キッコーマン <2801> の「減塩しょうゆ」が健康に良いという話ではない。同社の株価が私たちの「年金受給」に影響するかも知れないという話だ。12月11日、キッコーマンの株価は4690円と過去最高値を更新した。今年8月の年初来安値からは5割以上も上昇している。

実は、キッコーマンの株を買っているの投資家の中には、私たちの年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の「ESG投資」も含まれている可能性が高いのだ。今回は日本でも高まりを見せている「ESG投資」とキッコーマンの話題を紹介しよう。

キッコーマンが通期予想を上方修正

キッコーマン,株価
(画像=Thinkstock/GettyImages)

11月2日、キッコーマンが発表した2018年3月期の中間決算は売上が前年同期比9.0%増の2144億円に、同じく本業の利益を示す営業利益も同12.5%増の190億円となった。

背景には主力の醤油・食品の好調が挙げられる。国内では醤油の「いつでも新鮮」シリーズが需要を牽引しているほか、健康志向の高まりで豆乳飲料やデルモンテのトマトジュースも好調だ。また、海外部門も日本食ブームで順調に売上を伸ばしている。

キッコーマンは中間決算を受けて、通期の予想売上を4138億円から4298億円(前年同期比3.9%増)、営業利益を345億円から360億円(同4.3%増)に上方修正した。営業利益ベースでは6期連続の増益となり、4期連続で過去最高益を更新する見込みだ。成熟が進む国内食品市場において、キッコーマンはファンダメンタルズの好調な企業であることは間違いない。

「ESG投資」とはどんな投資?

もっとも、キッコーマンの株価が強いのはファンダメンタルズだけではないとの指摘もある。その背景の一つとして前述の「ESG投資」が挙げられる。

「ESG投資」とは、株式投資において企業のファンダメンタルズのみならず、環境対策(Environment)、社会問題への取り組み(Social)、企業統治(Governance)の3つの要素を重視して投資するスタイルのことだ。それぞれの頭文字から「ESG投資」と呼ばれている。

「ESG投資」の意義は企業も投資家もただ利益を追い求めるのではなく、将来の地球や人類の子孫のために「環境や社会的責任に配慮し、持続可能(サステイナブル)な社会の構築に貢献すべき」という理念にある。2006年に国連が提唱したことから、年金運用においてもグローバル・スタンダードとして浸透しつつある考え方だ。

3つの「ESG指数」に採用されるキッコーマン

世界のESG投資の統計を2年に一度集計しているGSIA(グローバル・サステイナブル・インベストメント・アライアンス)によると、2016年における世界のESG投資は約22兆8000億ドル(約2600兆円)と2014年から25%の伸びを示している。また、全運用資産に占めるESG投資の比率はグローバルで26%、先行する欧州では53%、米国では22%に達しているが、日本ではわずか3%にとどまっているのが実情だ。

日本のGPIFが今年から本格的に「ESG投資」をスタートしたのは、このグローバルなトレンドにキャッチアップするためと見られる。ちなみに、日本の国民年金を運用するGPIFの資産は約157兆円と世界最大級の規模を誇る。

今年7月、GPIFは日本株の3つの「ESG指数」を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始したことを明らかにした。その指数とはFTSEの「FTSE・ブロッサム・ジャパン・インデックス」、MSCIの「MSCI・ジャパン・ESG・セレクト・リーダーズ指数」、「MSCI・日本株女性活躍指数」である。

報道によるとGPIFは日本株の「ESG指数」に対するパッシブ投資を今後3〜5年かけて3兆円に引き上げる方針とも伝えられている。なお、上記3つの「ESG指数」のいずれにも組み込まれている銘柄は66社で、キッコーマンはそのうちの1社だ。同社は前述のファンダメンタルズはもとより、ESG投資の観点からも有望な企業と評価されているのである。

ESGが企業価値を大きく左右する

ところで、ファンダメンタルズは会社の決算等の「数字」で評価できるのに対し、ESGは「相対評価」になるのが特徴の一つである。

「相対評価」とはWebサイト、アニュアルレポート、CSR報告書、有価証券報告書などの情報をもとにアナリストが様々な項目をスコアリングし、ランキングする中で評価するものだ。たとえば、ディスクロージャー姿勢、社外取締役の数、女性や外国人の登用などが重要な要素になっていると考えられ、それらのスコアで上位にランクインした企業が「ESG投資」の観点から優れた企業ということになる。

つまり、上場企業が「ESG指数」に採用されるだけでも素晴らしいことなのであるが、キッコーマンは先に述べた通り3つの「ESG指数」に採用されており、それだけ有望視されていると見ることができる。

ちなみに、キッコーマン以外で3つの「ESG指数」に採用された銘柄には日清製粉 <2002> 、帝人 <3401> 、昭和電工 <4004> 、資生堂 <4911> 、TOTO <5332> などがある。そして、それら企業の株価はいずれも似たような右上がりのチャートを形成していることが話題になった。GPIFや他の外国人が運用している「ESG投資」の買いが入った可能性が高いと筆者は見ている。

ただ、注意を要するのは「ESG指数」はスコアリングを定期的に見直して銘柄の入れ替えをする傾向にある点だ。筆者としては「(ESG指数の)構成銘柄の除外・新規採用」のデータをできる限り迅速に公表して欲しいと常々感じている。それは「ESG投資」を広く普及するためにも必要なことだろう。

ともあれ、GPIFが本格的に「ESG投資」をスタートする中で、日本でもESGに対する取り組みが企業価値を大きく左右する時代を迎えつつあることは間違いなさそうだ。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。