韓国・ソウルでホテルの客室数が大幅に増えているが、訪韓外国人観光客が減少し競争が激化している。

日本からは韓流ブームや02年のFIFAワールドカップ日韓大会後に東横インが進出。ほかにもドーミーイン(共立メンテナンス)、ロワジールホテル(ロワジール・ホテルズ沖縄)、ソラリアホテル(西日本鉄道)が続き、2018年夏にはグレイスリーホテル(藤田観光)も開業予定だ。

日系以外も含め新規開業やリニューアルが続くホテル業界だが、大幅な外国人客の減少に見舞われ、苦戦を強いられている。

THAAD問題による中国人観光客の減少に加えて、北朝鮮の核・ミサイルの脅威などにより外国人観光客が減少したのだ。

17年1月から10月の間に韓国を訪問した外国人観光客は875万9505人で、前年同期の1242万7549人を大幅に下回っている。特に16年の訪韓外国人の55.7%を占めていた中国人の減少が著しく、同年10月までの訪韓中国人は353万7632人で前年同期701万5230人のおよそ半分の水準にとどまっている。

外国人旅行者の需要増を見込んで、韓国企業はもとより外資系ホテルも相次いで開業したが、期待した中国人観光客の激減で苦境が続いており、業界関係者は危機感を募らせている。

東日本大震災の影響でホテルが不足

韓国経済,日系企業
(画像=筆者、明洞駅に隣接するロワジールホテルソウル明洞=中央・奥)

2008年まで600万人台だった訪韓外国人は09年頃から急増し、12年にはじめて1000万人を突破した。MERS(中東呼吸器症候群)の影響で前年を割った15年を除いて右肩上がりの成長が続き、16年には1724万人に達している。11年の979万人からわずか5年で1.76倍、10年前の07年と比べると267%の高い増加率となっている。

16年末時点でのソウル市内の観光ホテルは348軒4万6947室で、12年の161軒2万7173室と比べて72.7%増加した。訪韓外国人観客の増加率は54.7%で、そのうちソウルを訪問した外国人観光客は47.5%増となっており、ホテル供給量の増加率が外国人観光客の増加率を大きく上回っている。

ホテルの急増は、12年7月から16年末まで施行された「観光宿泊施設拡充に向けた特別法」によるところが大きい。

11年に発生した東日本大震災の直後、ソウルに仮事務所を開設した欧米企業が少なくなかった。東京を拠点にアジアを統括する欧米系企業等が、余震が続く東京を避けてソウル市内のホテルを仮事務所として利用した。同時に円高ウォン安が進行し、訪韓日本人が300万人の大台となったことで、外国人向けホテルが不足して宿泊料は高騰した。

翌12年も訪韓日本人はさらに増加し、中国、台湾などアジアからの観光客も増えたことで、ホテルの供給不足はますます深刻になった。

訪韓外国人の急増を受けた韓国政府は、ホテルの容積率を2倍近くに増やすなど建設要件を緩和し、ソウルの明洞や東大門、光化門を中心にホテルが増えた。なかでも明洞は16年の1年間だけで客室数が2000室以上増えており、2017年10月にはソウル龍山に客室数1700室の「ドラゴンシティ」もオープンしている。

グローバルスタンダードサービスを提供する日系ホテル

訪韓外国人が増え始めた2010年前後からソウルや釜山などで日系ホテルが次々に開業しており、フランスのアコーズホテルズも龍山駅隣のドラゴンシティをはじめ、21年までに9軒のホテルを新たに開業する予定だ。

1980年前後にも複数の日系ホテルが進出しているが、いずれもソウル五輪(1988年)を機に増加が予想される外国人がターゲットだった。五輪に合わせて韓国を訪問する外国人のために、グローバルスタンダードのサービスを提供したい韓国政府の要請を受け、ソウルの明洞にロッテホテルやロイヤルホテルなどが開業。いまは資本がかわった光化門のコリアナホテルと南山南麓のグランドハイアットソウルも当初はソウル五輪に合わせて日本から進出したホテルだった。

日本からは東横インが09年8月にソウル東大門で開業、17年11月時点で釜山や大田など合わせて7軒のホテルを展開している。

共立メンテナンス <9616> は2014年と15年にソウル江南で2軒のドーミーインを開業し、2015年にはロワジールホテルが明洞で、西日本鉄道 <9031> も同じく明洞でソラリアホテルをオープンした。藤田観光 <9722> も2018年夏にソウル南大門にグレイスリーホテルを開業する予定で、工事が進められている。

ホテル増加もミスマッチ

ホテル稼働率の低下に加えて観光客とのミスマッチも課題として浮上している。韓国観光文化研究院の調査によると、中国人観光客が適切と考える宿泊費は1泊6万ウォンから7万ウォン(約6200円から7200円)だが、特別法で増えたソウル市内のホテルは、5つ星の特1級が6軒、4つ星の特2級が16軒、3つ星の1級が25軒となっている。

1級ホテルの宿泊費は概ね1泊10万ウォンを超え、特1級は20万ウォンから30万ウォン以上で、観光客が想定する価格と乖離が生じている。1泊6万ウォンから10万ウォンの2級ホテルや3級ホテルも多少は増えてはいるが、外国人観光客の需要には追いつかないのが現状だ。

特別法主務官庁の文化体育観光部は、一流ホテルが供給過剰となっている一方で、中高価(宿泊料1日10万~20万ウォン)や中低価(6万~10万ウォン)の客室は不足するとみている。同部がまとめた2016年の「ソウル宿泊市場に対する需給分析結果」によると、中高価は4142室、中低価は5251室が不足しており、2020年にはソウル市内の中高価・中低価客室不足はさらに深刻化すると同部はみている。

中低価を求めてソウル郊外や地方のモーテルなどを利用する中国人団体観光客が戻っても、一流ホテルの業績が改善する期待は小さい。業界関係者は免税店業界が厳しくなったのと同じく、今後3年から5年で価格競争力が劣るホテルは脱落して消えるだろうと予想する。

文化体育観光部は、宿泊業者関連法令を統合・整備して、宿泊料等のモニタリングを強化する方針だ。

国内旅行はカウントしないホテル業界

ソウルのホテルは外国人観光客を対象に建設され、訪韓外国人の増減によって業績が大きく左右される。地方と違い、ホテルの利用が少ない国内旅行者が考慮されることはないに等しい。

文化観光体育部がまとめた2016年「国民旅行実態調査」によると、2016年にソウルを訪問した内国人は推定1323万7000人余りだが、ソウル市内で宿泊した旅行者は464万7000人で、全体の35%にとどまっている。観光目的に限るとソウルを訪問した人は483万2000人あまりで、宿泊者は138万人しかいない。同年に釜山を訪問した内国人はソウルをはるかに下回る714万4000人だが、宿泊者は433万1000人だった。

韓国はソウルを中心に国内線航空や鉄道、昼夜の中長距離バス路線網が充実しており、首都から日帰り可能な地域が多い。家族旅行者はマンション型の宿泊施設であるレジデンスホテルを利用する人が多い。出張者や個人旅行者向けは、モーテルや旅館といった簡易宿泊所やゲストハウス、民泊など、ホテルの半額以下で宿泊できる宿泊施設が整っている。

空室を埋めるためにタイムセールを行っているホテルもある。20%から30%が空室となっているソウル江南のブティックホテルは予約の締め切りが迫ると価格を6割から8割程度割引いて販売する。当日になって宿泊料を大幅に値引く“タイムコマース市場”が稼働率の減少とともに大きくなっている。

韓国人にとってソウルは簡易宿泊所や夜行バスなどホテル以外の選択肢が多く、国内旅行者が一流ホテルの業績を左右することはないといって良い。

日本を切り捨て中国を選んだロッテ

苦境が続くホテルだが、17年10月にドラゴンシティを開業したフランスのアコーホテルズのセバスティアン・バザン会長は、今後2年から3年で淘汰が進み、10年ないし15年後にはホテル不足になると予測する。フランスのアコーホテルズは韓国のアンバサダーグループと提携し、17年10月現在、韓国で23軒のホテルを展開している。

バザン会長は、世界の観光客は現在12億人だが、15年後には20億人に増えると予想する。過去20年間で世界の観光客は年平均5%しているが、格安航空の登場で海外旅行費用が30%安くなったことから海外を訪問する観光客の総数はさらなる増加が見込まれる。これら新たな海外旅行者を取り込むことが重要だと同会長は指摘する。

ホテルの開業ラッシュは、直接的には特別法の影響が大きいが、韓国特有の“右へならえ”文化と建設不況も少なからず影響している。

韓国人はブームに乗る傾向が強い。訪韓外国人は長い間、日本人が多数を占めていたが、竹島問題や慰安婦像を巡る日韓関係の悪化で日本人観光客が減り、013年に日本人と中国人の旅行者数が逆転すると、日本人一辺倒だった免税店や観光土産物、ホテルは中国人一辺倒に動いた。訪韓日本人観光客に加えて中国人にも対応するのではなく、日本語話者を雇い止めにして、中国人話者を採用するといった方針転換が随所で見られた。

ロッテは免税店の中国語話者を増員し、14年7月には在韓日本大使館主催で開催が予定されていた「自衛隊創設60周年記念レセプション」を前日になって取り消し、同時期の在韓国中国大使館主催の「中国人民解放軍建軍87周年記念レセプション」は予定通り実施した。

アコーホテルズのバザン会長がいうように国や文化に偏らず、海外旅行者を取り込むことが肝要だ。バザン会長は韓国中央日報とのインタビューで、18年の平昌冬季五輪の活用を提唱する。世界のメディアが3週間、韓国に注目する機会を利用して交通網や治安など観光のしやすさをアピールすべきという。ソウルのほかにも観光都市が5、6カ所あると滞在期間が増えるとも指摘する。

韓国人は何かがブームになると、それまでのものを捨て、一斉にブームに乗る傾向がある。伝統を継承せず放置する。魅力を感じてリピーターが訪問したときにはすでになくなっているものが少なくない。

交通網もネックだ。ソウルと地方を結ぶ交通網は国内線やKTXは外国人も容易に利用できるが、航空路線やKTXがない地域はハングルを読めない旅行者の訪問は不可能に近い。ホテルというハードを作ってもソフト、即ち観光目的を生み出せない現状で、訪韓外国人を呼び込むことは難しく、ホテルの経営環境が改善される見込みはないに等しい。(佐々木和義、韓国在住CFP)

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