すでに共働き世帯は6割を超える(2016年総務省調べ)中、配偶者が亡くなった後に受給できる遺族年金の制度に大きな男女格差が存在していることで、家計へのリスクが高まっている。
夫婦のどちらが亡くなるかで受給額が変わってくる上、2012年に時代に適応するよう法改正された直前に妻を亡くした世帯には何の救済措置も取られていない。こうした問題点について考えてみたい。
法改正以前に妻が死亡した男性は悲惨
遺族年金とは、家族のうち稼ぎ手の1人が亡くなった場合に、残された配偶者と子供たちに対して支払われる年金のことだ。
国民年金の場合には「遺族基礎年金」、厚生年金の場合には「遺族厚生年金」、共済年金の場合には「遺族共済年金」が支給される。労働者が業務上の事故で死亡した場合には、労災保険から「遺族補償年金」が支給される。
遺族基礎年金の金額は一律年78万100円で、子1人に年22万4500円(3人目からは7万4800円)の加算がある。子供1人の世帯はざっくり年に100万円がもらえることになる。
かつては夫を亡くした妻のためのものとして「母子年金」と呼ばれたが、共稼ぎなどが増えた時代にこうした規定はそぐわないとして、2012年に法改正され、夫も受給できるようになった。ただし、施行日の2014年4月1日より前に死別したケースに救済措置はない。このため、残された遺族を精神的に追い込み、余計に苦しみを与えることにもなっている。
2017年1月24日の朝日新聞デジタルの「父子家庭にも遺族年金を 法改正でも差別」と題された記事では、共働きだった44歳の妻を病で亡くした男性(掲載当時48歳)の苦悩を紹介している。男性には高校生以下3人の子供がいた。
男性が妻と死別した当時、遺族基礎年金の支給は対象は「妻または子」限定だった。また、3人の子には受給資格があったはずだが、国民年金法に「生計を同一にする親がいる場合は、子への支給を停止する」との縛りがあるため、子供と同居するこの男性方では、誰も遺族基礎年金を受け取ることができなかったという。
これが、仮に夫が亡くなり、妻と子供3人が残された場合、もらえる年額は基本額78万円に加算額をあわせ、約130万円だった。男性は17年連れ添った妻を失った悲しみだけでなく、父子家庭というだけで年金を受け取れなかったことに対する怒りに明け暮れることになった。記事では男性が「妻は、残された家族がまさか男女差別で苦しんでいると思うまい。社会とはこんなに不公平なのだと痛感した」と憤っている様子が紹介されていた。
住宅ローンを夫が契約した家庭は要注意
遺族厚生年金はもっと大きく男女格差が出る。子がいて夫が死亡した場合が最も手厚く、妻は再婚しない限り終身でもらえる(65歳以降は妻の厚生年金に振り替わる場合もある)。一方、共働きの妻が亡くなった場合、夫が遺族厚生年金をもらえるのは妻の死亡時に55歳以上の場合で、受給は原則60歳からとなる。子供がいれば子供の遺族厚生年金が払われるが、高校卒業の18歳で終わるので、大学進学を考えている家庭には厳しいといえる。
2016年11月30日付日本経済新聞朝刊の「共働き世帯は注意 妻死亡時に少ない遺族年金」記事では、8歳の子供が1人でいずれも35歳の共働き夫婦の一方が死亡した場合の受給額が試算されている。夫が死亡した場合、妻は85歳で死亡するまでに約4380万円を受け取れるのに対し、妻が死亡した場合、夫は子供が18歳になるまでの10年間で1440万円しか受け取れない。
注意したいのは、共働き夫婦が住宅ローンの支払いについて死亡時に残高ゼロになる団体信用保険の契約を夫だけにしている家庭だ。夫と妻の稼ぎがイーブンな場合、妻が死亡した場合は、収入が半減する上に住宅ローンはまるまる残ってしまうだけでなく、子供がいると子育てや教育に大きな出費が発生する。これは家計にとって大きなリスクだ。
この不平等は保険でカバーするしかない?
こうした男女差は司法の場でも争われてきた。先述の遺族補償年金が、夫だけは55歳以上でないと受給できない規定が違憲かどうかについての最高裁判断が2017年3月21日に示された。
最高裁は、男女間の労働人口の違いや平均賃金の格差、雇用形態の違いを挙げ、「妻の置かれている社会的状況に鑑みれば、妻に年齢の受給要件を定めない規定は合理性を欠くものではない」とした。
違憲判断は制度をちゃぶ台返しにしてしまうため、確かになかなかないことではある。ただ、こうした司法の判断が、制度の現状を固定化してしまうことは、社会での男女平等が不可逆的に進行していくこれからの時代にそぐわないと言えるのではないだろうか。
この不平等を保険でカバーする考えもある。すなわち、死亡してから満期まで、年金方式で一定の金額が支払われていく仕組みの収入保障保険などだ。とはいえ、国に対しては、制度の不備をいつまで民間に尻拭いさせているのかという感が拭えない。
愛するパートナーを失ったうえに遺族年金の男女格差で苦しんでいる国民を救うために、早急な制度再構築のため国会での議論が求められる。(フリーライター 飛鳥一咲)