ない、気が乗らないときにまず、お勧めしたいモチベーションアップ法は、「自問式セルフトーク」です。ある実験で、簡単なゲームをする前に2つの行為をしてもらいました。Aチームには、「私はやる」と自分に言い聞かせる。Bチームには「自分はやるつもりがあるの?」と問いかけてみてもらいました。すると、Bチームの方が、Aチームに比べて50%も多く問題を解いたそうです。
人は、命令されるのが嫌いです。気分が乗らないときに「私はやる」と気合いを入れると、自分の中から否定する声が出てきてしまうのです。一方で、「やるつもりはあるの?」と聞くことで、何が「行動をさまたげる」ネックとなっているか見えてきます。
たとえば、会社に行きたくないとき。「着替えるつもりはあるの?」「朝食を食べるつもりはあるの?」と、一つひとつ自分のなかで問いかけると、どこに気乗りしないポイントがあるかが見えてきます。行動につながるヒントになるはずです。
「やるつもりはある?」と自分に問いかけよう
2 キャンディ効果~部下やチームのやる気を引き出したいときに
チームの生産性を上げるには、みんなを良い気分にさせることです。ある3人の医師にこんな実験をしてもらいました。患者の診断をする前に、医師Aには事前に何も与えず、医師Bには医療関係の記事を読んでもらい、医師Cにはキャンディをあげました。すると、医師Cは他の2人よりも速く正確に診断したそうです。ほんのちょっとしたことでも、ごほうびは仕事に好ましい影響を与えるということなのです。
「ごほうび」はもちろん、「褒める」「朗報を伝える」「変化に気づき指摘する」などで、相手に良い気分になってもらいましょう。
ごほうびでやる気を高めよう
3 グロウスマインド~新しいことに挑戦したいときに
2つのチームに経営上の課題を与えました。Aチームは「マネジメント能力は、その人に帰属する」と考えている人たち、Bチームは「マネジメント能力はいつでも伸ばすことができる」と考えている人たちです。 その結果、Aチームは足の引っ張り合いばかり。Bチームは、反論されてもストレスを感じずに率直に意見を言い合うことができました。
自分が「成長できる」と考える人は、「周囲も成長できる」と信じ、経験・年齢を問わず幅広い意見を集め、成果が出しやすくなるのです。「自分は成長できる」「今からでも遅くない」と信じることで、意欲を高め、成果につなげましょう。
「自分はできる」と信じよう
4 アクション数の増減戦略~面倒なことを習慣化したいときに
次のような実験があります。Aチームにはむき出しでクッキーが入っている箱を、Bチームには同じ数の個別包装されたクッキーをひと箱与えました。するとAチームのほうが約4倍も速くクッキーを完食したのです。つまり必要な「アクション数」(実験では個包装の包みを開ける手間)が少ないほど、行動は速くなるということです。
これを応用し、やりたいこと、習慣化したいことに関してはアクション数を減らし、やめたいことはアクション数を多くするように工夫すれば、「やりたいこと」に着手することができるでしょう。たとえば、私は朝にジョギングをするために、ジョギングウェアのままで眠ります。朝起きてウェアに着替える手間がないので、出かける気になります。他にも、すぐに取りかからねばならない仕事に関しては書類を手前に置くなど、プロセスを減らす工夫をするだけで、うまくやる気につなげられます。
「どこに置けば取り出しやすいか」を考えることは、未来の自分を思いやることにつながります。「取り出しやすさ」=アクション数を考えて整理整頓してみましょう。
続けたいことは手順を減らそう
5 主観的理由と客観的理由~自分に自信を持ちたいときに
成長に頭打ちを感じ、意欲が減退しているのなら、評価の仕方を変えてみてはどうでしょうか。
こんな実験があります。ある中学生にテストを解いてもらいました。Aチームには事前に「他の学生と比較して評価する」と、Bチームには、「あなたの成績の上がり具合を基準にして評価する」と伝えました。結果、Bチームの成績が大きく伸び、しかも「テストが楽しかった」という声も多く出ました。つまり他人との比較より「自分の成長度合いによって評価」されたほうが人は努力しやすいのです。
「チームで好成績を取る」「お客様に喜んでいただく」「上司に評価されるため」など「客観的理由(人からどう思われたいか)」を目標にしても、それらは必ずしも自分でコントロールできません。だから「評価を落とさない」レベルで満足してしまいがちです。一方で「もっと良いものを作りたい」など「主観的理由(自分がどうしたいか)」を仕事の目的にすると、モチベーションを比較的一定に保つことができます。
他人との競争が悪いわけではありません。ただし長期的視点で見ると、他人と比較することはストレスになり得ます。成長したいという意欲を伸ばすには、過去の自分と比べて伸びを実感させることです。
「前と比べてどうか?」を評価基準にしよう
6 目標達成理論~今より高い目標を達成したいときに
ある木材運送業者の積載状況を調べたところ、平均で最大積載量の60%しか積んでいないことがわかりました。その後、「積載量は上限の94%に」と具体的な数値を示したところ、9カ月後には積載量は90%にまで上昇したそうです。
目標は「具体的」な数値で示すことが重要です。人は求められる以上のことはなかなかしませんが、具体的で受け入れやすい目標を提示されるとやる気を出します。「頑張れよ」という抽象的な言葉よりも、「あと10件分お願い」などと言うほうが行動につながるのです。
ここで大事なのは、「手が届きそう」「実現可能性がある」ことです。実現のイメージが湧かない高すぎる目標もまた、人を無気力にしてしまうのです。モチベーションを上げるには、「難しそうだけどできること」を掲げることです。具体的な数値を出せば、「手が届きそう」かが判断できるのです。
目標は具体的な数字で表わそう
7 ピリオダイゼーション~早めに取りかかるために
ある実験で、「アンケートに答えてくれたら5ドルあげます」と発表しました。Aチームには「締め切りは5日後です」と伝え、Bチームには提出期限を設定しませんでした。すると、Aチームの提出率は66%、Bチームはわずか25%でした。5ドルという報酬があるにもかかわらず、Bチームは提出しない人のほうが多かったのです。
この実験からわかるのは、人は期限を設けないとやる気が出せないということ。つまり、相手に動いてもらうには、区切りをつくることが重要です。「なるはやで」と言うよりも「○日の○時まで」などと具体的な期日を設けたほうが、相手のためにもなるのです。また期限を決めることは、いつ集中して取り組むか、予定や優先順位を決めるのに役立ちます。
この考えをより活用し、小さなタスクにも期限を設定してみましょう。たとえば、プレゼンの準備なら、資料集め、パワーポイントの作成、データや数字の確認、話す練習など、さまざまなタスクに細分化できるはず。それぞれに区切りをつけると、スムーズに準備が進むでしょう。
細かい仕事にも締め切りを設定しよう
池田貴将(いけだ・たかまさ)〔株〕オープンプラットフォーム代表取締役
1983年、群馬県生まれ。早稲田大学卒。在学中に渡米し、世界No.1コーチと呼ばれるアンソニー・ロビンズ本人から直接指導を受け、そのノウハウを日本のビジネスシーンで活用しやすいものにアレンジ。感情と行動を生み出す心理学と、人間力を高める東洋哲学を統合した独自のメソッドが注目を浴び、そのセミナーはコンサルタントやビジネス作家などのプロも受講する。リーダーシップ・行動心理学の研究者。著書に、『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』『図解 モチベーション大百科』(以上、サンクチュアリ出版)などがある。(『
The 21 online
』2017年10月号より)
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