株主優待は企業が行う株主還元で、上場企業の35.5%となる1300社以上が実施している。ギフトカードや自社サービスの割引券、食品メーカーなどでは自社製品の詰め合わせなどがもらえることが多く個人投資家には人気だが、クルマ関連企業の株主優待は何がもらえるのだろうか?

自動車・二輪車メーカーでは株主優待はほとんどない

株主優待,自動車産業
(画像=PIXTA)

ワールドワイドで自動車やバイクを販売する日本メーカーだけに株主優待も期待してしまうが、完成車メーカーで株主優待を実施している企業は少ない。

今や世界のトップ企業となったトヨタ <7203> は実施しておらず、自動車、二輪車メーカーの中でもホンダ <7267> とスズキ <7269> 、ヤマハ発動機 <7272> が行っているだけだ。

ホンダは鈴鹿サーキットとツインリンクもてぎの優待券(1回分) のほか、応募制で定員を超えた場合は抽選になるがホンダ主催のレースやイベントへの招待が受けられる。

スズキはハチミツと岩塩の詰め合わせ、ヤマハ発動機は所有株数と保有年数によるポイント制になっており、ポイント数に応じ地元静岡などの名産品や社会貢献基金への寄付ができる。

またJリーグのジュビロ磐田、ラグビーのヤマハ発動機ジュビロの観戦チケットとも交換できるのが面白いところだ。

自動車メーカーに株主優待が少ないのは、配当を重視しているからともいえる。 株主優待は個人株主の獲得や企業価値向上を目的とした還元方法でもあり、国内の株主のみに渡されている。

グローバル企業となった自動車メーカーは海外の株主や投資信託、ファンドなども多く、株主優待を受け取れなかったり、法人としてもらっても使い道に困ったりする場合もある。多くの自動車メーカーが株主優待よりも配当を優先している理由は、株主の公平性を確保するためとも考えられる。

また自動車メーカーは、もともと個人株主の持分が少ないことも理由の一つとして考えられる。企業全体の個人株主の持ち分比率の平均が約25%程度に対し、一番多いトヨタでも21.3%、ホンダは9.2%、日産は12.1%と低い。

トヨタは個人投資家向けのイベントの開催や長期保有にメリットがある「AA型種類株式」を発行するなど、個人株主の獲得に力を入れ始めている。

個人株主はこれまで株式の事務コストがかかり歓迎されない株主といわれてきたが、最近ではNISAなど個人の株式投資環境も整備され、長期資金の調達先として企業から注目を集めるようになってきた。

今後トヨタにならい、他メーカーでも個人投資家を増やす方針になれば、株主優待が復活する可能性もあるかもしれない。

スズキの株主優待がハンガリー名産品なワケ

数少ない自動車メーカーの株主優待の中でも異彩を放つのがスズキのハチミツと岩塩、共にヨーロッパの名産品だ。

可愛いクマのボトルと瓶に入ったハンガリー産のアカシアハチミツと、ドイツのクリスタル岩塩の詰め合わせが届けられる。

本社所在地の静岡県浜松市の名産品でもなく、自動車メーカーの株主優待としては違和感のある株主優待だ。

実はスズキは1992年からハンガリー共和国へ進出し、マジャールスズキという現地法人で4輪車の生産を行っている。欧州で販売するスイフトなどの生産を行うほか、日本国内向けのSX-4やエスクードもマジャールスズキ製だ。

スズキが進出した当時ハンガリーは共産圏から自由経済へ移行したばかり、苦しいハンガリーの経済状況を憂慮したスズキが名産品のワインなどを日本に輸入し紹介した。

その後関連会社のスズキビジネスが事業を引き継ぎ、ワインだけでなくハチミツや手工芸品などの輸入を行っており、株主優待と同じものがネット通販でも購入できる。ちなみにドイツはスズキの欧州での販売拠点があり、岩塩も同じ理由だろう。

自社の利益追求だけでなく進出した国の外貨獲得に協力することで経済発展を手助けし、ともに発展していくスズキの企業姿勢の表れともいえる株主優待といえる。

クルマ関連企業の株主優待に注目

完成車メーカー以外のクルマ関連企業では、株主優待を行っているところもある。 自動車プレス大手のユニプレス <5949> では保有株数と期間に応じて付与されるポイントで、オリジナルグッズや食品などカタログギフトの中から好きな商品を選ぶことが可能だ。

ユニプレスも交通遺児等育成基金などへの寄付が選べるようになっており、社会貢献も株主優待のトレンドになっている。

自動車部品メーカーのテイ・エス・テック <7313> や自動車向け機械工具を製造するフルサト工業 <8087> もカタログギフト、カーケミカルのソフト99コーポレーション <4464> は自社製品に加え、持ち株数が500株以上で関連会社のサービスなどを受けることができる。

名古屋市に本社を置くVTホールディングス <7593> は日産やホンダなどの新車ディーラーや中古車販売、レンタカー事業を行っており、新車・中古車購入時に3万円、車検時に1万円、レンタカー利用時の割引券がまとめてもらえる。

当然ながら利用できるのはVTホールディングスが経営するディーラーに限られるが、マイカーの買い替えを検討中の株主にはピッタリの優待といえる。

自動車タイヤメーカーの東洋ゴム <5105> は株主がトーヨータイヤまたはニットータイヤを購入した場合、QUOカードが贈呈される。

1本から3本購入で1,000円、15インチ以下4本以上で2,000円、16インチ以上4本以上で3,000円とサイズと本数で金額が変わる。

株主に送られる応募カードとタイヤ購入時の領収書を送付する手間がかかるが、スタッドレスタイヤの購入やタイヤ交換時期を迎えているなら嬉しい株主優待といえる。

カーライフをオトクにする株主優待はこれ

クルマ好きならカー用品店の株主優待がおススメだ。千葉県を中心に店舗展開するオートウェーブ <2666> は、所有株数に応じ900円~1万800円分の買い物割引券がもらえる。

イエローハット <9882> では、1,000円の買い物毎に使用できる300円割引券が10~50枚もらえ、金額相当では3,000円~1万5,000になる。

オートバックスセブン <9832> は1ポイント1円で利用できる株主優待のポイントカードに、3,000~15,000ポイントが付与される。

両社とも年2回株主優待があるので、車検やオイル交換、アクセサリーの購入などでカー用品店を日常的に利用しているのであれば、使い勝手の良い株主優待だろう。

ただしオートバックスセブンは2018年3月期以降に株主優待制度の変更があり、短期保有株主への優待が少なくなるので注意したい。

コインパーキングを利用する機会が多いなら、タイムズを展開するパーク24 <4666> の株主優待が気になるだろう。

持ち株数により2,000円~1万円のタイムズチケットがもらえ、全国のタイムズだけでなくグループ会社のタイムズカーレンタルや、温浴施設のタイムズ スパ・レスタでも使用できる。

新車割引や中古車の割引などでは使う機会が限られるが、カー用品店やコインパーキングなどカーライフで日常的に使える株主優待は使い勝手が良さそうだ。

株主の特典は株主優待と配当だけじゃない

株主は経営に参加する権利があり、株主総会に出席し議決権を行使する事ができる。郵送やインターネットでも議決権は行使できるが、株主総会に出席すれば御礼としてお土産がもらえることも多い。

菓子やタオルなどの雑貨が多いが、株主優待のない自動車メーカーでも魅力的なお土産が渡されるケースがある。

トヨタの2017年度株主総会のお土産は、WRC参戦1年目で優勝したヤリス(日本名ヴィッツ)を再現した1/42スケールサイズのミニカーが渡された。トミカより大きく精巧にできているうえにプラスチックケースに入っているので、そのままディスプレイする事ができる。

ホンダのお土産はスーパーカブの刻印が入った金属製のキーホルダーで、2016年度はNSXの刻印が入っていた。

障がい者の社会的自立の支援を目的とするホンダの特例子会社であるホンダ太陽のレーザー加工技術を使用しており、キーホルダーには社会貢献の意義も含まれている。

両社とも粗品とは呼べないほどクオリティが高く、非売品だけにクルマ好きやコレクターには垂涎(すいぜん)の品だろう。

ただし株主総会のお土産は毎年決まったものがもらえるとは限らず、企業の業績や株主数によっても、お土産のレベルが変わってしまうこともある。

自動車メーカーではないが、数年前1万円程度する自社建機の精巧なミニチュアモデルをお土産に配っていた日立建機は、2016年度にトミカに変更になり2017年度は廃止されてしまった。

株主総会で渡されるお土産は、「出席する株主と出席できない株主との間で不公平感が生じる」との理由で廃止する企業も多くなってきている。株主優待や配当などと違い、確実にもらえるものではないということだけは注意しておこう。

またトヨタは愛知県豊田市、スズキは静岡県浜松市など本社所在地で株主総会を開くケースも多く、近隣に居住していなければ交通費も必要になる。

株主総会は平日日中に行われるため、サラリーマンであれば時間の都合も大変だ。ここは一旦株主の本来のあり方に戻り、メーカーの経営状況や歴史を知る機会として株主総会に出席してみるのはどうだろうか。

日産自動車 <7201> は総会終了後に懇親会が設定され、会社幹部と話ができる。マツダ <7261> やスズキは過去のクルマを展示した記念館や、隣接した工場の見学などに参加が可能だ。

ひいきのメーカーの株主であれば直接企業の状況を肌で感じることができ、より一層そのメーカーが好きになるだろう。(ZUU online編集部)