「やれやれ……」ウオール街のカフェで筆者と同席していた金融マンが深いため息をついた。子供へのクリスマスプレゼントで頭を悩ませていたわけではない。いわゆる「ロシア疑惑」が再浮上し、米株式市場に冷や水を浴びせていることが原因だ。フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が偽証罪を認めたことで、疑惑の解明が大きく前進する可能性が高まっている。

フリン氏との司法取引が成立したことで、ロシア疑惑がどこへ向かうのか、そして、それはマーケットにどのような影響を及ぼすのだろうか。

2つの「司法妨害」が焦点へ

モラー特別検察官は2016年の米大統領選挙において、ロシアとトランプ陣営との間で「共謀」があったのかどうかを調べているのだが、そもそも共謀を証明することが難しいことから、司法妨害の立証が落としどころになるのではないかと考えられている。「司法妨害」は大統領の弾劾に値する重大な犯罪とみられているので、弾劾に値する司法妨害が証明されれば、ある意味で目的は達成されたことになる。

今回、フリン氏がFBIへの偽証罪を認め、司法取引に応じたことでトランプ大統領が少なくとも2つの司法妨害に関与した可能性が高まっており、今後の焦点は司法妨害が立証されるのかどうかに移る。

まず一つ目の注目点は、フリン氏のFBIへの虚偽報告に関連するものだ。フリン氏は、昨年12月にロシアと接触したが、FBIに対してその内容を偽証していたことを認め、ロシアとの接触は「トランプ政権移行チームからの指示だった」と述べている。

問題となるのは偽証そのものではなく、偽証が誰の指示によるものだったのかにある。もしトランプ大統領がフリン氏に対して虚偽報告をするよう指示したのであれば、トランプ氏が司法妨害に問われることになる。

トランプ政権はロシアとの接触はフリン被告の単独行動としており、主張が食い違っている。「政権に指示された」というフリン氏の供述に裏づけがあるのかどうかもいまのところ不明だ。

ただ、フリン氏にロシアと接触するよう指示を出したのはトランプ大統領の娘婿であるクシュナー大統領上級顧問であったことが複数のメディアから指摘されいる。

フリン氏の供述によると、昨年12月に駐米ロシア大使に国連安保理決議に反対するよう要請しているが、この決議案はイスラエルに対する入植活動の停止を求めるものだった。クシュナー氏はイスラエルと深い関係にあることで知られている。

また、トランプ大統領はフリン氏がFBIに虚偽報告をしていたことは「知っていた」と述べている。ロシアとの接触が政権移行チームからの指示だったのであれば、知っていて当然であり、問題は一連の行動を大統領本人が指示していたかどうかとなる。

再び注目される「FBI長官の解任劇」

そして、2つ目の注目点はコミー前FBI長官解任に関連するものだ。

トランプ大統領は1月27日、コミー長官(当時)をホワイトハウスに呼び出して「忠誠を誓う」ことを求めているが、これまでは曖昧だった「その動機」がフリン氏の供述で浮き彫りとなっている。

というのも「忠誠」を求めた前日の26日にイエーツ司法長官代理がフリン氏とロシアとの接触をホワイトハウスに報告しているからだ。

トランプ大統領はこの時点でCIA(中央情報局)がフリン氏とロシアとの会話を盗聴し、接触を把握していたことを知ることになる。接触は政権中枢部が指示したものであることを大統領は知っていたので、コミー長官を巻き込んで隠ぺい工作を図ろうとしたことを匂わせている。

またフリン氏が辞任した翌日の2月14日、トランプ大統領は再びコミー長官と会い、フリン氏の捜査を打ち切るように要請している。辞任理由はペンス副大統領に対する虚偽報告というのがホワイトハウスの見解であったが、虚偽報告をさせていたのも政権中枢部なのであれば、捜査の継続が脅威であったことは容易に理解できる。

結局、トランプ大統領は、捜査中止に応じなかったコミー長官を5月に解任しており、このように権力を利用して圧力をかけたとされる一連の動きが司法妨害に該当する可能性が高いということだ。

北朝鮮や中東での有事を懸念

トランプ大統領を始めとする政権中枢部への疑惑が強まっていることから、ホワイトハウスが米国民の関心をそらす行動に出るのではないかと懸念されている。

最も警戒されているのが北朝鮮での動きである。というのも、米政府は在韓米軍家族に韓国からの退避を既に伝えており、年内にはすべて帰国する見通しとなっているからだ。

これまでは、北朝鮮に対しての軍事オプションをちらつかせても3万人ともいわれている在韓米軍家族が韓国内にとどまっていたために説得力を欠いていた。在韓米軍家族の帰国は軍事行動に現実味を持たせることなる。

ロシア政府は5日、北朝鮮では「状況が悪化しており、戦争の危機に直面している」と警鐘をならしている。

ティラーソン国務長官の辞任観測が後を絶たないことも警戒感を強めている。北朝鮮に対して強硬姿勢を取らない同長官とトランプ大統領との間の確執が伝えられており、後任には強硬派で知られるポンぺオCIA長官の名前が挙がっている。

ティラーソン長官が噂通りに年内に辞任し、ポンペオ氏が起用された場合、これらの動きは軍事行動の流れと受け止められることになるだろう。地政学的リスクの高まりはリスクオフの動きを促すと考えられるので、マーケットは株安・債券高・円高で反応する可能性が高いといえそうだ。

イスラエルの米大使館、エルサレム移転の波紋?

また、内戦が続くイエメンでの政情不安も気がかりだ。イエメンでは4日、反政府武装組織がサレハ前大統領を殺害し、混迷が深まっている。また、反政府武装組織はこの1カ月あまりで2回、サウジアラビアに向けてミサイルを発射している。

イエメンの内戦はサウジとイランの代理戦争でもあるが、最近ではイランという共通の敵を前に、サウジとイスラエルが米国を介して急接近している様子がうかがえる。トランプ大統領はイランとの核合意の反故を繰り返しほのめかしており、イスラエルを強力に支持していることは周知の事実であろう。

こうした中で、トランプ大統領は5日、イスラエルの米大使館を国際社会が首都と認めていないエルサレムに移転する意向を示した。大使館の移転は、米国がエルサレムをイスラエルの首都と認めることを内外に示すことにつながり、イスラム諸国の激しい反発を招くことは必至と見られている。

このように、米国がイスラエルの支援に積極的な姿勢を強めていることから、中東情勢の緊迫化がリスクオフの動きを招く恐れもありそうだ。ただし、中東地域からの原油供給に懸念が生じた場合、原油価格の上昇が資源国や資源株の強材料となるほか、インフレリスクから債券が下落し、金利が上昇してドルが買われるというシナリオも想定できるだろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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