中国国務院科学技術部は11月中旬、「新一代人工智能発展規画重大科技項目始動会」を開催した。そこでは4つの「国家新一代人工智能開放創新平台」プロジェクトが設定された。平台はプラットフォームの意である。国家の後押しにより、人工知能の発展は全面的に実施段階へ入った。経済サイト「21財経捜索」など多くのメディアが伝えた。

会議では、新一代人工智能発展規画推進辯公室と、新一代人工智能発展規画諮問委員会を発足させることを決議した。そして国を挙げて、2030年には、必ずや人工知能の分野で世界の最先端を占める。そのための高いレベルの戦闘の幕が切って落とされたのだ。新しい歴史をつかみ取るチャンスである。世界の機先を制するため、第四次工業革命を達成するため、中国は前進しなければならないと記事は勇ましい。高揚感は伝わってくる。

また一方では、「百信銀行」の正式開業が伝えられた。中国初の独立法人によるダイレクトバンクで、ここにもAI技術が集積される。以下4つのAIプロジェクトと、このAI銀行について順に見ていこう。中国は具体的に何を目指しているのだろうか。

第一プロジェクト「自動運転」委託先……百度(バイドゥ)

中国経済,BATJ,AI
((写真=Zapp2Photo / Shutterstock.com、写真はイメージです))

第一に挙げられているのは「自動運転」、委託先は百度である。その百度は11月中旬、年に一度の“百度世界大会”を開催した。席上、創業者・李哲彦は「無人運転が、交通違反の罰則を受ける時代となっているのなら、無人運転車の量産はまだ遠い話だよね?」と述べ、会場の爆笑を誘った。李哲彦は7月、無人運転車に乗って北京第五環状道路に進入し、法令違反として交通警察の捜査を受けた。そのことを知らない人はいない。

今回の百度は、概念だけでない実体を示した。すでに金龍客車と戦略的提携を結んでいるだ。2018年に無人の小型車を量産する。金龍客車とは福建省・厦門のバスを主力とする会社だ。つまり小型バスが第1号車となる。その小型バスにハンドルはない。本物の無人運転車がやってきた。これは我々の想像よりかなり早い。

今年の4月中旬、百度はApollo(アポロ)計画を正式にスタートさせた。そして計画はオープンソース方式として、自動車産業、AI産業各社との提携を模索するものだ。車輛などのハードと、百度のAIシステムとの融合を進めるためだ。計画の公表以来、6000を超える開発者がアポロ計画をサポートするようになり、1700の開発者がアポロ計画のソースを利用、100を超える提携の申請が来ている。

何しろあのアップルですら、百度のソース開放以後は、安閑としていられなくなった。アップルはすでに何年もこの技術に消費していたからだ。

記事は、これがアップルの青ざめるほどのプロジェクトに成長し、無人運転はやっとAI界のメインディッシュになったと強調している。とにかく来年の量産第1号車に注目が集まる。

第二プロジェクト「城市大脳」委託先……阿里雲公司(アリババグループ)

二つめは「城市大脳」という名のプロジェクトで、委託先はアリババグループのクラウドコンピューティング子会社、阿里雲である。“ET量化物理世界、変身城市大脳”というスローガンを掲げ、物理の世界のようにできる限り定量化し、都市のAI化を進めていく。具体的に“変身”を進める都市は、アリババグループの本拠地、浙江省・杭州市である。

目標は交通、エネルギー、水道などの基礎施設や公共インフラをすべて数値化することだ。将来は各地からのデータを収集することで、各都市は、強味弱味の自己診断もできるようになる。

アリババグループ技術委員会の王主席は、11月中旬「鳳凰網科学技術サミット」の席上、“城市大脳ーAI機器の稼働計画”を次のように述べている。

現代の大都市の直面している問題は、一企業の手におえない。それに挑むには、まずビッグデータからの掘り起こしを行い、都市のもつ公共資源をレベルアップさせることから始まる。例えば交通資源とは、時間資源と空間資源を包括したものだ。

杭州市の実証実験では、AIにつないだモデル地区128交差点の信号における通行時間が、15.3%減少した。また高架道路の実験区間の通行時間も4~5分短縮できた。これだけでも巨大な価値を持つ。オーストラリアの統計では、渋滞1分の一人当たり経済損失は5000オーストラリアドルだ。目標はこうしたデータの積み重ねである。

また中心地区では1日平均500件以上の110番通報をAIが引き受けた。さらに郊外のある地区では、救急車の到着時間が半減した。

今後は都市計画、3D建築モデリングにも関与、都市改造の司令塔として活用していく。さらに杭州市の次には、蘇州市が日程に上っている。

第三プロジェクト「医療映像」委託先……テンセント

三つ目は、AI産品の力を借りて、病魔を制圧するプロジェクトである。中国では5人に1人が癌に罹患する可能性がある。そして中国人の死因第2位である。世界保健機構は次のように指摘している。三分の一癌は予防可能、三分の一の癌は治癒可能、三分の一は治療可能であると。中国にはこうした体制が整っているのだろうか。

医療映像の分野では、騰訊が全国のトップにある。同社はグループ内の「優図実験室」「AI Laboratry」「架構平台部」など人工知能研究部門の力を結集し「騰訊覓影」というAI医学映像産品を開発する。

今年8月、騰訊覓影は、優図の考案した“端到端肺癌補助診断技術”を採用した。AIにより多角的な神経システムの病理診断だけでなく、過去の病理診断データや医者のネットワークまで利用する。これによって早期肺癌を84%を超える確率で診断できる。また直径3ミリクラスの微細な腫瘍の検出率は95%を超える。さらにこの技術は、放射線科医のCT検査能力向上にも寄与しているという。現在多くの三甲医院(特殊医院以外の最高ランク病院)と提携して展開を始めた。

肺癌以外にも、糖尿病の疑いを高度に識別するプロジェクトやや眼科プロジェクトもある。いずれもインターネットと新型医療モデルの融合に、深く関っている。人工知能と医療の融合とクロスボーダーであり、未来の医療領域そのものに、さらに多くの変化をもたらすことになるだろう。

これら騰訊と提携病院の民間で行っていたプロジェクトが、今回国家プロジェクトに格上げされたのである。

第四プロジェクト「智能語音」委託先 科大訊飛公司

智能語音とは音声識別のことである。科大訊飛という会社は、百度、アリババ、騰訊というビッグネームに比べ、知名度は低い。1999年安徽省、合肥市で創業した音声識別ソフトの会社である。しかし2017年、MITテクノロジーレビューが選ぶ、世界50大“聡明”会社に選ばれており、技術的な評価は高い。

科大訊飛の2010年における音声識別率は60.5%だった。それが今は95%に上がっている。テキスト音声合成の品質(自然性・明瞭性・話者性)を競う国際 ワークショップのBlizzard Challengeでは、12年連続トップの成績であるという。

もはや同社の翻訳機能は「神器」に近い。中国語が瞬時に英語へと変わる。衣食住の日常生活の全域で、大学英語六級水準に達している。もちろん学習、仕事、海外旅行、などの各場面ではあなたの有用な通訳となる。科大訊飛の翻訳がさらに一歩進めば、通訳という職業は、消滅するかも知れない。

グーグル旗下のボストンダイナミクス社が発表した、進化版Atlasロボットは、その学習能力の高さで人を驚かせた。またFacebookは次の10年で、AI、仮想現実、拡張現実を連携させようとしている。人工知能はこれら計画の鍵を握る。そしてAI技術こそ生産力の源であり、未来の競争は、AI技術のそれとなる。音声認識技術は、こうした国際間競争のベースとなる。

百信銀行

11月下旬、2年にわたる準備期間を経て「百信銀行」が正式開業した。中信銀行(70%)と百度(30%)の共同出資である。騰訊系の微衆銀行、アリババ系の網商銀行、シャオミ系の新網銀行に次ぐ、4つめのネット銀行である。

英語表記は「ai Bank」である。ここに百度の気合が感じられる。百信銀行は、AIスマート金融時代の基礎インフラ、そして主力エンジンという位置付けである。“All in AI”をスローガンに、百度の持つAI技術を注ぎ込む。具体的にはどのように運営していくのだろうか。

百信銀行の運営モデルは、2つの親会社の市場戦略の一旦を担うものとはならない。先行する3つのネット銀行とは違い、初の独立法人形式である。経営には自由度があり、百信銀行そのものを新しい金融プラットフォームとする。その立ち位置は、大衆のための資金運用、大衆のための融資である。多角化する個人の金融需要に応えるものとなる。

百信銀行の行長は、経営をAIと包括的金融システム(脆弱な人々への金融サービス)に集中する。AI口座、AIリスクコントロール、AIサービスなど、伝統的銀行のサービスが薄弱な部分、空白の領域での発展を目指すという。

強力な国家関与

こうして11月には、AI国家プロジェクトやAI銀行の設立が、華々しく打ち上げられた。しかし人材不足はいかんともしがたい。今年のネット企業の人材募集では、年棒25万元でも白菜の価格に等しい安さにすぎない、と記事は結んでいる。AI関連の人材不足は深刻だ。人がいなければすべては絵に描いた餅に終わる。これは日米も同じ悩みである。

違うのは、国家の関与とスピードである。役人が議会の顔色など気にせず、自由に予算や資源を配分できる。官僚にとっての理想郷だろう。

中国は、空母や原子力潜水艦、AIWACS(早期警戒機)などの3次元兵器で米国と競争して勝てるとは思っていない。主戦場はオンラインの世界とすることにしたのだ。そのため自国からグーグル、アマゾン、Facebook、Twitterなどを締め出している。その間国内勢は、順調な成長を遂げた。それらが今回の委託先企業たちである。今回の国家AI戦略は、こうした締め出し政策の総仕上げともいうべきものだ。日米は、ここまでの国家関与はできない。その結果は果たしてどうでるのだろうか。10年以内には明らかになりそうである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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