中国ネット界の巨頭「BATJ」バイドゥ(百度)、アリババ、テンセント(騰訊)、ジンドン(京東)の第3四半期決算が公表された。そろって好調である。トップが好調ということは、中国経済も好調ということでいいのだろうか。好決算に死角はないのだろうか。好決算に死角はないのだろうか。各社の現状と今後について、考察してみよう。(1元=16.91円)

アリババ(ネット通販最大手) 独身の日セールは成功

BATJ,中国経済
(画像=Chonlachai / Shutterstock.com)

アリババの第3四半期決算は、売上551億2200万元、前年比61%増。純利益は174億800万元、前年比146%増だった。

そのうち中心業務であるネット通販事業の売上は、464億6200万元、前年比63%増、クラウドコンピューティング事業の売上は、29億7500万元、前年比99%増だった。メディア、娯楽関連の売上は、47億9800万元、前年比33%増だった。

11月11日、年間最大の小売りイベント“双十一”独身の日セールが終了した。アリババの売上は1682億元だった。前年比39%増。シェアは66.2%、2016年のシェアは68.2%だったため、2%下落した。しかし第2位、京東の挑戦を退け、ネット通販トップ企業としての面目を保った。

セール当日、創業者・馬雲は、インタビューに答えている。2009年の第1回独身の日セール以来、爆発的の伸びる売上に対応するため、アリババはテクノロジーを進化させてきた。その姿勢は今後も変わらず、今年新たに「達摩院」という研究機関を発足させたという内容だ。

テクノロジー開発に注力

これまでに開発してきたテクノロジーは、金融子会社のアント・フィナンシャルに集約されている。最初はネット通販決済用の資金プール「支付宝」から始まった。これがスマホ時代になるとともに、モバイル決済プラットフォームとして大発展を遂げる。

その一方で支付宝の余資は「余額宝」というMMFには、スマホ操作で預入れできる。利息は4%近くあり、今では大銀行の個人定期預金に匹敵する資産額を誇る。また実際に「網商銀行」というネット銀行も設立した。展開している金融商品は覚えきれない。何しろスマホにダウンロードできるアプリだけでも、支付宝以下16種紹介されている。

消費者金融関連……「螞蟻花唄」「極急貸」「螞蟻金服App貸款」「環唄」 資産運用関連……「余額宝」「螞蟻聚宝」 生活サービス……「碼上App」「愛生活融e」 信用調査格付け……「芝麻信用」「螞蟻会員App」

などである。つまり個人や商店主クラスの小事業者なら、銀行の存在理由はもう口座管理しかない。今では銀行の方から提携を模索するありさまだ。さらに信用機構「芝麻信用」の格付けは日常生活に大きな影響を及ぼしている。アリババは金融テクノロジーで中国人の生活を囲いこみつつある。

O2OとAI

現下の課題は、オンラインオフラインの小売り融合“新零售”の確立である。今年の双十一では、全国60の実験店舗で、体験デモンストレーションを行った。またメンズファッション売上1位となった「海澜之家」は2000の実店舗とはオンラインオフライン体制を構築した。

アリババは2016年3月の「盒馬鮮生」以来、7社の実店舗企業に、直接間接の投資を行っている。今年9月には「新花都超市」という131店舗のスーパーに出資した。物流ではグループの「菜鳥物流」への増資を行い過半数の株を確保した。さらに5年で1000億元の投資を、O2O新物流網の構築に振り向ける。

金融の課題、O2Oの課題、それぞれAIが鍵となる。「達摩院」はその研究のためのものである。

以上のようにアリババは、ネット通販をベースとして、実体経済にも、金融テクノロジーにも強い。さらに創業者・馬雲は、国民からの人気も高い。習近平主席とは、彼が浙江省書記時代からの旧知の仲だ。どこにも死角らしきものは見当たらない。

テンセント(ゲーム、SNSでトップ) 時価総額でアリババを上回る。

テンセントの第3四半期決算は、売上652億1000万元、前年比61%増だった。利益は180億600億元、前年比69%増だった。

テンセントは、その死角のなさそうなアリババの時価総額を上回った。その秘密はどこにあるのだろうか。

11月16日、香港市場に上場のテンセント株は、2.3%上昇して、391.80を付けた。時価総額は3兆7216億7800万香港ドル、4766億USドルとなった。

一方同日のニューヨーク市場におけるアリババ株は、185ドル92セントで、時価総額は4751億9100万USドルだった。

「王者栄耀」と「権力的遊戯」

テンセントの収入源は、ゲーム、SNS、広告、その他に4分される。第3四半期は、ゲーム268億4400万元、前年比48%増、SNS152億8000万元、前年比56%増、広告110億4200万元、前年比48.23%増、その他120億4400万元、前年比143増、となっている。

構成比は、ゲーム41.2%、SNS23.4%、広告16.9%、その他18.5%である。2015年第1四半期には、ゲーム収入が60%であった。ゲームはシェアを落とし、それだけにに頼らない売上構成になってきた。

テンセント好決算の“功臣”は「王者栄耀」「権力的遊戯(ゲーム・オブ・スローンズ)」とされる。特に王者栄耀は、7月に子供に対する、ゲーム時間制限が出るほどのブームとなった。

一方、ゲーム・オブ・スローンズは、グループの視聴サイト“騰訊視頻”が版権を獲得した。その影響もあり昨年2000万だった騰訊視頻の利用者が、今年9月には4300万に増えたのである。

微信(We chat)

しかし舞台裏でこれらの躍進を支えているのはSNS“微信”である、これほど強力な武器はないと誰もが考えている。11月上旬“2017微信数据報告”が発表された。以下データをピックアップしてみる。

9月の平均登録利用者数は、9億200万人、前年比17%増。そのうち55~70歳の老年層は5000万人。1日当り発信数は、380億件、前年比25%増。1日当り画像通信数は、2億500万回、前年比106%増。

支付宝と並ぶモバイル決済プラットフォーム「微信支付」のオフライン店舗での使用回数は前年比280%増。

微信は中国人の最も重要なネットインフラとなっている。これを利用して知人友人間での小さな商売が盛んに行われている。微信で商品の写真や動画を送り、微信支付で決済をする。

さらに金融でもアリババと張り合おうとしている。スマホで「微信銭包」を操作すれば年間20万元までの融資が可能の他、傘下のネット銀行「微衆銀行」でも“微粒貸”という小口金融を行っている。また台湾と合弁の保険会社を設立し、オンライン保険販売にも挑む。

こうしてゲームと微信を核に、アリババ同様、個人向け総合金融サービスを目指している。アリババとの対抗心は、大きなモチベーションとなっている。テンセントの事業も個人向けが大きな収益源となっている。これは経営に大きな安定感をもたらしている。市場の高い評価の所以だろう。

ジンドン(ネット通販2位) アリババ攻囲網、今年の双十一では機能せず

ジンドン(京東)の第3四半期決算は、売上837億元、前年比39.2%増。純利益は10億元、前年同期は5億元の欠損だった。

京東は、双十一独身の日の売上を1271億元と発表した。アリババの1682億元を猛追したかに見えた。しかしこれは1日~11日までの累計売上を発表したもので、実際の販売シェアはほとんど動かなかったのである。

京東は、騰訊、今日頭条、百度、奇虎360、捜狗、易網の有力ネット企業6社と、オンラインオフラインの小売業融合プロジェクトを組んだ。しかし、この実質的アリババ攻囲網は、今年の双十一では機能しなかったようだ。

しかし京東は、さまざまなビジョンを強力に発信し続けている。例えばO2O実験店舗への積極投資である。「京東便利店」100万店を標ぼうし、実際に11月2日には1111店舗を開店させた。1企業による1日の出店の世界記録だった。これは零細小売店を、京東ネット通販のパイロットに使う計画である。O2Oではアリババに徹底して対抗していく姿勢である。ただし現状では、アリババにリードを許している。また「京東金融」「京東到家」など金融や物流の変革にも投資を惜しんでいない。

その一方、決算は改善傾向にあり、投資家を安心させている。京東はアリババとの対抗心を力に、生き残っていくだろう。

バイドゥ(検索エンジン1位) 毎日2188億アクセス

バイドゥ(百度)の第3四半期決算は、売上235億元、前年比29%増。純利益は79億元、前年比156%増だった。

百度には毎日、内外から2188億回のアクセスがあるという。しかしこれでも独占的地位というには当たらない。検索エンジンのライバル騰訊系の「捜狗」が11月上旬、ニューヨーク、ナスダック市場に上場した。百度はとっくに同市場に上場済みだが、検索エンジンに限れば、捜狗が足元に迫ってきた感覚だろう。実際の使用感は、情報更新の早い捜狗の方が優れている。

百度はその将来をAIに賭ける。11月中旬に開催した「世界百度大会」の席上、初めてAIソフトとハードの融合した、スマートスピーカーを発表した。Google Homeや Amazon Echoなどに挑むつもりのようだ。1699元を超えない価格で発売するという。

もう一つはApolloと呼ばれる自動運転ソフトである。これは無人運転を目指すものだ。2018年には金龍汽車と合弁で、バスを小規模生産する。2019年には江淮汽車や北京汽車との合弁で量産に入りたいとしている。

スマートスピーカーは競争が厳しい。無人運転車は、中央政府の四大AIプロジェクトに指定されているが、いつ採算にのるのかまったくわからない。百度はBATJの中では、最も将来が読みにくい。

BATJの動向は、中国経済の今後を占う材料として欠かせない。経済ニュースの中心であり、そのダイナミズムは、ほとんど動きのない国家統計局の発表データとはまったく対照的である。今後も高い関心を持って、ウオッチしたい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)