AmazonやGoogle、Facebookなど国際IT企業の金融市場参入が加速する中、「Google銀行」や「Amazon銀行」誕生の可能性について議論が持ち上がっている。
2017年11月の欧米メディアの報道によると、米国の金融監督官が「銀行とIT企業の合併」について柔軟な見解を見せ始めているという。現時点では非銀行機関が許可なく銀行業務を行うことは規制によって堅く禁じられているが、規制緩和が実施された場合、国際IT銀行が誕生してもおかしくはない。
しかし「大手IT企業は銀行業務には関心がない」と、こうした可能性を否定する声も少なくはない。
世界経済フォーラムが予測する「銀行にとっての脅威」
2017年8月、世界経済フォーラム(WEF)はFinTechの展望を予想する報告書の中で、大手IT企業が銀行にとって脅威となり得る可能性を指摘した。AI(人工知能)やビッグデータ、クラウドなど最先端の技術を武器に、金融産業の構造を大きく揺るがすというのだ。
すでにこれらの企業は、長年にわたりマスターカードやVISAが支配してきた決済市場を着実に変え始めている。さらには例えばAmazonとFacebook、ウォルマート・ストアーズ(Wal-Mart Stores)といった競合が提携して融資分野に乗りだした場合、いずれゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなど国際大手銀行の存在を脅かす可能性もささやかれている。
GoogleやAmazonの金融市場参入はどこまで加速するのか、Google銀行あるいはAmazon銀行は生まれるのか―こんな疑問がわきでるのも不思議ではないだろう。
国際IT企業の狙いはサービス向上と利益拡大?
この点に関しては2014年、フォレスター・リサーチのアナリスト、オリウィア・バーダーク氏が興味深い報告書を発表 している。結論からいうとバーダーク氏の答えは「ノー」だ。
バーダーク氏はGoogleの金融市場進出(主に決済、お金の管理、価格比較、ファイナンシャルアドバイス分野)がますます加速すると予想する反面、GoogleあるいはAmazon、Appleといった大手IT企業の狙いは銀行業務そのものではなく、「消費者にとってより良い金融サービスの提供にある」と指摘している。
つまりこれらのIT企業のFinTech参入は、「消費者の声に耳を傾け、市場の需要を自社の利益拡大に上手くつなげた結果にすぎない」ということだ。決済市場への進出を例に挙げると、利便性が高くコストの低い決済法を消費者に提供することで消費意欲を煽り、新たな顧客層を拡大し、利益に上手く反映させている。
ワンクリックで購入・決済が完了するAmazonの「1-Click注文」が代表的な例だろう。「1-Click注文」による売上増加の正確な数字は公表されていないが、平均的なショッピングカートの途中放棄率が70%というデータから、5%前後と推測する専門家が多いようだ。このサービスが導入された2011年、Amazonの売上は481億ドルだった。「1-Click注文」の売上増加率を5%と想定すると、年間約24億ドル相当の売上増加に貢献している(ミディアムより )。
「グーグル・ウォレット(Google Wallet)」 も同じ発想だといえる。Googleは最近インド専用のデジタル決済アプリ「Tez」をリリースしたばかりだが、急成長中のインド市場に参入する戦略のひとつであることは明らかだ。ここでの本来の意図も銀行業務ではなく、消費者市場の開拓やデータ収集にあるものと推測される。
優秀なFinTech人材の発掘に熱心なAmazon
GoogleとAmazonの2社に焦点を絞って比較した場合、Amazonの方が金融市場に対する意識が強い印象を受ける。
意外と知られていない事実だが、Amazonは自社のFinTech部門強化に向け、米国やインドで優秀な技術者を頻繁に募集している。自社ウェブサイト上で現在(2017年12月15日)も募集中なのは、ソフトウェア開発エンジニア やリテールFinTechのプログラムマネージャー、 アプリケーション技術者 など。勤務地はシアトルやインド中南部のハイデラバードが中心だ。ハイデラバードといえば宇宙開発やバイオテクノロジー関連の研究の中心地であり、国際的にも高水準を誇る理工学系高等教育機関インド工科大学ハイデラバード校があることで知られる。
募集の意図は「Amazon FinTech Paymentチーム強化」とされているが、それと同時に自社の「爆発的な成長」には優秀なFinTech技術者が不可欠である点を強調している。そうした視点から見ると、既存の領域を拡大あるいは関連性のあるFinTech領域へと枝分かれさす可能性も考えられなくはない。
最強のFinTechチームを育てあげ、これまで培ってきた最先端の技術や経験を融合させることで、ライバルには真似のできない最強の金融システムを築きあげれる潜在性を存分に秘めている。
金融監督官「非銀行系の銀行市場参入はプラス効果をもたらす」
金融システムの在り方に変化の兆しが見え始めた今、金融規制を専門分野とする米国の弁護士キース・ノーアイカ氏は、「銀行とコマースを別々の領域に分け隔てておくことが、果たして現代の金融システムに適しているのか」という疑問を投げかけている (フィンエクストラより)。
ノーアイカ氏は米国の通貨監督庁に所属していた経験もあるシニアクラスの金融監督官で、「非銀行機関の銀行業務許可を発行することで市場の競争を促進し、メガバンクの独占市場にともなうリスク軽減につながる」と主張している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)