ネット証券大手のマネックス証券は、2017年10月27日、日経平均株価が3万円に到達するとの予想を発表した。その発表から2週間後の11月9日、六本木のアークヒルズクラブにて代表取締役社長の松本大氏、チーフ・ストラテジストの広木隆氏、チーフ・アナリストの大槻奈那氏の3名より、3万円到達の見解(ビュー)が発表された。(取材=ZUU online編集部 菅野陽平)

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(写真=ZUU online編集部)

松本氏 :以下の3つの理由から、日経平均株価は2018年度中(2019年3月末まで)に3万円に達するだろう。理由は以下3つ。

  1. マクロ環境の好転
  2. 「株高=国益」のコンセンサス形成
  3. 採用銘柄の新陳代謝の促進

まずはマクロ環境の好転。今回の衆院選で与党が大勝し、日銀総裁人事でリフレ派に反対する勢力は小さくなった。言い換えれば現状の日銀の緩和体制が続く可能性が高くなった。金融緩和が続くことは、株価上昇にとって最重要だ。

次に「株高=国益」のコンセンサスが段々と浸透してきたこと。GPIFのポートフォリオは、2014年の配分比率変更を経て、日本国債比率が小さくなり、日本株比率が高くなっている。これから更に高くなる可能性があることも重要なポイントだ。株の持ち合いが解消し、GPIFのようなプレイヤーが日本株の保有比率を増やしていくと、株主ガバナンスが効いてくる。また、特に日本では、株価上昇的な施策は金持ち優遇だと批判・敬遠されがちだったが、株高は国民の年金負担(老後負担)を低下させることもあり、今後は国民的なコンセンサスとなっていきやすいだろう。個人的には、日米の株式市場の最も大きな違いは、株価上昇に対する世間の目だと思っている。日本の株式市場も段々アメリカ化していると感じている。

最後に、日経平均採用銘柄の新陳代謝が活性化されてきたこと。1987年のブラックマンデー後から約30年で、日本株の時価総額は約2倍になったが、日経平均はほぼ変わっていない。一方、アメリカ株は、時価総額もダウ平均株価も約12倍になっている。アメリカの場合は、業績の悪い企業は採用銘柄から除外され、常に勢いのある企業を取り込んできた。常に採用銘柄を見直しているので、時価総額と株価がほぼパラレルになっている。その一方、日経平均は入れ替えが少なくて経済の成長を正しく表していない。しかし、最近では日本でも、インデックスからの強制退場という形で新陳代謝が速くなってきた。

おまけを付けると、チャート的にも日経平均はここから上は真空地帯で軽い。以上から、日経平均は1年半程で3万円に達すると考えている。

松本氏
(松本氏 写真=ZUU online編集部)

大槻氏 :日本は低金利がしばらく続く可能性が高い一方、米国やユーロ圏は金融政策の正常化が進んでおり金利差が拡大しつつある。企業の経常利益に対する支払金利の比率は年々低下しており、日本にとっては極めてポジティブな金利環境だ。

日欧米の消費者信頼感指数は3 者揃って右肩上がり。当社の個人投資家サーベイを見ても投資意欲の高まり、インフレ期待醸成ともに急上昇している。消費者のセンチメントが世界中で改善している。

銀行の資本力は過去最強であり、金融危機発生のリスクは当面低い。唯一、バブルの懸念があるのが不動産価格だが、一部を除き、家賃上昇に裏付けされていると考えている。

大槻氏
(大槻氏 写真=ZUU online編集部)

広木氏 :私からは、テクニカルな数字を用いて日経平均3万円の可能性を探ってみたい。3万円というと途方もない数字のように聞こえるが、足元が2万3,000円だとすれば、あと7,000円、言い換えれば約30%上昇すれば届く水準だ。

日経平均株価は「EPS×PER」で計算できる。3万円に到達するためには、ざっくり言えば、利益の見通し(予想EPS)がここから2割伸び、バリエーション(PER)が1割拡大すれば良い。

前期(2017年3月期)の3月決算が出揃った5月末時点で、日経平均の予想EPSは1,400円だった。もちろん日経平均は指数であるので厳密に言うと「日経平均のEPS」は存在しない。正確に言うと、日経平均構成銘柄の時価総額合計と当期利益合計額を用いて計算した加重ウェイトベースのPERから逆算したものだ。「日経平均株式会社」という企業があるつもりでお聞き頂きたい。

1,400円でスタートした今期の予想EPSは、4〜9月期決算発表を経て日経予想で1,500円、アナリスト予想の平均であるQuickコンセンサスは1,540円まで上昇している。上半期だけで額にして100〜140円、率にして7.5〜10%の上昇修正だ。

下半期も良好な経済環境を背景に、上半期と同じ7.5%の上昇修正があってもおかしくないと考える。最終的に今期(2018年3月期)のEPSは、日経予想とQuickコンセンサスの中間を取って1,640円ほどになると予想している。

ゴルディロックスとも呼ばれる現在の好調な経済状況は少なくとも向こう1年〜1年半は継続する可能性が高い。従って、来期(2019年3月期)も増益が期待される。2017年度下半期に上振れると仮定した7.5%増益を、2018年3月期にそっくりスライドすると、2019年3月期のEPSは1,760円ほどになる。今期(2018年3月期)の着地見込みが前期比20%増益であるため、来期(2019年3月期)が通年で7.5%増益というのは、非常に保守的な見積もりだと言える。

一旦、来期のEPSを1,760円と置いてみよう。次にEPSにかけるPERだが、日経平均の過去5年間の平均PERは15.5倍。この2つの数字を当てはめると、1,760円×15.5倍=27,280円となる。上昇相場でセンチメントが楽観的になり、PERのレンジが拡大することに違和感はない。平均+1標準偏差程度のバリエーションの拡大は十分に予想される。

予想PERの過去5年平均+1標準偏差である17.2倍と1,760円を掛け算すると、1,760円×17.2倍=30,272円となる。(編集部注:会見ではこの他に「PBRとROEの観点」「残余利益モデル」からも日経平均3万円到達のロジックが説明された)

広木氏
(広木氏 写真=ZUU online編集部)

松本氏 :日本の個人投資家は「金融リテラシーがない」と言われることがあるが、私はそうは思わない。むしろ日本の家計部門は常に合理的な判断をしてきた。

例えば、平成バブルを振り返っても、地価のピーク時に日本の家計部門は不動産を売り越した。最古の金融バブルと呼ばれる17世紀のオランダチューリップバブル以降、人類は様々なバブルを体験してきたが、バブルのピーク時に家計部門が売り越しているのは、日本で起こった平成バブルだけだ。

高値で売り抜けたお金で、日本の家計は当時6%程でイールドしていた国債やワイドを買った。その後、株式は下落、ドルは弱くなり、日本の家計が買った資産以外は暴落したわけだ。平成バブル崩壊後、日本で何が起こったか。ご存知の通り20年に渡るデフレを迎えたわけだが、デフレ環境下では株式よりも現金の方が相対的に有利だ。このように、日本の家計は極めて合理的な行動を取ってきた。

現在、株高にも関わらず、日本の個人部門は株式を売り越している。私が思うに、日本の個人は迷っている最中だ。この株高は本物なのかじっくり見極めている。今回のリスク資産上昇は、平成バブル時と以下の2点で異なると考えている。

  1. 平成バブルに比べてバリエーションが適切
  2. 全ての銘柄や土地が上がっているわけではない

まず、平成バブルに比べてバリエーションが適切だ。また、平成バブルの際は、ほぼ全ての銘柄が上昇し、日本中ほぼ全ての土地が値上がりした。しかし現在は、どんな銘柄でも上昇しているわけではないし、地価を見ても上昇は限られた地域に留まっている。言い換えれば、銘柄や地域を取捨選別しているということであり、まだまだ買われる余裕があるということだ。

写真=マネックス証券
(写真=マネックス証券)

「景気拡大が実感できていない」「消費が増えていない」という声もよく聞くが、日本株式の時価総額は600兆円くらい。対して日本の土地は全部で大体3,000兆円くらい。しかも日本株式の一定割合は外国人が保有しているのに対し、土地のほとんどは日本人が持っている。やはり地価が上がってこないと資産効果による消費増は見込みづらいのではないか。その一方、株式の保有割合が高い地域は、消費が旺盛になっているという内閣府公表のデータもある。

株価は実体経済の1年から1年半くらい先を読むものだ。今後は、更なる景気拡大を背景に、日本経済は力強さを増していくと考えている。繰り返すが日本の個人は半信半疑の状態。これが確信に変わっていくにつれて、合理的な日本の家計は現金を株式に移し始めると思う。なぜ今までずっと日本の家計が株式を買ってこなかったかというと、単純に株が上がってこなかったから。なぜ預金を積み上げてきたかというと、預金が一番パフォーマンスが高かったから。

政府がただ「貯蓄から投資へ」と号令しても、頭の良い日本の家計はなかなか動かないが、資産価格が持続的に上昇すれば、当然のように資産がシフトしていく。マネックス証券としてはこのようなビューを定期的に発信していき、その円滑なシフトのお手伝いをしたいと考えている。(ZUU online 編集部)