コツは「骨」から始めて「肉付け」すること

文章の書き方
(画像=The 21 online)

資料やビジネス文書を作るとき、必ず必要になるのが文章を書くことだ。どれだけ美しいデザインで見やすいレイアウトにしようとも、中身の文章が読みづらければ伝わらない。ベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏に、ビジネス文書作成に必須の文章力の磨き方についてうかがった。《取材・構成=塚田有香》

「地震が来たら火を消す」のどこがいけない?

企画書や報告書を作ったものの、読んだ人から「文章がわかりにくい」と言われてしまう……。その原因は、いくつかあります。

まずは、読み手の立場になって書かれていないこと。「自分がわかっていることは、相手もわかっているだろう」という思い込みのもとに書かれた文章は、正しく伝わりません。

たとえば、よく防災ポスターにこんな文章が書かれています。

「地震が来たら、火を消しましょう」

これは日本語として、何も間違っていません。でも、読み手はどう思うでしょうか。

「地震が来たら、どの段階で火を消せばいいのだろう。グラッと来た瞬間かな、それとも揺れが収まってから?」――そう戸惑う人が一定数いるはずです。これでは、メッセージが伝わったとは言えません。

その原因は、文章の書き手と読み手の間にある「前提のズレ」です。防災機関や専門家の間では、「地震が来たらその場で身の安全を確保し、いったん揺れが収まってから火を消す」が常識です。よって防災ポスターの作成者も、それを前提に文章を書いたと考えられます。

しかしそれは、一般の人にとっては常識ではありません。なかには「グラッときたら、すぐに火を消すんだな」と解釈する人もいるでしょう。その結果、実際に地震が来たとき、慌てて火を消しに行って、転倒したりやけどをしたりする人が出る危険性があります。

文章で正しく意図を伝えるには、「必要かつ十分な条件」を提示しなくてはいけません。わかりやすい文章を書くには、読み手の立場になり、「何を伝えれば十分か」を意識することが不可欠です。そのためには、「同じ言葉でも、自分と相手では定義が異なるかもしれない」ということを、常に頭に置きましょう。

「骨格」を書いてから「肉」を付け加える

もう一つ、わかりにくい文章の問題点として多いのが、「骨格がおかしい」ということです。

文章は、「骨格」と「肉」で構成されます。

「今年の夏は、例年より平均気温が低く、寒かった」

この文なら、「今年の夏は~寒かった」が「骨格」で、他は理由や状況を説明する「肉」の部分です。この骨格さえしっかり組み立てられていれば、文章はわかりやすくなります。

では、次の文はどうでしょうか。

「この本は新書なので、値段が安く、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ新書だ」

意味がわかるようで、何が言いたいのか伝わってこない。そんな文章です。その理由は、骨格にあります。この文章の骨格を取り出すと、こうなります。

「この本は新書なので~新書だ」

これでは、主語と述語の関係が成り立ちません。では、骨格を直してみましょう。

「この本は新書なので値段は安いが、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ」

これなら骨格は、「この本は新書なので~仕事に役立つ」となり、主語と述語の関係性がはっきりします。

さらにわかりやすくするには、こう直すといいでしょう。

「この本は新書なので、値段が安い。しかし、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ」

まず骨格となる「この本は新書なので、値段が安い」を言い切り、その後に肉となる「値段が安くても、仕事に役立つ理由」を挙げています。一つの文章の中にあった「骨格」と「肉」を二つに分けたことで、よりわかりやすくなりました。

最初に挙げたNG例のような文章になってしまうのは、骨格を書き切らないうちに、肉づけしようとするから。まずは短い文章で骨格を書き、そこから肉を付け足していくのが、わかりやすい文章を書く基本です。

「一番言いたいこと」を最初にズバッと言い切れ!

この話をすると、「何が『骨格』なのかよくわからない」と言われることがあります。でも、難しく考えることはありません。「自分が一番言いたいこと」を、最初に書けばいいだけです。

企画書なら、冒頭で「私はこれがやりたい」と言い切ります。「私は東京駅に観覧車を作ります」と骨格を書き、「なぜなら東京駅には娯楽が少ないからです」「東京駅の一日当たりの利用者はこの五年間で約六万人も増加し、 憩いの場が求められています」といった肉は、あとで付け足せばいいのです。これで、企画した人の思いが相手にはっきり伝わる文章になります。

ところが多くの人は、まず前提から入ります。「社会的背景」「商品開発の意図」「消費者の動向」といった前置きが延々と続き、読み手が疲れた頃に、ようやく「私は東京駅に観覧車を作ります」という一文に辿り着く。これでは書き手の熱意は伝わらないし、アイデアのインパクトも薄れてしまいます。

たとえば、女性にプロポーズする言葉として、「僕は年収が高いし、家も購入済みだし、三男で親の面倒は見なくていいから、結婚してください」とは言わないはず。まずは「あなたが好きです。結婚してください」と伝えるでしょう。それが、「一番言いたいこと」だからです。ビジネス文書でも、それは同じ。ムダな前置きは一切不要です。

「思い」がないと、読み手の共感を得られない

とくに今は、ビジネスの企画や提案でも、「自分の思い」を伝えることが重要になっています。

「高齢者が暮らしやすい世の中にしたい」

「子供たちの未来のために、環境に優しい社会を作りたい」

最初にこうした思いを伝えたうえで、「だから私たちは、こんな商品を作りました」と説明を付け加える。これがプレゼンの基本になりつつあります。

ひと昔前なら、まずは商品の性能やスペックをアピールすることが最優先でした。つまり企画書でも、最初に来るのは「何を作るのか(What)」でよかったのです。その後で「どうやって作るのか(How)」を書き、最後に「なぜ作るのか(Why)」を付け足せば、企画を通すことができました。

しかし現在は、性能の良さを伝えても、よほど他社との差が大きくない限り、消費者には響きません。消費者が買いたいと思うのは、「なぜ私たちの会社はこの商品を作るのか」という「Why」に共感した時です。

「Why」に共感した人は、その会社のファンになります。そして今の時代にビジネスで勝るのは、ファンを獲得した企業です。新型のiPhoneが発売されるたび、店舗前に長蛇の列ができるのは、Appleのファンがそれだけ多いということ。前の機種とスペックやデザインがほとんど変わらなくても買ってくれるのは、モノそのものではなく、そこに込められた思想に共感しているからです。

「仮説」を立てたら「Why」で掘り下げる

企画や提案のために文章を書くなら、「自分はなぜこれがやりたいのか?」を掘り下げる作業が欠かせません。

企画を立てようと思った時、自分の中にアイデアの元になるネタがいくつかあるはずです。それは、自分の直感だったり、取材や観察によって得た情報だったりします。

そこから色々な連想を広げていくと、アイデア同士が結びつき、どこかで「自分が語りたいストーリーは、きっとこれだ」という一本の線が見えてきます。つまり「仮説」が立つわけです。

この仮説が自分でも納得のいくものなら、それが文章の「骨格」になります。

そこで今度は、この仮説を「Why」で掘り下げましょう。

「自分は『文章の書き方』に関する書籍を作るべきだ」という仮説なら、「なぜ『文章』がテーマなのか?」「なぜ単行本ではなく新書なのか?」「なぜビジネスマン向けなのか?」などと、自分に何度も「なぜ?」を問いかけてください。

するとある段階で、「どうしたら実現できるか」という「How」が出てきたり、さらに細かく「誰とやるか(Who)」「いつやるか(When)」「どこでやるか(WhenWhere)」を検討することになります。

途中で行き詰まったら別の仮説を立ててみる

それらを考え抜くと、最終的に「だから自分はこれをやりたい」という「What」が明確になります。つまり、最初に立てた仮説に戻るわけです。こうして上から下へと掘り下げていき、最後にまた一番上の仮説に戻ることができれば、それは文章の「骨格」として正しいと言えます。

企画書を作る時も、最初に「骨格」を書き、あとは「5W1H」で掘り下げた内容をそのまま肉づけすれば、わかりやすい文章が完成します。

もちろん、「なぜ?」で掘り下げた結果、途中で行き詰まることもあるでしょう。

「あれ、なぜビジネスマン向けでなくてはいけないんだ?」

そうなったら、最初の仮説が企画として成り立たない証拠。その場合は、またネタに戻って発想を広げ、別の仮説を立ててから、「なぜ?」で掘り下げる。この作業を繰り返していけば、企画そのものがしっかりしたものになると同時に、文章にまとめるのもラクになります。

「なぜ」を突き詰めれば魅力的なフレーズが生まれる

「Why」で掘り下げる作業をすると、読む人を惹き付けるキーワードやキャッチフレーズも浮かびやすくなります。

拙著を例にとって恐縮ですが、今年出版した『マジ文章書けないんだけど』は、タイトルが秀逸だとお褒めの言葉をいただきます。一緒に本を作ったスタッフとブレストする中で出てきたフレーズを書名にしたのですが、それは私たちが「なぜこの本を作るのだろう?」という問いを突き詰めた結果です。

最初に「文章を書けない人のための本」という骨格があり、「なぜ文章が苦手な人の本が必要なのか」を話していたときに、ふとスタッフから「『マジ文章書けない』みたいな若い人に読んでほしい」というひと言が飛び出しました。これは私たちが散々「Why」を繰り返したからこそ、出てきたフレーズであることは間違いありません。

こうした言葉遣いは、語彙の豊富さやセンスが必要だと思われがちです。しかし誰にとってもわかりやすく、心に届くフレーズを書くのに、難しい言葉はいりません。

大事なのは、文章の骨格を決めることと、「なぜ?」を使って掘り下げること。これさえできれば、誰にでも「わかりやすく、メッセージが伝わる文章」が書けるはずです。

前田安正(まえだ・やすまさ)〔株〕朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長/未来交創ビジョンクリエイター
早稲田大学卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋本社編集センター長補佐、大阪本社校閲マネジャー、用語幹事、東京本社校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを歴任。国語問題、漢字幹事についての特集や連載、コラムを担当。朝日カルチャーセンターのエッセイ教室や早稲田大学生協主催の就職支援講座にも出講。「文章の直し方」など、企業の広報研修も多数手がける。著書に、『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)などがある。(『The 21 online』2017年11月号より)

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